第25話 会話

「……2人とも、大丈夫か?」


 あれから1週間が経過した。

 プレイヤー狩りに襲われた2人は、あの日以降ずっと入院している。そして俺も、毎日お見舞いに来ている。友達だから。


「えぇ、アンタが毎日ポーションを届けてくれるからね。おかげさまで焼け爛れた皮膚も、グチャグチャになった四肢も回復しつつあるわ」

「ほ、本当にありがとうね、志苑くん!!」

「構いません。2人が治ってくれれば、それで」


 最近、アプリのアップデートで【ショップ】という機能が追加された。現金またはアイテムを消費することで、アイテムを購入できるという機能だ。


 俺はこの機能を用いて、ポーションを大量に購入している。ダンジョン攻略時に手に入れたアイテムを、全て投入して買えるだけ買っているのだ。


「でも……アタシたちのためにポーションを爆買いするなんて、本当に大丈夫なの?」

「そ、そうだよ。私たちの心配をしてくれるのはありがたいけれど、志苑くんのためにも使って欲しいな」

「いいんですよ。友達の2人が元気になる方が俺は嬉しいです」


 そう告げ、本日の分のポーションを渡した。

 今日のポーションは、各4本だ。


「本当に……いつも悪いわね」

「あ、ありがとうね。志苑くん!!」


 2人はグビッとポーションを飲んだ。

 そして苦々しい表情を浮かべる。

 2人曰く、ポーションはゲロの味がするらしい。どうやらクソまずいみたいだ。


「……慣れないわね」

「そ、そうだね……」

「アプリの開発者も人が悪いよな。もっとコーラみたいな、美味しい味にしてくれてもいいのに」


 良薬口に苦しとはいうが、ゲロの味はやりすぎだと思う。それで怪我が完治するんだったら、なんて我慢もゲロの味では難しい。


 とりあえずこの調子でポーションを飲み続けていれば、あと1週間もすれば2人の傷は完治するだろう。それは、とても嬉しいことだが……つまりゲロの味に1週間も耐えなければならないということと同義だ。とても苦しいだろう。


「……志苑、プレイヤー狩りは見つかった?」

「いいや、まだだ」

「し、志苑くんは……無理しないでね」

「大丈夫です、安心してください」


 この1週間で、俺は格段に強くなった。

 レベルは上昇し、新たなスキルも得た。

 ランクだって、今ではC級だ。


 プレイヤー狩りはD級との話なので、今すぐ対峙したとしても確実に勝てるだろう。だがこの情報は1週間前のものなので、プレイヤー狩りもランクアップしている可能性は否めない。つまり油断している場合ではない、ということだ。


「それじゃあ、もう行くな」

「ダンジョンに挑むの?」

「あぁ、さらに強くなるためにな」

「……む、無理はしないでね」


 心配そうな表情浮かべる2人を尻目に、俺は病室を去った。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



─────────────────

【名 前】:霊田志苑たまだしおん

【ランク】:C

【職 業】:毒属性魔法師

【スキル】:身体強化 Lv22

      氷属性 Lv21

      煌星流闘術 Lv20

      闘 気 Lv18

      毒属性 Lv13

      状態異常無効 Lv MAX

      獣系特攻 Lv MAX

───────────────


「だいぶ強くなったな」


 ダンジョンボスを討伐し、スマホ画面を見つめる。この1週間で見違えるほど強くなったステータスが、そこに表示されていた。


 スキルレベルは20を超えるものが多くなり、さらに【獣系特攻】という獣系の魔物への10%のダメージ増が見込めるスキルも獲得した。


「プレイヤー狩りがどの程度強くなっているかわからないから、油断も慢心もできないな」


 2人の話によると、プレイヤー狩りは「プレイヤーを狩ることで、効率よく強くなれる」と語っていたらしい。そして掲示板を見る限りだと、今もなおプレイヤーの被害者は続出している。つまりプレイヤー狩りは、今も成長を続けているのだ。


 だからこそ、油断はできない。

 だからこそ、慢心はできない。

 だからこそ、レベルアップを続ける。


「2人の仇を取りたいのももちろんそうだが、それ以上に……俺は不安なんだな」


 俺は臆病で不安症なのだ。

 プレイヤー狩りの餌食になることが、どうしても怖いんだ。プレイヤー狩りは俺への個人的な恨みを持っているらしいので、それが余計に恐ろしいんだ。仇を取りたいのはもちろんだが、それと同じくらい不安なんだ。


 だからこそ、俺は鍛える。

 レベルアップをして、強くなる。

 強くなることでしか、この不安は解消されないから。レベルを上げることでしか、この不安は解消されないから。


「1日に2回ダンジョンを攻略しているが、今後は3回に増やそうかな。そうすればよりレベルアップの速度も、上昇することだろう」


 今もかなり無理をしているが、さらに無理をするべきか悩んでしまう。お母さんや2人は心配するだろうが、それでも殺されるよりはマシだろう。


「……さっさとプレイヤー狩りと出会って、この心労を解消したいんだけどな。道のプレイヤー狩りのことを考え得て、強くなり続けるこの時間がストレスだ」


 そんなボヤキをして、俺はダンジョンから帰った。さぁ……次のダンジョンへ急ごう。

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