第24話 就職

【ダンジョンを攻略したことで、これまでの経験値が合算されます】

【計算中……しばらくお待ちください】

【レベルアップしました!!】

【レベルアップしました!!】

【レベルアップしました!!】

【複数のスキルがレベル10に達しました】

【よって、ランクが上昇します】

【……お待ちください……】

【おめでとうございます!!】

【複数のスキルがD級になりました!!】


 途端に大量に訪れる、複数の通知。

 思わず驚いてしまうが、とにかく俺のランクが上昇したということだ。全身に感じるパワーも、これまでとは比べ物にならない。


【転職ダンジョンをクリアしました】

【これより、“転職の義”を開始します】


 ロボットを討伐後に出現した、新たなウィンドウ。なるほど、これから転職が可能になるワケか。


【最適な職業を選定しています】

【しばらくお待ちください】

【しばらくお待ちください】

【しばらくお待ちください】

 ………

 ……

 …


 10分後。


【お待たせしました】

【あなたの職業は、“毒属性魔法師”です】

【就職しますか? はい・いいえ】


 ……毒?

 イマイチピンとこないが、目の前に表示された“毒属性魔法師”のウィンドウを読む。毒々しく禍々しい、紫色の文字で書かれた文字を読む。


【毒属性魔法師】

 毒を主軸に戦う職業。

 転じて薬を作成することも可能。


 あまりにも簡素な文章だ。

 この文章では毒属性魔法師とやらがどんな職業なのか、詳細はわからないが……何はともあれ俺にピッタリの職業なのだろう。最適な職業を選定した、というウィンドウの記載があったからな。


 しかし……毒か。

 欲を言えば炎や雷など、主人公っぽいスキルを使える職業に就きたかった。まぁでも、陰気な俺にそんな主人公みたいな属性は似合わないか。


「何はともあれ、これが俺に適した職業なんだろうから、受け入れよう」


 そう思い、心を決めた俺は、「はい」とウィンドウに答えた。


 ウィンドウに返事をすると、体中が痺れるような感覚に襲われた。それは、まるで新たな力が身体に流れ込んでいくような感覚だ。そして、知識と技術が頭にどんどん詰め込まれていく。


 そして、瞬く間に痺れる感覚が収まり、何事もなかったかのように元通りになった。


【転職完了】

【“毒属性魔法師”に転職しました】

【毒魔法を習得しました】

【毒耐性が状態異常無効に進化しました】


 これで……毒属性魔法師になれたのか?

 それになんだか、妙な表記がたくさんある。

 とりあえず、ステータスを確認しよう。


─────────────────

【名 前】:霊田志苑たまだしおん

【ランク】:D

【職 業】:毒属性魔法師

【スキル】:身体強化 Lv11

      氷属性 Lv10

      煌星流闘術 Lv7

      闘 気 Lv3

      毒属性 Lv1

      状態異常無効 Lv MAX

───────────────


「お、おぉ……!!」


 自分のステータスを見て、感嘆の声を漏らす。

 スキルが6つになり、圧倒的に強くなった。

 身体強化と氷属性はレベル10の大台を悠に超え、職業欄も表示されるようになった。


 間違いなく、俺は強くなった。

 全身にハンパじゃないパワーを感じる。

 今だったら、プレイヤー狩りにも容易に勝てる気がする。いや、間違いなく勝てるだろう。推定D級のロボットを倒せたのだから。


「そうだ、毒魔法を発動してみよう」


 そう考え、俺は手を正面に向けた。

 すると、紫色の煙が立ち上るような、独特な魔法陣が出現し、周囲に毒の霧が広がっていく。これが俺の新しい力か。


 毒の霧を少し吸うと、鼻の中がピリッと痺れた。本能的に察したが、【状態異常無効】が無ければ、今の吸気で失神していたことだろう。学がない為毒の詳細はわからないが、強力な毒だということは理解できた。


 どんな生物にだって、毒は通じる。

 それは魔法師だって変わらない。

 つまり俺は、確実にプレイヤー狩り戦で役に立つスキルを得たのだ。アイツに絶対に勝てる、最高のスキルを手に入れたのだ。


「必ず……仇を取ろう」


 そうして俺は、帰還ゲートをくぐった。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 帰宅後、俺は泥のように寝た。

 そして、12時に起床した。


「おはよう志苑……なんだかお疲れね」

「あぁ、めちゃくちゃ疲れたよ」

 

 徹夜でダンジョン攻略は、さすがに体に応える。結局家に帰れたのは、早朝6時だったからな。


「志苑も高校生だから口酸っぱく注意はしないけれど、帰りが遅くなる時は一言言ってね。……あまり無理はしないでね」

「あぁ、わかっている」

「……夜はちゃんと寝てね」

「善処する」

「……アンタは母さんを置いていかないでね」

「……わかっているさ」


 俺の父さんは、宿直の警備員をしていた。

 宿直、つまり24時間拘束の労働は、父さんの肉体を蝕んでいた。さらに24時間の労働を終えた後に8時間労働を行う、通称『明け残』と呼ばれる労働が父さんの寿命をさらに削った。


 結果、父さんは40歳の若さで、この世を去った。元々身体が弱かったのに、長期拘束の仕事で無理が祟ったせいだ。


 だからこそ、母さんは徹夜を忌み嫌っている。愛した父さんを殺した、徹夜や夜勤という存在を恐ろしく憎んでいるのだ。1日に8時間以上は寝ろと、昔から俺に言ってきているのだ。自分自身も夜勤をしているのに。


「悪かったよ。今度からは必ず、21時には寝るようにするから」

「……本当よ? 約束できる?」

「約束する。もう徹夜なんて、二度としない」

「……わかったわ、信じるわね」


 21時に寝るなんて、高校生にはあまりにも健全すぎる。さすがに昼型人間の俺でも、せめて23時くらいまでは遊んでいたい。


 だが、これも母さんを安心させる為だ。

 しばらくの間は、21時に眠るようにしよう。

 そして起きるのは、6時とかにしよう。


「しつこいようだけど、無理はしないでね」

「あぁ……わかっているよ」


 残念だけど、その約束は守れない。

 俺はこれから、さらにハードなダンジョン攻略に赴くことになる。【毒属性魔法師】のレベルを上げて、プレイヤー狩りとまみえるまで出来る限り強くならなければならないから。


 母さんとの約束を守れないのは、非常に心苦しい。だが、こればかりは……仕方のないことだ。プレイヤー狩りへの復讐は、必ず完遂しなければならないのだから。


「……ごめんな、母さん」


 俺は小さく、謝罪を述べた。

 その謝罪は、母さんの耳には届いていない様子だった。

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