第23話 職業ダンジョン 4/4

「《中の氷砲コールド・キャノン》!!」

「《アイス・レーザー》」


 氷砲と凍線。

 それぞれがぶつかり合う。

 その衝撃で、大気は常にウネり続けてしまう。存在するだけで吹き飛ばされそうになるが、必死に耐える。


「《彗星斬》!!」

「《ダイヤモンド・ブレイド》」

「《恒星斬》!!」

「《フレイム・ブレイド》」


 ヤツは手をチェーンソーのような刃に変形させて、コチラの斬撃に抵抗してくる。大剣と刃が交差して、火花が飛び散る。


「ゴカクノヨウダナ」

「それは……どうかな!!」


 魔法も剣術も、一見互角のように見える。

 だが、剣技に関してはコチラに分がある。

 先ほどの剣戟で理解できたのだが、俺の剣とヤツの刃がぶつかり合った時に……少しだけヤツの刃が欠けたのだ。おそらくだが俺の剣の性能が、ヤツの刃の性能を上回ったのだろう。


 ヤツは高性能なロボットのようだが、まだその事実に気付いていない様子だ。ここが勝負の分かれ目になることを、俺は先に気付くことが出来た。


「《ライトニング》」

「うぉッ!?」


 今後の策を考えていると、ヤツは指先から電撃を放ってきた。俺は何とか避けることに成功するも、もしも食らっていたら危ないことになっていただろう。


「雷まで使えるのかよ」

「コンナキョウテキ、ハジメテダロウ?」

「……あぁ、その通りだ」


 そもそもこんな流暢に言葉を発する敵など、これまでに戦ったことがない。魔物でここまで流暢に会話が成り立つ敵なんて、俺にとっては初めてだ。いやそもそも、魔物なのかどうかも怪しいけどな。


「ドウスル、コウサンスルカ?」

「まさか、まだ俺は……全力を出していないんだぞ?」

「ソレハタノシミダ」


 シリコン製の顔面で、ニコッと微笑むロボット。その表情はとても人間ソックリなのだが、同時に不思議とひどく不気味に感じてしまう。そうか、こっちが正しい意味での『不気味の谷』なのだな。


 そんなことよりも、だ。

 俺は深く、息を吐く。

 そして──


「《闘気》」


 ゴウッと黄金の闘気オーラを纏った。

 黄金の黄金の闘気オーラはバチバチとスパークをして、その存在感をアピールする。地面は揺れ、大気はウネる。

 

 《闘気》の発動中は常時魔力を消費するが、身体能力が数倍に上昇する。つまり、この魔法は……決戦では非常に重宝する。


「ソレガキサマノホンキカ」

「あぁ、何か言いたいことでもあるのか?」

「アァ、スバラシイオーラダ。コレマデニナンドモプレイヤートタタカッテキタガ、キサマガモットモスグレタプレイヤーダトイウコトガリカイデキタヨ」

「……それはどうも」


 何故かわからないが、褒められた。

 うーむ、何とも言えない感情だ。


「キサマハヨイジョブニツキソウダナ」

「……お前、ここが転職ダンジョンであるってことを理解しているのか?」

「トウゼンノコトダ。ワタシハコノダンジョンノボスダカラナ」

「……不思議な敵だな」


 何とも知性の高い敵だ。

 ロボットだから、当然なのかもしれないが。


「サテ、モンドウハココマデニシヨウ」

「あぁ、それもそうだな」


 闘気オーラを纏い、俺は駆けた。

 同時に、ロボットも駆けだした。


「《彗星斬》!!」

「《サンダー・ブレイド》」


 2つの斬撃がぶつかり合う。

 だが、剣戟は無かった。

 俺の剣が、ロボットの腕を斬り飛ばした。


「ミゴトダ」


 そう発し、ロボットは俺から距離を取った。

 クソ、もう一撃を振るおうとしたのに。


「《ツイン・ブレイザー》!!」

「《廻斬剣》!!」


 ロボットは両手から同時に炎の剣を生成し、スピードを上げながら俺に突っ込んでくる。だが、俺は回転斬りでそれを迎え撃つ。回転しながら放つ斬撃は、炎の剣を跳ね返し、ロボットの体を切り裂く。


「ウオッ!?」


 ロボットはバランスを崩しながら後ろに跳び退く。そして、一瞬でバランスを取り戻し、次の行動に移る。その動きは、まるで生身の人間のようだ。


「《フレイムショット》」

「《中級の反射氷鏡コールド・リフレクター》」


 今度はロボットが火球を放ってきた。しかし、俺は氷の反射鏡でソレを反射した。反射された火球はロボットに命中するも、ダメージはほぼ通っていない。


「イイマホウダ」

「ありがとな」


 ロボットが褒める。

 俺はその一言を受け取り、次の行動に移る。


「《銀河斬》!!」

「《ダイヤモンド・ブレイク》」


 俺は地面を蹴って、ロボットに突進する。同時に、剣を振り下ろし、強力な斬撃を放つ。その一方で、ロボットもまた剣を振り上げ、俺の斬撃に対抗する。


 しかし、結果は明白だった。俺の剣は、ロボットの剣を断ち切り、その胸部を深々と切り裂く。深い傷から、青白い電気がバチバチと飛び散る。


「ウオッ!?」


 ロボットは驚いた顔を見せながら後ろに跳び退く。その動きは早く、傷から出る電気がまだ空中に残っている。


「《星屑斬》!!」


 俺は最後の一撃を放つため、剣を振り上げる。全身の力を込めて振り下ろすと、巨大な星の形をしたエネルギーが剣から放たれ、ロボットに向かって飛んでいく。


「グッ……」


 ロボットの右足が吹き飛んだ。

 だがソレでも、ロボットは戦意を失っていない。片足片手だけになっても、まだ戦う気でいる。頑固で強情なロボットだ。


「ヤハリキサマハ、サイコウノプレイヤーダ」

「意味のわからないことを言っていないで、覚悟を決めた方が良いぞ。次で決めるからな」

「アァ、ウケテタトウ」


 俺たちは再度駆け──


「《煌星斬》!!」

「《ブラック・ブレイド》」

 

 ──ロボットの首を落とした。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「……ワタシノマケダナ」


 首がコロコロと転がり、ロボットの肉体がガシャリと音を立てて崩れる。つまりロボットはこれ以上、戦うことはできないということだ。


 それなのに、ロボットは中々光の粒子へと変わらない。これはロボットがまだ生命力が残っている証拠か、あるいは魔物ではないが故に光の粒子に返還しないのか。どちらかは俺にはわからない。


「……お前、まだ生きているのか?」

「アァ、ナガクハナイガナ」

「だったら……俺の質問に答えろよ」

「……コタエラレルモノダッタラ、カマワナイゾ」


 地面に腰を落として、ロボットと眼を合わせる。


「まず1つ目、お前は……ダンジョン・サバイブについてどれくらい知っている? そもそもこのアプリは、いったい何なんだ?」


 この魔物は言葉を発する。

 つまりこのアプリについて、色々と知っている可能性が高いと言えるだろう。一刻も早く帰りたいところだが、情報収集できるのは今しかない。


 それにどのみち、コイツが消えない限りは帰還ゲートは出現しないしな。だったら今は、質疑応答に徹しよう。

 

「……キサマ、マサカナニモシラナイノカ?」

「……なんだ、その言い方。質問に答えろよ」

「……ザンネンダガ、ソノシツモンニハコタエラレナイ。ワタシノケンゲンデハ、クチニハデキナイノダ」


 何だよ、勿体ぶりやがって。

 それに人が無知であるかのような口ぶりを発して、マジで腹が立つな。コイツ、顔面を砕いてやろうか。


 おっと、待て待て。落ち着け。

 まだまだ聞きたいことは、あるのだから。


「次に、“チュートリアル”とはなんだ?」

「……ソレモドウヨウダ」

「……ポンコツロボットが」


 コイツ、何も教えてくれないな。

 マジで……何の役にも立たないな。 


「……ソロソロノヨウダ」


 ロボットは徐々に、光へと変わっていく。

 聞きたいことにも答えてくれずに、死んでいく。


「……サイゴニコチラカラ1ツ、キイテモイイカ?」

「……答えられるモノだったらな」

「キサマハ、ドンナショクギョウニツクノダ?」

「……まだ決まっていない」


 ロボットはため息を吐いた。

 そして、次には笑った。


「キサマノミライガ、タノシミダ」


 そう言い残して、ロボットは消え去った。


【転職ダンジョンをクリアしました】

【これより、“転職の義”を開始します】



 ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



 読者の皆様、お疲れ様です。

 作者の志鷹志紀です。

 ここまで私の作品をお読みいただき、心より感謝申し上げます。


 皆様の温かい応援のおかげで、私の作品が現代ファンタジーの総合ランキングで100位以内にランクインしました。皆様には心より感謝申し上げます。


 作品のさらなる発展のために、大変恐縮ですが楽しんでいただけた方々には、星の評価をいただければ幸いです。ご意見や感想も大歓迎です。どんな形の評価も、私にとって貴重なフィードバックとなります。


 カクヨムコンで大賞を取るためにも、みなさまご協力のほどよろしくお願いします。


 長文となり、恐縮ですが、読者の皆様のご支援を心よりお願い申し上げます。

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