第21話 転職ダンジョン 2/4


「ゴブラァアアアアアア!!」

「ガルゥウウウウウウウ!!」

「ベァアアアアアアアア!!」

「ガゴォオオオオオオオ!!」


 そこにいたのは、総勢50匹の魔物の軍団。

 踵を返そうとしたが、その瞬間に扉は自動的に閉まってしまった。ドアノブを捻ってみても、扉が開くことはない。


 俺は失敗した。


 この部屋の名称は、『モンスターハウス』。

 入室と共に多くの魔物が出現し、その魔物を全て討伐しなければ逃げ出すことのできない部屋だ。多くの冒険者を死に追いやってきた、最悪の部屋だ。


「これは……倒さないと帰れないのか……?」


 俺はひどく落胆した。

 そして、後悔した。

 あぁ……また選択肢を間違えた。


 ローブを着衣し、手には樫の杖を握ったゴブリン。ゴブリンメイジ、E級。

 銀色の美しい体毛を持つ、3メートルほどのオオカミ。シルバーウルフ、E級。

 1本1本が針金のように鋭い体毛を持つ、5メートルほどのクマ。グリズリー、E級。

 悪魔像を模した怪物。ガーゴイル、E級。


 他にも多種多様な魔物がワンサカだ。


 どいつもコイツも、聞き覚えのある魔物。

 そんな魔物が50匹。

 これは……骨が折れるぞ。

 これは……疲れるぞ。


 最初から全力クライマックスで行こう。

 躊躇も温存も、今は行わない。

 魔力が尽きるまで、或いは全滅するまで。

 俺は戦い続けよう。


「行くぞ!!」


 剣を握り締め、俺は駆けた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「《中級の氷部屋コールド・ハウス》!!」


 開幕と同時に、絶対零度の冷気を放った。

 冥界の冷気は部屋中に充満し、巨大な氷塊を生む。それによって──


「ゴブラッ……」

「ガルッ……」

「ベアッ……」


 巨大な氷塊に閉じ込められた魔物達は、動くこともままならずに絶命した。身動き1つ取ることも叶わず、そのまま動かななくなった。


 どれだけ強力であっても、ほとんどの生命は1絶対零度には耐えられない。それは魔物も変わらない。よって約半数の魔物が、光の粒子へと還っていった。


 一気に魔物を討伐できたが、安心はできない。俺が討伐できたのは、約半数だ。つまり……絶対零度に耐えた魔物がいる。


「だったら次は……これならどうだ!!」


 手の平に魔法陣を宿す。

 色は青。シンと冷たい魔法陣を。

 そして──


「《中級の氷針コールド・ニードル》!!」


 地面からズザザッと生えてくる氷の針。

 1メートルにもなる長さの針が、魔物を貫いていく。1本1本は細く脆いが、何本もの針によって魔物をズタズタに貫いていくのだ。


「ディァ……」

「ダグァ……」

「タロォ……」


 氷の炎に焼かれて魔物の多くが、そのまま崩れ去った。そして光の粒子に変わり、絶命。


「ガゴォオオオオオ!!」

「デモォオオオオオ!!」

「ディァアアアアア!!」


 生き残ったのは、3匹の魔物。

 それぞれがE級の中でも上位に君臨する強力かつ凶悪な魔物であり、それぞれがボスとして扱われてもおかしくはない魔物だ。そんな魔物が5匹ずつ、苦しい戦いになりそうだ。


「ガゴォオオオオオオ!!」


 悪魔の姿を象った石像の魔物、ガーゴイル。

 その強固な防御力に加えて、魔法耐性も非常に高い故に、この魔物は生き残ったようだ。氷針を浴びた影響で少しだけヒビが生じた個体もいるが、まだまだ戦える様子だ。


「デモォオオオオオ!!」


 大まかなシルエットは人間のソレ。

 だが背中にコウモリを彷彿とさせる翼を持ち、顔面はイソギンチャクのようになっている人外の悪魔、デーモン。ガーゴイルと同様に魔法耐性が高く、尚且つ強靭な生命力を持つが故にピンピンしている。


「ディァアアアアア!!」

 

 その見た目は、巨大なダチョウ。

 だが頭部はあまりにも大きく、まるで恐竜のソレに近しい。さらにダチョウよりも圧倒的に巨大で、推定3メートルもの巨躯を誇る魔物、ディアトリマ。


 コイツだけ他2匹とは違い、ダメージが非常に大きいように伺える。脚は1本欠損し、羽毛はそのほとんどが破けて文字通りの鳥肌を晒している。あと一撃でも与えれば、死ぬだろう。


「《中級の氷砲丸コールド・キャノン》!!」

「ディァッ……」


 氷の砲弾を放ち、ディアトリマを殺した。

 さて、残りは2匹か。これで戦いやすくなったな。


「ディアトリマとは違い、コイツ等はまだピンピンしている。つまり……頑張らないとな」


 一息吐き、駆ける。

 剣を握り締め、狙うは──


「《彗星剣》!!」


 刀身に星々の光に匹敵する魔力を宿して、デーモンを狙う。デーモンは腕でガードをするが、《煌星流闘術》は悪魔特攻をを有する剣技だ。故に刀身はスルリと腕を裂いて、デーモンの首を断った。


「デ、デモッ!!」

「……まだ生きているのか?」


 どこまでも、しぶとい魔物だ。

 首を絶ったんだから、死んでくれよ。

 生き物として、さっさと死んでくれよ。


 しかし……今の一撃で死なないとは、少々マズいな。中級魔法を連発したことにより、俺の魔力は枯渇気味だ。あと1発中級魔法を放てば、確実に魔力が切れるだろう。魔力が切れると人は意識を失う為、そうなれば……ゲームオーバーだ。


「《デモニック・ハンド》」


 困っていると、デーモンは魔法を放ってきた。デーモンの背後に漆黒の魔法陣が形成され、そこから瘴気に満ちた数本の腕が生えてきた。腕は俺のことを狙い、手を伸ばしてくる。


 腕はまるで関節などないかのように振る舞い、俺のことを掴もうとしてくる。あの瘴気の腕に触れてしまえば、俺の身体がタダでは済まないことは本能的に理解できた。


「《流星剣》!!」


 聖なる光の斬撃を放ち、腕を斬る。

 しかし、腕は切られるたびに新たなものが現れ、俺に襲いかかる。このままではいつまでたってもデーモンに攻撃を加えられない。俺は一つの決断を下す。


「《中の氷結界コールド・ドーム》!!」


 最後の中級魔法を放つ。これで魔力が切れてしまうが、それでもやるしかない。周囲に氷の結界を張り、デーモンの攻撃を防ぎながら距離を詰める。


 この魔法は強力な結界を張ると同時に、範囲内の敵を大きく弱体化させる魔法だ。デーモンの再生能力も、そして防御力もこれで一気に下がったハズだ。


「デモォオオオオオ!!」


 氷の結界の閉じ込められたデーモンは、俺への攻撃を辞めて結界から脱しようと結界を殴りつける。だが強力な結界が殴り崩されることなどなく、その行為は無駄だ。隙をついて、俺は剣を振り下ろした


「《恒星剣》》!!」


 灼熱の炎を纏った斬撃を、デーモンに放つ。

 俺の斬撃は、デーモンを切り裂いた。


「デモッ……」


 デーモンはついに倒れ、光の粒子になって消えていった。残りはガーゴイルだけだ。幸いなことに魔力はほんの少しだけ残っていたようで、まだギリギリ戦える。


 無理を承知で、俺は剣を握り締める。

 ここで倒れるわけにはいかない。

 唇を噛み締め、痛みで意識を留める。


「俺は負けない……!」


 ガーゴイルが地響きを立てながら突進してくる。俺は全てを賭けた一撃を繰り出す。


「《落星突》!!」


 全魔力を集中させ、煌めく斬撃をガーゴイルに突き刺す。ガーゴイルが勢いよく迫ってきていたことも相まって、その一撃がガーゴイルの胴体を貫いた。


「ガゴォオオオオオッ……」


 ガーゴイルも光の粒子になって消え去った。モンスターハウスにあった全ての魔物が消滅し、やっとのことでクリアできた。


 疲労と魔力の消耗により、俺の意識は次第に遠のいていく。しかし、モンスターハウスからの脱出が許されたことで、俺は安堵の息を吐く。


 そして、俺は意識を失いながらも、次の冒険に向けて微笑んだ。



 ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



 読者の皆様、お疲れ様です。

 作者の志鷹志紀です。

 ここまで私の作品をお読みいただき、心より感謝申し上げます。


 皆様の温かい応援のおかげで、私の作品が現代ファンタジーの総合ランキングで100位以内にランクインしました。皆様には心より感謝申し上げます。


 作品のさらなる発展のために、大変恐縮ですが楽しんでいただけた方々には、星の評価をいただければ幸いです。ご意見や感想も大歓迎です。どんな形の評価も、私にとって貴重なフィードバックとなります。


 カクヨムコンで大賞を取るためにも、みなさまご協力のほどよろしくお願いします。


 長文となり、恐縮ですが、読者の皆様のご支援を心よりお願い申し上げます。

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