第17話 特訓 2/3 【雨凛視点】

【雨凛視点】


 その日も、私たちはいつも通り特訓をしていた。

 強くなる、ただその一身に鍛える。

 志苑くんの足手まといにならないためにも、必死に。


「ふぅ……ぶふぅ……」


 息を荒くしながら、魔力を放射する。

 これまでは魔法を発動して魔力を消費していたけれど、つい昨日に魔力をそのまま放射する方法を発見した。この方法を使えば魔法を発動する手間を省きつつ、魔力を消費することができる。魔力を鍛えるのに、もっとも最適な特訓法だ。


 ただ……とても疲れるけれど。

 魔法を発動したことのない人には理解しずらいかもしれないけれど、魔力を消費することはひどく疲れるんだ。下級魔法を発動するだけでも、50メートルを走ったくらい疲れてしまうんだ。ただ体力的には疲れるけれど、実際は魔法発動には一歩も動いていないから……カロリーはこれっぽちも消費されないんだけど。


 私はちょっとだけ・・・・・・ぽっちゃり体型だから、人よりも少しばかり疲れやすい。それにぽっちゃり体型なせいで汗もたくさんかいてしまうし、たった数分の魔力放射で体はビショビショだしヘトヘトだ。私の足元には汗で水たまりが出来て、体操着は透けてしまう。またブラジャーが丸見えになっちゃった。


「ふひひ、し、志苑くん……喜んでくれるかな……」


 志苑くんはエッチだ。

 暇さえあれば、私のおっぱいを見つめている。

 本人は多分、無意識だろうけれど。


 別にそれは嫌なことじゃない。

 他の男子に見られるのは、嫌だけど。

 でも志苑くんだったら、別に構わない。

 それは多分……一目惚れしたから。


「まったく……またそんなこと言ってるの?」


 呆れながら詩葉ちゃんは、水を飲みながら私に近づいてきた。彼女も10キロ超のランニングを終えたからか、汗をたくさんかいている。その汗は私のものとは異なり、なんだかサラサラしていた。……私の汗は不摂生から、ベトベトしているのに。


 詩葉ちゃんはこの毎夜の特訓で、少しづつ強くなっている。体格や身体つきなんかは変わっていないけれど、明らかに体力が付いている。女性らしい身体つきだけど、その内には鋼のような筋肉があるのだと思う。……私とは違って。


 いや、別に私も自分の身体が嫌いなわけじゃない。

 前までは大嫌いだったけれど、志苑くんが喜んでくれるから今ではぽっちゃり体型に感謝している。むしろ、もっと太っても……って、私は何を言っているんだろう。


「何はともあれ、今日はもう終わる?」

「そ、そうだね。魔力も切れちゃったし」


 詩葉ちゃんも強くなったけれど、私もそれに負けないくらい強くなっている。特訓を始める前よりも1割ほど魔力量が増えたし、魔法の精度も上昇した。消費魔力を抑えることも出来るようになったし、魔法系として私は着実に強くなっている。


 ただ今日は魔力を放射しすぎて、魔力が完全に切れてしまった。これ以上は何もできないし、もう帰って寝ようかな──



「へぇ、同校のプレイヤーか」


 

 と、そんな時だった。

 とても嫌な感じのする声が聞こえたのは。

 振り向くと、そこには不良風の男性が立っていた。


 その男は『山優高校』の制服を着ていた。

 制服はかなり着崩していて、髪も金色に染めている。

 そして右手には、青い大剣を握っていた。


「……アンタ、誰よ」

「ぷ、ぷ、プレイヤー……?」

「おぉ、よくわかったな」


 そんな大剣を握っていれば、誰だって察しが付く。


「それで……何か用なの?」

「気の強そうな女だな。そこのデカデブ女も……へへっ、スケベだな」


 思わず悪寒が走る。彼の発言に対して。

 私は急いで、ジャージのジッパーを閉めた。

 透けたブラジャーを、彼に見せない為に。


 志苑くんに性的に見られるのは、別に構わない。

 だけど……それ以外の人は嫌だ。

 特に彼の視線は、とても不快だった。


「もう一度聞くわ。何か用なの?」

「最近、『プレイヤー狩り』が流行っているって話は聞いたことあるか?」


 私は掲示板をよく見るので、その話は知っている。

 その名の通り、プレイヤーがボコボコにされる事件が、最近頻発しているらしい。どんなにランクが低い者でも、一般人にプレイヤーが倒されるなんてことは考えにくいので……おそらくプレイヤーが犯人だと言われているんだ。


 掲示板ではみんな、戦々恐々としていた。

 E級のプレイヤーがボコボコにされた、なんて話もあるので犯人はそれ以上のランクというのが有力な説だからだ。ほとんどのプレイヤーがE級の中、ソレを越えるプレイヤーによる狩り……。自分たちよりも圧倒的に勝る上位者が狙っているなんて、考えただけでも恐ろしい。


「あの犯人さ、俺なんだよな」

「……なんですって?」


 その不良生徒は、あっけらんと答えた。


「知ってるか? プレイヤーを倒すと、スキルが強くなるんだぜ? ダンジョンでスキルを重複するのを待つよりも、ずっとこっちの方がコスパがいいだろ?」

「そ、そうなんだ。……もしかしてそれで、D級になったの?」

「あぁ、そうだ!! 何人も倒して、病院送りにしたぜ!!」

「最低ね……」


 私も詩葉ちゃんと同意見だ。


「それで……アタシたちも狩りに来たのね?」

「あぁ、そうだ!! お前たちがプレイヤーっていうのもそうだが、『山優高校』の生徒ってだけでも腹が立つからな!!」

「アンタに何があったのかは知らないけれど、アタシたちを倒すのは容易じゃないわよ」

「へッ、強がンなよ。泣かすぜ」


 詩葉ちゃんの手は震えている。

 当然だ。相手は志苑くんよりも強いんだから。

 D級の敵なんて、これまで対峙したことないんだから。


 だからといって、逃げるわけにもいかない。

 これ以上の被害者を防ぐ為にも。

 何よりも……彼のことは生理的に嫌いだから。


「俺の糧になれ!! ブチ犯してやる!!」


 下品な叫び声が、公園に轟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る