第16話 特訓 1/3 【詩葉視点】
【詩葉視点】
「さぁ、特訓よ!!」
5月25日、土曜日。19時22分。
アタシと雨凛は公園に来ていたわ。
理由は当然、特訓のために。
志苑がいてくれたおかげで、アタシたちはなんとかダンジョンを踏破できたわ。彼はオドオドしていて少し弱気だけど、その実力は確かなもので……アタシたちなんかじゃ、とても追いつけないレベルにいるわ。
だけど彼と一緒のパーティにいる以上、おんぶに抱っこの現状は絶対に変えないといけないわ。このまま彼に頼りっきりだなんて、情けなくて仕方ないから。
だからこそ、アタシたちは今日から秘密の特訓を始めることにしたわ。あの日以降彼とは出会っていないけれど、来週の土曜日にダンジョンを攻略する約束をしているわ。久しぶりに会ったアタシたちの強さに、驚いてもらうために彼には内緒にしているわ。
「ふぅ……そ、そうだね。頑張ろうね!!」
「雨凛、アンタ……デカくなってない?」
雨凛は元々ぽっちゃりとした体型をしていたけど、10日ぶりに会った彼女はなんだかこれまで以上にその体つきが目立っていたわ。彼女の着ているジャージはピッタリとしているし、今にも破けそうだわ。普段よりも少なくとも、二回りは大きく見えるわね。
雨凛の豊かな胸は体操着の布地を大きく引き伸ばし、ジャージのジッパーが閉まらないほどだわ。大きな胸に布地を持って行かれて、タプタプのお腹が露わになり、マフィントップを形成しているわ。
雨凛のボディラインは、まるで盛り上がった波のように、ジャージの中で波打っているわ。……ただ立ってるだけで息が荒くなって、そのせいで脂肪が揺れているのね。
「アンタ……もしかして、あのパフェを毎日食べてる?」
「そ、そんなことないよ!! ぶふぅ……」
ダラダラと流れる汗をハンカチで拭き取りながら、目を泳がせる雨凛。いやいや、その反応は……どう見ても図星でしょ。
5キロはあるパフェを、毎日完食。
摂取カロリーは、計算するのも恐ろしいわ。
少なくともこの数日で、10キロは肥えたでしょうね。身長が195センチもあるから、その体重の数値ほどデブっていう印象はないけれど……それでも十分太っているわね。
「アンタ……ここまで来ただけでそんなに息が上がって、本当に戦えるの?」
「だ、大丈夫!! 魔法は打てるから!!」
「まぁ……それはそうね。前衛のアタシみたいに、俊敏な動きは必要ないものね」
「そ、そ、それに、防御力も上がったよ!!」
そんなに脂肪がつけば、そりゃ上がるでしょうね。暑さ以外のどんな攻撃も、そのタプタプの脂肪が防いでくれるでしょうから.5月末とはいえ、19時の涼しい気温でダラダラと汗をかいているんだから、熱への耐性は皆無でしょうけれど。
でも確かに言われてみれば、基本後衛で魔法を放っている雨凛に、この体型はマッチしているかもしれないわね。敏捷性を捨てて、防御力に特化するのは道理が通っているわ。太っていくのは、女性としてはどうかと思うけれど。
「でも、女性として……少しは痩せたら?」
「だ、大丈夫だよ!! ぽ、ぽっちゃり女子の時代が、今到来しているんだから!!」
「防御力や時代云々もそうだけど、それ以上に……健康面が心配だわ」
「うぅ、それは……す、少しは運動するよ」
わかってくれて嬉しいわ。
動けなくなるほど太ったりして、病気になられたら悲しいものね。ましてや太り過ぎが原因で死なれたりしたら、目も当てられないわ。
だけど……雨凛がこんな体型になっても、アイツはきっと興奮するでしょうね。この間のダンジョン攻略後に雨凛が抱きついた時に、恍惚とした笑みを浮かべていたものね。
アイツが今の雨凛の姿を見て興奮したら、きっと……雨凛はダイエットをやめるでしょうね。……それだけは阻止して、絶対に痩せさせないといけないわね。
「まぁ体型のことはこのくらいにして、特訓を開始するわよ。アタシは基礎的な運動能力向上、アンタは魔力上昇よね?」
「う、うん!! 魔法をたくさん放つよ!!」
「加減はしなさいよ?」
「も、もちろん!!」
アプリの説明欄曰く、魔力の要領を増やす方法は2通り存在するらしいわ。1つは該当するスキルを獲得すること、もう1つは魔法をたくさん放つことらしいわ。
保有できる魔力は魔法を発動すればするほど、その容量を増やすことができるらしいわ。運動をすれば筋肉が成長するように、魔力も使えば使うほど容量が増すようね。
「じゃあさっそく、トレーニング開始よ!!」
「う、うん!!」
「そこは「おー!!」よ」
「お、お、おー!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ふぅ……ぶふぅ……ぜぇ……」
「え、なんでアタシよりも疲れてるのよ」
2時間後、トレーニングが終わったわ。
アタシは10キロの走り込みと、筋トレを何十セット。さすがにジャージも汗だくになったけれど、雨凛の汗のかきようは……アタシよりも遥かに上だったわ。まるでバスケ漫画みたいに、ダラダラと汗をかいているわ。
雨凛のトレーニングも見ていたけれど、魔法を放つだけで動いている様子は見受けられなかったわ。だからこそ、ここまで汗をかいている理由も、息が絶え絶えな理由もわからないわ。汗で周辺の気温が上がるほどバテるようなこと、雨凛はしていないと思うんだけどね。
「ま、魔法って……つ、疲れるんだよ」
「そういうものなの……?」
「う、うん……。ぶ、ぶふぅ……」
「なら、仕方ないわね。でも……そんなに疲れるんだったら、もっと大きなジャージを買った方がいいわよ」
「え、ど、どうして?」
「……ブラが透けているわ」
体操着が白いから雨凛の汗で透けて、そのピンク色のブラジャーが透けていたわ。ちょっと色っぽいデザインの、特注サイズのブラジャーが丸見えだったわ。それにしても……羨ましいほど大きいわね。
雨凛は手で隠すこともなく、ただニヤついていたわ。まぁ……彼女の考えていることくらい、すぐわかったわ。
「ふ、ふひひ……し、志苑くんは喜んでくれるかな?」
「アイツはエッチだから、大喜びすると思うわ。だけど……今はアイツがいないから、アンタただの痴女よ」
「ふ、ふひ……痴女……エッチだね……」
「はぁ……これは重症ね」
恋する乙女は止まらない。
そんなことを考えながら、アタシはため息を吐いたわ。一目惚れって……恐ろしいわね。
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