第15話 祝杯パフェ

 帰還後、俺たちは近所の喫茶店にいた。

 ダンジョン攻略を祝うためだ。


「お疲れ様、今日は疲れたわね」


 メロンソーダを飲みながら、詩葉は笑っていた。彼女はこう見えて、コーヒーが飲めないらしい。俺と同じだ。


「う、うん。大変だったね!!」


 黒波先輩は……特大のいちごミルクを飲んでいる。ピッチャーに注がれたピンク色の液体を、グビグビと飲む様は壮観だ。これほどのいちごミルクとなればカロリーも凄まじそうで……なるほど、その体型の由来が少し理解できたな。


「あ、あぁ、お疲れ様。頑張っていたな」

 

 俺はコーラを飲んでいた。

 普通に好きだからだ。


「アンタのおかげで、ようやくダンジョンを踏破できたわ。改めて礼を言わせてちょうだい。ありがとうね」

「し、し、志苑くんのおかげで、さ、さらに強くなれたよ!! 本当にありがとうね!!」

「いやいや、当然のことをしたまでだ。俺たちは友人であり、パーティなんだからな」


 初めてできた友達、なのだから。


「ふふ、友達ね」

「な、なんだ、変なこと言ったか?」

「志苑、いつの間にかアタシを呼ぶときに『さん』が抜けているのに、気づいていない?」

「……あ」


 そうだ、そういえば最初は詩葉さんと呼んでいた。だがダンジョン攻略途中から、いつの間にか詩葉とさん付けせずに呼ぶようになっていた。理由は……仲良くなってきたと、自分で勝手に判断したからだろう。


「わ、悪い、馴れ馴れしかったな」

「ううん、構わないわ。友達なんだもの」

 

 よかった、彼女が寛容で。


「わ、わ、私も雨凛って呼んで!!」

「え、でも……先輩ですよ?」

「い、いいの!! と、友達なんだから!!」

「じゃあ……雨凛」

「え、えへへ……ふひひ……!!」


 ニチャッと笑う黒波先輩……いや、雨凛。

 そんなに嬉しかったのだろうか。

 ……いや、嬉しいか。友達に呼ばれたら。

 俺もそうだから、とてもよくわかる。


「それにしても、まさか1つのダンジョンを攻略するだけでランクが上昇するなんてね。思った以上に、上昇しやすいのかしら」

「そ、そうだね!! コスパいいね!!」


 俺はチュートリアルダンジョンを攻略し終えただけでランクが上昇したが、そのことは2人には話さないほうがいいだろう。自慢と捉えられて、せっかく築き上げた関係性が崩れるかもしれないから。


 彼女たちがランクが上がったのは、ひとえにF級だったからだろう。低レベル時の方がレベルアップに必要な経験値が少ないように、スキルを1つ2つ獲得するだけで、低ランク時はランクが上昇するようになっているのだろう。


「お嬢ちゃんたち、嬉しそうだな」


 そんなとき、店員のおじさんが話しかけてきた。何やらニコニコとしており、とても気分がよさそうだ。


「えぇ、とってもいいことがあったのよ!!」

「そうかい。だったら、これはサービスだ」


 おじさんはそう言って、厨房に走って行った。そして数分後、おじさんが持ってきたのは……特大のパフェだった。見たことがないサイズの、ただのパフェ絵はなくド級のパフェだ。


 雨凛の持つピッチャーよりも、さらに大きなグラスに添えられたソレは……5キロを裕に超える大きさを誇っていた。イチゴやさくらんぼなど、これでもかとフルーツを添えられている。生クリームだって、むせかえるほどにたっぷりだ。


「え、おじさん。これ……何?」

「サービスだよ!! 学生さんに喜んで欲しくてね!!」

「こんなに……食べれるか……?」

「わぁ!! お、おいしそう!!」


 困惑する俺と詩葉。笑顔のおじさんと雨凛。

 対極的な反応が、そこにはあった。

 いや、おいしそうだけど……食い切れるか?


「学生さんの笑顔が、僕の元気の源だからね!! さぁ、食べてくれ!!」


 おじさんの行為に背くこともできず、俺たちはパフェに手をつけた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「ぐふっ……お腹いっぱいだわ……」


 案の定、パフェは多かった。

 甘ったるいクリームに酸味のあるフルーツたち、そのどれもが腹に溜まり……苦しい。歩くたびに生クリームとフルーツが腹の中で、ガッポガッポと音をあげている。


 俺と詩葉で各500gほど少しずつ食べたが、食べても食べてもパフェが減ることはなかった。雨凛が4キロくらい食べてくれたからよかったものの、彼女がいなければ完食することは叶わなかっただろう。


「あ、甘い物を食べたら、しょ、しょっぱい物を食べたいよね!! ら、ラーメンでも食べに行く?」


 ……雨凛はなんて言った?

 ラーメンを食べに行く、だと?

 ……正気か?


 パフェを4キロ以上も食べた彼女は、パンパンに腹を膨らましている。ジャージのジッパーを解き、真っ白なお腹がシャツから漏れている。パンパンに張っている、硬そうなお腹が。


 ソレなのにラーメンを食えるだなんて、彼女の胃はどうなっているのだろうか。バケモノなのだろうか。


「雨凛……太るわよ?」

「う、で、でも……」

「最近、体重が120キロ──」

「そ、そ、それ以上は言わないで!!」


 喫茶店の中で、雨凛の声が響いた。

 ……え、そんなに体重あるのか?

 ……まぁ、胸が大きからな。身長もあるし。


「少しは自重しなさいね」

「う、うぅ……」


 しょんぼりする雨凛。

 なんだか……かわいらしいな。

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