第13話 F級ダンジョン 4/4【詩葉視点】

【詩葉視点】


「だ、《下級の闇矢ダーク・アロー》!!」

「オクゥウウウウウウ!!」


 先制したのは、雨凛だったわ。

 彼女の黒い矢はビュンっと飛んでいき、オークの腹部に命中したわ。オーガの時のように無傷……なんてことはなく、少しだけダメージを負っている様子だわ。


 オーガは純正のE級だったけれど、オークはボスへの補正でそのランクを上昇しているに過ぎないみたいね。だからこそ戦闘力に関しては、E級と互角といえども所詮は下位程度の実力。耐久力に関しても、ギリギリE級ってくらいしか有していない様子ね。


「《双虎撃》!!」

「オクゥウウウウウウ!!」

「《双虎脚》!!」

「オクゥウウウウウウ!!」

「《双虎斬》!!」

「オクゥウウウウウウ!!」


 虎のような強烈なパンチ、《双虎撃》。

 虎のような強烈なキック、《双虎脚》。

 虎のような強烈なチョップ、《双虎斬》。


 オーガの堅牢な皮膚には拳もキックも響かず、チョップでは柔肌も朔ことが叶わなかったわ。だけどオークは明らかにダメージを負っているし、チョップでは皮膚をズタズタに切り裂けたわ。


「案外……大したことないのかもね」

「そ、そ、そうだね!!」


 さっきまで身体を縛っていた緊張が、スゥーッと抜けていくわ。大きく見えていたオークの姿が、なんだかちっぽけに思えてくるわ。アタシたちでも勝てるって、確信したからかしら。


 オーガの時とは違って、アタシたちの攻撃が通じる。そのことが嬉しく、同時に自身に繋がるわ。この勝負……勝たなきゃね。


「オクゥウウウウウウ!!」


 怒り狂ったように、オークは斧を振るってくるわ。ザンザンと振り下ろされる斧は、地面に触れるたびに裂傷を生んでいくわ。身体に命中すれば、たちまちスライスされちゃうでしょうね。


 だけど……そんな攻撃は当たらないわ。

 オークの動きはとても緩慢で、避けることなんて容易いわ。アタシよりも敏捷性に欠ける雨凛でさえも、簡単に避けられるんだから。


「オクゥウウウウウウ!!」

「そんな攻撃、通じないわよ!!」

「オクゥウウウウウウ!!」

「う、うん!! お、遅いよ!!」


 アタシたちが避けるたびに、オークの怒りのボルテージが上昇していくわ。鼻息は荒くなって、顔も真っ赤になっていくわ。いくら興奮したところで、攻撃のスピードは上昇しないけれど。


 ザンザン、ザンザンと振り下ろされる斧。

 オークが興奮するたびに、室温が上昇していくわ。さらに部屋に充満する臭いもキツくなって……むせ返りそうね。避けるのも飽きたし、そろそろ流れを断ち切らないといけないわね


「《双虎掌》!!」

「オグァッ──!?!?」


 虎のように強烈な掌底を胸に放って、オークを突き飛ばすわ。まるで穴の空いた風船のように、数メートルほどオークは勢いよく吹き飛んでいったわ。


 数メートル先の地面に落ちたオークは、何が起きたのかわかっていない様子で周りをキョロキョロしているわ。もっと容姿がかわいければ、アタシたちも萌えて追撃ができなかったでしょうけれど……醜悪なブタには手加減なんてできないわ。


「《下級の闇弾ダーク・バレット》!!」

「オクゥウウウウウウ!!」

「《下級の闇矢ダーク・アロー》!!」

「オクゥウウウウウウ!!」

「《下級の闇刃ダーク・カッター》!!」

「オクゥウウウウウウ!!」


 暗黒の弾丸、漆黒の矢、闇色の刃。

 容赦のない連続攻撃が、未だ状況を把握しきれていないオークを襲うわ。ドンッ、ザクッ。ズバッ、オークは大ダメージを負うわ。


 右肩に命中した弾丸は神経を破壊したのか、オークの右腕はダランと力が入らない様子。

 左膝に命中した矢の影響で、立ち上がることもできずに悶え苦しんでいるわ。

 顔面に命中した刃は顔をズタズタに切り裂き、見るも無惨なことになっているわ。


「お、オクゥウウウウウ……!!」


 それでも尚、オークは生きていたわ。

 瞳に宿した憎悪は、一段と燃え盛り。

 アタシたちを睨みつけていたわ。


 斧を握ることもできず、立ち上がることさえもできないのに。その戦意は未だ絶えず、むしろ焚いていたわ。


「ズタボロになっても諦めない精神性に関しては、アタシたちも見習うべきね。そこに関しては、敬意を示すわ」

「そ、そうだね。うん……そうだね」


 相手が強大だから、E級だから、恐ろしいから。そんな理由で日和ってしまい、慄いていた自分が恥ずかしいわ。精神力に関しては、アタシたちはオークにも劣っていたわ。


 雨凛もそれはわかっている様子で、噛み締めるように呟いたわ。もっと強くならないとね、メンタルも含めて。


「雨凛、終わらせるわよ」

「う、うん。……そうだね」


 アタシは雨凛に、右腕を差し出したわ。

 それが何を意味するか瞬時に理解した雨凛は、魔法を唱えたわ。


「《中級の闇纏アビス・アーマー》!!」

「う、ぐッ……!?」


 アタシの右腕に、暗黒の瘴気が纏う。

 それに伴い、絶え難い激痛が走るわ。

 皮膚を食い破られるような、爪を引き剥がされるような、そんな激痛が。


 だけど……このくらい耐えないと。

 敬意を示したオークを、一撃で仕留められるように。これ以上苦しみを与えないようにするためには、これが最善だから。


「オーク、感謝するわ。アタシたちはアンタを倒すことで、自信をつけることができるわ」

「オグゥウウ……!!」

「きょ、強敵にも勝てたっていう自信が、わ、私たちの糧になるから!! こ、これからどんな強敵と出会っても、き、きっと今日を思い出して戦えるから!!」

「オグゥウウ……!!」


 威嚇するようにして、唸り声を上げるオーク。

 ……終わらせましょう。


「《双虎撃》!!」


 強烈な拳を、オークの脳天に叩き込んだわ。

 刹那、オークは──光の粒子に変わったわ。


「……勝ったわね」

「勝った、勝ったよ!!」


 出現した期間用ゲートと宝箱、そして志苑の拍手が勝利を祝ってくれたわ。

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