第11話 F級ダンジョン 2/4

 あれは2つ目のダンジョンを、攻略し終えた時のこと。ボスを倒したと同時に、とあるスキルを獲得した。そのスキルこそ──


「《流星剣》!!」


 星々の煌めきのような輝く魔力を刀身に灯し、剣城を振るう。デスマンティスには攻撃を避けられてしまったが、その侮った顔に冷や汗をかかせることには成功した。


 デスマンティスは俺から少し距離を取り、様子を窺っている。よく見ると胸部から少し、出血をしている。攻撃は躱されたと思ったが、どうやら掠っていたみたいだな。


「やはり強いな、《煌星流闘術》は」


 古今東西、人は星々に魅せられてきた。

 手の届かない光に、憧れ続けてきた。

 そして、それは武術家も同様だった。


 奈良時代の武士、白帆しらほは幼少期より星々の瞬きに惹かれていた。燦然と耀う太陽より儚く、だが燭台よりも力強い光に。夜空を埋め尽くす、満天の星々に感銘を受けた。


 やがて憧れるだけでは抑えられず、彼はそれまで培ってきた武術を捨てた。そして星の動きを研究しながら、その美しさと力強さに敬意を称して新たな武術を創始したのだ。煌星流の技は、星の動きや軌跡を模倣して生まれたのだ。


「何よ、あの綺麗な剣術……」

「み、見惚れちゃうね!! す、スゴいよ!!」


 2人からの賞賛が、素直に嬉しい。

 あぁ、たまらないな。張り切ってしまうな。

 この調子で、ドンドン戦おうか。


「ギ、ギシャァアアアアアアアアア!!!!」


 癇癪を起こしたように、デスマンティスは鎌を乱暴に振り回してきた。E級に昇格したものの、その鎌に触れてしまえば……俺だってタダでは済まないだろう。


「ギシャァアアアアアアアアア!!!!」

「《天の橋立》」

「ギシャァアアアアアアアアア!!!!」

「《星海の守護》」

「ギシャァアアアアアアアアア!!!!」

「《星屑舞踏》」


 剣を前に構え、敵の攻撃を全て受け止める。

 その姿が、天の橋立のように堂々としていることから名付けられた剣技、《天の橋立》。


 どんな攻撃も受け止める、堅牢な防御剣技。

 深い星海が全てを守護するような姿から名付けられた、《星海の守護》。


 華麗なステップを踏み、攻撃を躱す回避技。

 星屑の煌めきのように、あるいは舞踏会でのダンスのように舞うような姿から名付けられた、《星屑舞踏》。


 防御技や回避技を駆使して、デスマンティスの斬撃を防御する。俺がE級に昇格したからなのか、その攻撃は想像以上に軽かった。


「す、スゴい……デスマンティスの攻撃を、全て完封しているわ!?」

「あ、あんなの……私たちじゃ無理だよ!?」


 2人の驚愕の声が聞こえてくる。

 俺としては普通のことだが、F級の2人からすればトンデモないことのように映るのだろう。2人もE級に昇格すれば、この程度は大したことないってことが理解できるんだけどな。


 それにしても……そうか。

 2人の声を聞けるだけの余裕が、今の俺にはあるのか。余裕がなければ戦いに集中して、周りの声に耳を貸すことなんてできないもんな。


「ギシャァアアアアアアアアア!!!!」

「さて……そろそろ終わらせようか」


 デスマンティスから距離を取り、剣城を鞘に納める。そして──脱兎の如く駆けた。


「ギシャ──!?」

「──遅い」


 デスマンティスの懐に潜り込む。

 そして──


「《彗星剣》!!」


 抜刀。

 デスマンティスの首が、落ちた。


「ギシャ……」


 短い断末魔を上げ、絶命。

 例の如く、魔力の粒子に変わった。


「レベルアップは……しないか」


 所詮はF級の魔物。

 E級の俺をレベルアップさせるには、経験値が微細すぎたみたいだ。あぁ、ちょっと残念だ。


 がっかりした気持ちを抑えるように、剣を鞘にカチャンと強めに納める。そして振り返ると──


「アンタ……さすがね」

「お、思った以上に、つ、強いね……!?」


 2人は唖然としていた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「お、何だこの扉」


 ダンジョン攻略中、目の前に扉を発見した。

 見た目は普通の鉄扉であり、特筆すべき点は無い。


「開けてみましょうよ」

「う、うん。お、鬼でも蛇でも、む、迎え撃つよ!!」

「い、勇ましいですね。では──」


 俺は扉を開いた。

 すると──


「ゴブゥウウウウウ!!」

「コボォオオオオオ!!」

「グルゥウウウウウ!!」


 5匹のゴブリンの群れ。

 3匹のコボルトの群れ。

 2匹のウルフの群れ。


 総勢10匹の魔物が、体育館程の部屋に敷き詰められていた。


「こ、これって……も、もしかして……」

「も、モンスターハウス、だ、だよね……?」

 

 2人はわかりやすく絶望している。

 その反応は当然で、ここが『モンスターハウス』だからだ。


 モンスターハウスとはその言葉の通り、魔物が大量に出現する部屋のことを指す。主にダンジョンの一室に出現することが多く、一度に30~100匹程度の魔物が一斉に出現するのだ。


 またモンスターハウスに入室すると、全ての魔物を討伐しない限りその部屋から脱出することができなくなる。中途帰還の為のアイテムである『帰還石』を使用しようとも、不思議な魔法で帰還石の効果が打ち消されてしまうのだ。


 途中退席ができない点と一度に大量の魔物が出現することにより、モンスターハウスに出くわした者の生存率は著しく低い。と、説明欄に記載されていた。


「へぇ、これが噂のモンスターハウスか」

「ど、どうして……達観しているの……?」

「いや、まぁ……前に経験しましたから」


 つい先日、ソロでダンジョン攻略中にモンスターハウスに遭遇した。その時は10匹どころではなく、総勢30匹もの魔物がいたのだ。


 あれに比べれば、10匹の魔物の群れなど大したことない。故に2人のように恐怖心など抱いておらず、平常心のままでいれた。


「だ、大丈夫です。2人はそこにいてください」


 俺は闊歩する。

 一歩一歩、魔物たちへと近づいていく。

 そしてある一定の距離で、俺は地面に手を付けた。


「《中級の氷部屋コールド・ハウス》」


 一瞬にして、目の前が銀世界になった。

 全ての魔物は凍りつき、動きを止める。

 そしてバリンッと、氷は砕け散った。


 あまりにも呆気なく、そして一瞬。

 あれだけいた魔物は、全て絶命した。

 たった一撃の、俺の魔法の手によって。


【レベルアップしました】


「ふ、ふぅ、終わった」


 振り向き、2人に微笑む。

 2人は口をあんぐりと開けて──


「「……は?」」


 と呟いた。

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