第10話 F級ダンジョン 1/4
次の日、俺は近所の公園へとやってきた。
本当は土曜日に外出などしたくないのだが、ダンジョンに挑むためだから致し方ない。ちなみにまだ、2人は公園に来ていない。
ダンジョン・サバイブは〇ケモ〇Goや〇ラク〇ウォークのような、位置情報を活用したゲームとなっている。アプリ上で街中にあるダンジョンを見つけ、それに挑むゲームとなっているのだ。チュートリアルダンジョン以外のダンジョンに挑むためには、必然的に外出しなければならないのだ。
「2人は遅いな。少し心配だ」
何故オーガがあの場にいたのか質問したが、2人にもわからないそうだ。2人で下校していると、唐突に目の前の地面に現れたらしい。そしてオーガが出現し、後は俺の知る通りだ。
アプリの説明欄を確認しても、何の説明も記載されていない。いったいあのオーガは何だったのか、今後も街中に突如として出現するのか。考えても答えは出ず、不安が募るだけだ。
「SNSに載せることやダンジョン配信ができない傍、街中に魔物が出現するようになるなんて……。アプリを世に広めたいのか、そうじゃないのかわからないな」
開発者の意図が読めない。
「志苑!! ごめん、遅れたわ!!」
「し、し、志苑くん!! ご、ごめんね!!」
そんなことを考えていると、10分遅れて2人がやってきた。軽やかに走ってやってくる詩葉さんに、ドスドスと汗を垂らして走ってくる黒波先輩。おぉ、2人とも……胸がたゆんたゆんと揺れているな。
ダンジョンに挑むためか、2人とも学校指定のジャージを着ている。詩葉さんのジャージは俺と同じ緑色で、黒波先輩のジャージは赤色だ。個人的には私服も見てみたかったが、この芋臭いジャージもまた味があるな。
「い、いやいや、俺も今来たところだ」
嘘だ。本当は10分前から来ていた。
もっと言えば、2時間前にはこの辺をウロチョロしていた。1人で喫茶店に入る勇気もないから、この近所を2時間以上散歩していた。〇ケモ〇Goをしながら。
俺は陰キャなので、友達と遊ぶという経験が極端に少ない。ダンジョン攻略といえども楽しみであり、いてもたってもいられず、だいぶ早めに到着してしまったのだ。
「じゃあさっそく、挑みましょう。えいっ」
詩葉さんはスマホをタップする。
すると──
ギュオンッ!!
という音と共に、目の前にブロンズ門が出現した。大きさは1メートル50センチほどと、前回のゲートよりも小さめだ。
「さぁ、挑もうよ」
「あ、はい」
「ふ、ふひひ……。う、うん……」
俺たち3人は、ダンジョンへと挑んだ。
……俺と黒波先輩は身体が大きいから、ゲートに入るのに少し手間取った。特に黒波先輩は胸と尻が大きくて、さらに全体的に若干肥えているから……詰まってしまい、ダンジョンへ入るだけで数分かかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ダンジョンに入った。
内装は普通の洞窟、といった感じだな。
岩肌には若干コケが生えており、地面は湿気ている。
天井にはヒカリコケがビッシリと生えており、内部は思った以上に明るい。普通に日中の街中くらいの明るさはある為、視界は何ら問題が無い。
「し、しかし……普通だな」
「そうね、一番よくみるタイプの……オーソドックスなダンジョンね。ダンジョンって聞いて、おそらくみんなが一番最初にイメージするタイプのダンジョンよね」
「よ、よく言えば、期待通りか。古い冷蔵庫を捨てて新品の冷蔵庫を購入したら、前の冷蔵庫以上にモノを冷やしてくれるくらい期待通りだ」
「え、何を言っているの?」
「あ、え……なんでもない」
軽くボケたが、伝わらなかった。ツラい。
「アンタ、ダンジョンに挑むのは何回め?」
「こ、これで3回目だ」
「そうなんだ。もしかして、全部ソロ?」
「あ、あぁ」
「へぇ、スゴいわね。尊敬するわ」
「い、いやいや、それほどでも」
謙遜するも、ついニヤけてしまう。
お母さん以外からロクに褒められたことのなかった人生を送ってきたが、友達から褒められると……こんなに気持ちいいんだな。最高の気分だ。
「それにしても、まさか隣のクラスの生徒がプレイヤーだったなんてね。プレイヤーの総数は知らないけれど、世間は狭いのね」
「お、俺もビックリだ。まさかこんなに近くに、2人もプレイヤーがいたなんて」
「案外探せば、もっといるかもね」
「そ、そうだな」
詩葉は特進科で俺は普通科だから、そこに差はあるが。中学時代に勉強は必死に頑張ったが、俺の脳の出来では特進科に入ることはできなかったから。
まぁ普通科であっても、特進科以上の進路を見出した生徒も歴代に何人かいるらしいからな。俺も諸先輩方を見習い、勉学に励もう。
「……」
「……」
それにしても、黒波先輩は黙ったままだな。
寡黙なのか、口下手故に話題が無いのか。
何にしても、かなり気まずいな。
彼女とはまだ日が浅いが、同族の気配がプンプンと漂ってくる。つまり俺と同じく陰気で根暗で、おまけにコミュ障な感じがするのだ。
それ故……彼女とは仲良くなれる気がする。
俺と同族だからこそ、きっと。
「し、志苑くん!!」
「あ、はい。なんでしょう」
「し、志苑くんは……ぽ、ぽっちゃり女子は好き?」
「……へ?」
意図していない質問が来た。
これは……素直に答えるべきか。
「ま、まぁ……はい。そ、それなりに」
「ど、どれくらいならイケる!?」
「えっと……割とイケますよ。と、鶏ガラみたいな体型の人よりも、ぽっちゃり女子の方がタイプですね」
「そ、そうなんだ……。え、えへへ」
え、どうしてニヤけてるんですか?
俺はこんなにも、困惑しているのに。
……マジでさっぱりわからない。
だがとにかく、先輩と話せてよかった。
……性壁を晒した気がして、何だか釈然としないが。
「あ、魔法陣よ!!」
詩葉の声がダンジョン内に響き、目の前の地面に魔法陣が形成される。そして──
「ギシャァアアアアアアアアア!!」
現れたのは、3メートルを超えるカマキリだ。
両鎌は鋭く、獲物を屠ることに特化した形状をしている。その三角の頭に備わった大きな眼は。常にこちらを捉えている。ダラダラと涎を垂らし、獲物を見るような視線で。
図鑑によれば、この魔物はデスマンティスというらしい。F級の中では上位に君臨し、幾人もの初心者を放ってきたという初心者キラーと記載されていた。つまり危険極まりない敵だ。
「2人とも、ここは俺に任せてくれ」
2人は静かに、頷いてくれた。
そして2人を守るように、一歩前に出た。
「よし、経験値稼ぎだ」
剣城を片手に、俺は呟いた。
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