第9話 女子高生プレイヤー

 それから10分後。

 俺たちは近場の喫茶店へとやってきた。


「さぁ、座って」

「あ、あ、あぁ」

 

 俺たちは席に座った。

 改めて2人のことを確認するが……2人とも美人だな。


 詩葉うたはさんは、正統派の美人だ。

 ボブカットの茶色い髪は、絹のようにきめ細やか。蒼色の瞳は、サファイアのように輝いている。


 165センチほどの身長に、大きな胸と大きな尻。どちらもかなり大きく、16歳にしては十分スタイル抜群だ。


 黒髪の女性も、普通に美人だ。

 195センチの身長に、色々と大きい身体。

 詩葉うたはさんが子どもサイズに見えてしまうほど巨大な、核兵器クラスの大きさを誇る胸と尻。胸と尻に視線を持っていかれるが、お腹周りやその他の部位も結構……ダイナミックなサイズとなっている。特にお腹周りは制服の上からでもわかるほどに、だらしない。 


 顔立ちはかなりの美人なのだが……眼の下には深い隈が形成されており、なんだか不健康な印象を抱いてしまう。少し脂っぽい黒髪は腰まで伸びてボサボサであり、それも相まって暗い雰囲気が醸し出ている。


「き、キミは、う、ウチたちとお、同じ制服だ、だね。ね、ネクタイの色が緑色だから、う、詩葉うたはちゃんと同じで、い、1年生だね」


 よく見ると黒髪の女子高生は、胸元のリボンが赤色だ。つまり2年生で、先輩なのだな。


「とりあえず、自己紹介をするわ。アタシは十六夜詩葉いざよいうたは。で、こっちが──」

「く、く、黒波雨凛くろなみあめりだよ!! き、き、キミ達の1年先輩で……う、う、詩葉うたはちゃんの親だよ!!」

「………………………………え?」


 衝撃発言に、絶句してしまう。

 先輩だってことは理解できるが、親……だと? かなり若く見えるが……経産婦だってことか?


 そうは……見えなくはないな。


 高校生にしては、ヤケに大きな胸。

 安産型で、ドッシリとした尻。

 制服の上からでわかりずらいが、お腹周りも結構ダラしない。というよりも全身ムチムチで、だらしない身体付きだ。


 言われてみれば、経産婦に見えなくもない。

 何かしらの事情があって、子と共に学校に通っているのだろうな。そんな設定のエロ同人を昔は読み漁った記憶がある為、瞬時に理解できた。


「……多分、アンタが思っていることは違うと思うわよ」

「ふ、ふひひ……え、エッチな眼差し……。ふ、ふひひ……」


 ジトッとした視線を送ってくる、詩葉うたはさん。

 ネチャネチャと笑っている、経産婦疑いの黒波くろなみ先輩。


 決してエッチな眼差しを送った訳ではないが、ジロジロと観察していたことがそう捉えられてしまったのだろう。これは失敬した。


「アンタ、ダンジョン・サバイブへの参加方法は知っている?」

「か、勝手にアプリがダウンロードされる方法が1つ。もう1つはアプリを所持している人からURLを発行してもらって、そのURLを踏むことで自動的にアプリがダウンロードされる……んだったな? た、確かこの2つだった、と記憶しているぞ」

「そ、そうだよ!! あ、アプリストアにはこのアプリは存在しないから、そ、その2つの方法でしかダンジョン・サバイブには参加できないんだよ!!」


 説明欄に記載されていたから、知っている。


「後者のURLを提供してもらう方法なんだけど、元々アプリを所持していた方を『親』、アプリを授けられた方を『子』っていうのよ」

「へ、へぇ、そうなんだ」

「だ、だから私は詩葉ちゃんの親なんだ!!」

「経産婦じゃなかったんですね」


 俺の発言で、2人が静まる。

 あ、これは……引かれているな。


「……それはともかく、聞いてもいい?」

「あ、はい」

「……アンタ、プレイヤーなの?」

「あぁ、そうだ」

「ち、ち、ちなみに、な、何級?」

「こ、こ、この通りです」


 自分のスマホを、2人に見せた。


─────────────────

【名 前】:霊田志苑たまだしおん

【ランク】:E

【スキル】:身体強化 Lv7

      氷属性 Lv5

      煌星流闘術 Lv3

      毒耐性 Lv1

────────────────


「E級……オーガと一緒ね」

「こ、このレベルって、な、何?」

「え、え? ふ、普通にレベルですよ?」


 俺の発言に対し、2人はキョトンとした。

 そしてお互いに顔を見合わせ、顔を捻った。

 なんだ、変なこと言ったつもりはないぞ。


「……アタシたちのステータス、見せるわね」


─────────────────

【名 前】:十六夜詩葉いざよいうたは

【ランク】:F

【スキル】:双虎流闘術

      身体強化

────────────────

─────────────────

【名 前】:黒波雨凛くろなみあめり

【ランク】:F

【スキル】:闇属性

      魔力増殖

────────────────


「ん?」


 机の上に置かれた2人のスマホを見て、思わず顔を捻ってしまう。一見すると俺のステータスと相違ないように見えるが、肝心のレベルが記載されていない。これは……どういうことだ?


 穴が開くほど画面を直視しても、親指と人差し指で画面をズームしても、何をしてもレベルが見当たらない。思わず2人の顔を見て、つい3人で顔を捻った。


「え、もしかして……他の人もそうなの?」

「た、多分。け、掲示板を見る限り、れ、レベルアップのシステムがないことに憤っている人が、け、結構多いから」

「ま、マジか……俺だけがレベルアップできる件じゃん」

「何よ、その漫画のタイトルみたいなの」


 他のプレイヤーも当然レベルアップできると思っていたが、どうやらレベルアップできるのは俺だけだったみたいだ。謎アプリのおかげでダンジョンに挑めるようになったのに、他のプレイヤーはレベルアップできないなんて……そりゃ憤りや苦情も生まれるよな。


 普通のゲームだったら大型アップデートなどで、様々なシステムが追加されることは珍しくない。だがこのアプリは運営が誰かも知られていないので、アプデでレベルアップのシステムが追加されるかは未知数だ。どれだけ苦情を言ったとしても、アプデされない可能性だって十分にある。


「れ、レベルがあるってことは、ま、魔物を倒せば倒すほど、つ、強くなれるの?」

「あ、はい。そうです」

「何よそれ……最強じゃないの!!」


 これが普通だと思っていたが、どうやら違ったようだ。せっかくダンジョンに潜れたりスキルをゲットしたのに、魔物を倒しても何の恩恵もないなんて……何だか申し訳なくなってくる。


「……ねぇアンタ、アタシたちと組まない?」

「へ?」

「アタシたちね、これまで3回ダンジョンに挑んでいるんだけど……全部攻略に失敗しているのよ。チュートリアルダンジョンしか、踏破できていないのよ」

「え、F級スキルしかないから。わ、私たちは悔しいけど、よ、弱いんだ」

「……な、なるほど戦力が欲しいってワケか」


 俺にとっても悪い話ではない。

 これまではソロで攻略できてきたが、今後のダンジョン攻略ではどうなるかわからない。それに今後パーティを組みたいと思った時がやってきても、俺のコミュ力では早急にパーティを形成したり加入することは難しいだろう。


 それ故、この機会を逃せば……俺はパーティを組む機会を永遠に逃す可能性もある。だからこそ、彼女たちの提案を受けるべきだと、わかっているが──


「……1つ、条件があります」


 ナマイキにも、俺はそんな発言をした。

 2人はゴクっと生唾を飲み、俺の次の言葉を待っている。


 深呼吸、深呼吸、深呼吸。

 そして勇気を振り絞り、告げる。


「俺と──友達になってください」



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「俺と──友達になってください」


 15年の人生で、何度も告げた言葉。

 15年の人生で、何度も断られた言葉。

 15年の人生で、何度も絶望した言葉。


 勇気を絞り出して、俺はその言葉を紡いだ。

 2人の返答が来るまでの時間が、ヤケに長く感じる。15年の人生の中で、最も長く感じる時間の1つに思える。


「え、うん。いいよ?」

「そ、そ、そんなことでいいのだったら、ぜ、全然構わないよ?」


 と、2人はあっけらんと答えてくれた。

 

「え、ほ、ほ、本当に、い、良いのか?」

「え、う、うん。でも、本当にそんなことでいいの?」

「あ、あ、あぁ。それ以上は望まない」

「ふふ、変な男ね。じゃあ交渉成立ね」


 詩葉さんはそう言うと、右手を伸ばしてきた。それに続く形で、黒波先輩も右手を伸ばす。


「よろしくね、志苑!!」

「い、一緒に頑張ろうね!! 志苑くん!!」


 友達ができた。

 あまりにも呆気なく、あまりにもすぐに。

 15年の苦悩が、一瞬で解決されたな。


 心がスーッと空く気分だ。

 何か救われたような、心地よい気分だ。

 15年の人生で、初めての気分だ。

 あぁ……ハッピースマイルだ。


「よ、よろしく、2人とも!!」


 俺は2人の手を、強く握りしめた。

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