第4話 チュートリアルダンジョン 2/3
「いくつか、わかったことがあるな」
あれから約1時間が経った。
何匹もの魔物と遭遇し、レベルも上がった。
最初こそゴブリンに苦戦を強いられた俺だが、今となっては慣れて普通に倒せる。
余裕も出てきたので、いくつか試したいことを行った。そしてその結果を、ノートにまとめた。今後現れるかもしれない、美少女ヒロインのために情報をまとめていたのだ。
・ダンジョン内では電子機器は一切使えない
・スマホは圏外になり、ダンジョン・サバイブ以外のアプリは起動さえしない。オフラインで使えるアプリも、同様に起動しない
「つまりダンジョン配信が一切できない、ってことだな。バズってインフルエンサーになるチャンスが、これで消え去ったな」
ダンジョン配信ものの小説が好きだった俺にとって、これは結構なショックだった。せっかくダンジョンに来たのだから、配信の1つや2つして大バズりを狙いたかったのに。
配信ができないのはまだいいが、スマホが一切使えないのはかなり不便だ。一応懐中電灯や緊急アラームなどは使えるが、それ以外のほとんどのアプリが使用不可能だ。時計のアプリも使えないから、腕時計を着用していなければ……今ごろ時間もわからずに気が触れていたかもしれない。
そして使えないのはスマホだけではなく、電子機器全般らしい。常備しているタブレットも万歩計も、電源さえも点くことができない。この調子だとラジオやデジタル腕時計なんかも、まるで役に立たないだろう。
「不便なダンジョンだな」
ため息を溢し、ダンジョンを歩む。
配信ができないことは仕方ないが、悔やんでいても仕方ない。今はただレベルを上げることだけを考え、前に進もう。
それにダンジョン攻略途中で、説明欄に新たな記載が追加された。それはダンジョンに関するもので、ダンジョンには最深部に“ボス”と呼ばれる強力な魔物が潜むというものだった。そしてチュートリアルダンジョンのボスは、第5層に潜むという情報も記載されていた。
「帰るためには、ボスを倒さないといけないしな。はぁ、めんどうだ」
どうやらダンジョンから脱出するには、稀に魔物からドロップできる『帰還石』というアイテムを用いるか、あるいはボスを討伐するしか方法がないらしい。ボスを討伐すれば帰還用のゲートが出現するらしく、現状は帰還石を所持していないので後者でしか帰還できない。
ボスのフロアまで赴くのは億劫だが、ボスを倒すことで得られる特典は帰還ゲート以外にも2つある。まずボスは経験値が豊富であり、レベルアップが捗る。さらにボスを討伐すれば、新たにスキルを得られるらしいのだ。つまりダンジョン・サバイブで強くなるためには、ボスを倒すことが最も良いのだ。
「今が3層だから、残り2層か。1時間以内に終わらせたいな」
今ごろ先生はキレているだろう。
我が校は進学校なので、授業を抜け出した生徒など前代未聞なハズだ。戻れば間違いなく、長い説教が待ち受けている。その説教を最小限に抑える為、早めに帰りたい。
いや……説教だけなら、まだマシか。
最悪なのは、行方不明として被害届を出されることだ。そんな大ごとになってしまえば、説教だけでは済まされない。早く帰らねば。
「ん、あれは……なんだ?」
焦る気持ちの最中、視線の先に奇妙な物を発見した。そこにあったのは、道の真ん中にポツンと置かれた木箱だ。なんの変哲もない木箱が、ただそこにあった。洞窟の雰囲気とあまりにもミスマッチなので、少し警戒してしまう。
なんだ、あれは。
見たところ宝箱のようにも見えるが、あまり油断はできない。アイテムが入っている素直な宝箱なら嬉しいが、ミミックという可能性だって十分考えられるからな。
「……警戒を崩さないようにしよう」
ジリジリと宝箱に近づき、様子を伺う。
10メートル、5メートル、2メートル。
未だ宝箱に変化は見られない。
足を伸ばし、少し触れてみる。
変化は皆無だ。微動だにしない。
普通にアイテムが入っているのか?
それなら嬉しいが、ミミックの可能性もゼロではない。開いた瞬間食べられ、噛みちぎられれば……そこで終わりだ。だからこそ、油断はできない。
「おらァッ!!」
強めに宝箱を蹴る。
変化はない。
これは……本物か?
ため息を吐き、宝箱の前に座る。
宝箱は未だに、悠然としている。
……期待していいのか?
「ふぅッ……よしッ」
意を決して、宝箱を開いた。
そこには──
─────────────────
武器:聖銀の剣
説明:魔除けの聖印が刻まれた剣
悪魔系の魔物に、10%の追加ダメージ
─────────────────
「へぇ、強力な武器だな」
宝箱の中から現れたのは、輝く銀色の剣だった。装飾は必要最低限であり、刀身の長さはおよそ60センチメートルに及ぶ、壮麗なロングソードだ。刀身の中央付近には十字架とカタカナの『ヲ』を掛け合わせたような、奇妙な刻印が刻まれている。
悪魔系の魔物に関する詳しいことは知らないが、重要なのは俺が武器を手に入れたという事実だ。この剣があれば、道中の魔物たちを退治するのもずっと楽になる。それにボス戦においても、役立つだろう。
「武器も手に入れたし、レベル上げが捗るな」
手にした剣を掲げ、俺は魔物を探した。
意気揚々と、出来るだけ早歩きで。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ボス部屋感のある扉だな」
目の前には、鉄扉が佇んでいる。
厳かな雰囲気のある鉄扉には、まるで模様のような文字が書かれている。中学時代の国語と英語の成績が5だった俺だが、こんな字は見たことがない。
なんとなくヒエログリフと象形文字を組み合わせたような感じはするが、専門家ではないので詳細はさっぱりだ。鼻から理解するつもりも、解析するつもりもないのだが。
─────────────────
【名 前】:
【ランク】:F
【スキル】:身体強化 Lv4
─────────────────
ボス部屋に突入する前に、ステータスをチェックしておく。ダンジョンに潜り、早3時間。出来るだけ早めに攻略しようと意気込んでいたのに、気が付けばもう夕方だ。全授業がとっくに終わっている。帰還したら土下座しないとな。
だがその犠牲もあり、格段に強くなった。
ダンジョンに入る前と比べると、段違いにパワーがみなぎっている。ランクこそ変わらないが、数倍は強くなったと自負している。
「ボスを倒せば帰還用のゲートが現れる。さっさと倒して、帰って……芸能人くらい謝ろう」
そう意気込み、俺は鉄扉を開いた。
部屋にいたのは──
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