第5話

異世界に召喚されてから、1週間と1日が経った


「いい加減にしろ、氷うるさいぞ」


「うるさいのはお前だ。炎、」


「ワシの方が1つ年上なのだぞ?ガキは大人しくしてろ」


「炎、氷。うるさい」


「草よ、お前はいつも何なのだ。茶々を入れやがって」


「炎さん、精霊王の前ではしたないですよ」


 ご覧の通り。朝っぱらから大精霊たちが大喧嘩をしている。

止めようにも下手したら死亡案件なので立ち往生していると、一緒に来たアイが一歩前に出た。


「大精霊!話を聞いてください!」

とんでもない大声で大精霊を牽制する。


「おそらく今日、タザールからの使者が精霊の森にやってくるでしょう。その使者を…」


「追い返せって言うこと」

私がアイの言わんとしたことを紡いだ。


「何故だっ?」

炎の大精霊が無邪気に微笑む。

(顔だけは…いいんだよなぁ)


「炎、一回お前は黙っていろ。理解できていないのはお前だけだぞ」


「なんだと!?氷、お前は…」


「炎さん、私と一緒にデートでもしましょうか♡」


 水の大精霊はそうして無理矢理、炎の大精霊をどっかに連れて行った。


「話を続けていい?」

アイが苛立ってきた。このままじゃ大精霊の喧嘩より悲惨な結末が待っているだろう。


「あと、禁忌魔法についての本を何冊か。異界人について書かれている本や情報も欲しい」


  異界人と言う言葉に大精霊達が反応した。

「異界人?そんな者調べてなんになるんだ」


「そういえばですけれど、アマノガワさん何故貴方はタザール王国に追われているのですか?」


 アイがわざとらしくため息をつく。

「アマノガワ、まだ言ってなかったの?私達は異界人…」


「異界人の影武者として、タザールの王宮に住んでいたんだけど、訳あって追われることになっちゃったの」


 アイは鬼のように顔を歪ませてこちらを睨みつけている。

(あぁー、あとで怒られないといいけど)


「そう言うことでしたら、いくらでもご用意しましょう」


「でも、そういうのに長けた闇はどっか行っちゃったしどうするの?」


「私が探して参ります」


「石がそう言うなら…まぁ」


「私は、精霊達にタザールの人間を入れるなと伝言してくる」


「では、光は巡回をしてくれるか?」

 

「了解したよ、氷」


 こうして、大精霊達は各々の目的を達成すべくすぐに散っていった。


 アイがこちらを振り返る。

「アマノガワ、大精霊信用できるの?あと、諸々説明して」


 アイがどんどんジリジリと近づいてくる。

(これはもしかしたら大精霊の喧嘩より危険だな…)


「信用できるかどうかはわからない。いきなり来た私達をこんな歓迎してくれるのも、まぁ怪しいよね」


「と、いうことはアマノガワも大精霊のことはまだ信用していないってことね」


 そう、タザール王国から追われている私達をすぐ匿おうとしてくれる姿勢は少しおかしい。

私が精霊王だからと言われてしまえばそれで終わりだが、そんな都合よく物事が運ぶものか…


 2人して悶々と考え込んでしまう。


「アマノガワ!!アイ!」

耳をつんざくような大声が聞こえた。

「駿がいきなり倒れて…苦しみだしたんだ。光魔法を使える奴が治療してるけど…初期魔法だからか全く効き目がない!」


「案内して!」


―――――――――


「駿!大丈夫…」

明らかに大丈夫ではない。体から尋常じゃないほどの汗が滲み出て、手足には黒い線が浮き出ている。

……呪いだ


「た、多分呪いだよ!回復魔法がちっとも効かない!」

コウが叫ぶ。駿と1番仲が良かったのはコウだ…


「アマノガワ、タザール王国の使者が訪ねてきました」

現れたのは光の大精霊。


「光の大精霊、この呪い一時的でもいいからどうにかできないか?」


 光の大精霊は駿をじっと見つめて静かに首を振る。


「これは禁忌魔法の呪いですね、光魔法では…一時的なら効果は期待できます」


 一時的…今タザールの使者が来たのは偶然ではないだろう。

彼らに言って呪いを解いてもらう?その代わりに戻ってこいなんて言われてもどうにもできない。


「わかった、一時的でもいいから頼む」

光の大精霊が頷き、駿の口を開けて光魔法を放った。

光は駿の喉元を駆け巡り体内に入っていった。


 心なしか、駿が少し楽になったように見える。


「ここは私が繋ぎましょう。アマノガワはタザールの使者の方へ行ってください」


 一瞬光の大精霊が私に近づき耳元で囁いた。

「タザールの使者は精霊王との対談を希望しています。変身魔法をかけて、どうにか頑張ってください」


 頷いて見せ、光の大精霊が示した方向へ走った。

途中で変身魔法をかけて、精霊王っぽい服装にする。

真っ白な長い髪、朱色の花柄が入った着物を羽織り顔には狐の面をつけた姿。


 いつのまにか隣には狐面を被った同じくらいの少女が一緒に走っていた。


「私も行く」

声からしてアイみたいだ。私は軽く頷いて見せて、風魔法を使いスピードを上げた。


 光魔法の案内が終わった。

周りを見渡すと氷の大精霊とタザールの使者らしき人が睨み合っている。


「精霊王をお出ししてもらおうか?たかが大精霊程度では話にならん」


「精霊王はもうすぐやってくるだろう。それぐらいの時間持てないのか?」


 息を整えて彼らの前に出る。

「待たせた。されとて、タザールの使者がなんのようだろうか?」

 


続く

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