第6話 確定演出
スーパーに辿り着き、取り敢えず牛乳と今晩に使えそうな物を見て回る。お昼はまだ決まっていないが、冷蔵庫にそれなりに入っていたから多分大丈夫だろう。
俺は買い物が決まったのか隣を付いてきている和泉に話しかける。
「もうレジ行くけど、買い物大丈夫そ?」
そう聞くとグッドサインを右手で作り『これだけあれば、今日は乗り切れるはず』という文字を見せてきた。
「どれどれ」
和泉がどういう物を食べるのか気になり、カートで押している籠の中を見てみると、
「茶色1色なのな」
お惣菜ばかりでなんというかとても不健康そうだ。
和泉は俺がそう言うと焦る様に、
『1人暮らし初めてで料理する時間ないと思うからであって、普段からこんな食生活してる訳じゃないからね!変な勘違いしないで!』
とすごい勢いで見せて来る。キッと睨まれて少し怖いと感じてしまった。
「別に変じゃないだろ、俺だってお惣菜の日あるし。料理をさぼりたい時くらいあるだろうしさ」
和泉は俺が言った事になぜか目を丸くして驚いた顔をし始める。俺何か変な事言っただろうか。
『料理出来るんだね』
「え?あーまぁ1人暮らし初めてから1年ちょっと経つし、ある程度の物は作れるけど…そ、それが?」
『食べてみたい』
「まじか」
なんとなく予想は出来ていたが、和泉ってもしかして、
「和泉って料理できなかったり?」
「っ!」
ビクッと肩を震わせてると俺から顔を逸らし始める。
分かりやすいな、少し笑ってしまいそうになった。
だが、俺は頭を掻きながら考える。
別にもう1人分作る事は出来るだろうけど、家にあげるという事に少しばかり思う所がある。
高校生男女が1つの部屋で2人っきりっていうのはどうもよくないような…
俺は顔を逸らして気まずそうにしている和泉を見る。
俺とは結構な身長差があり、綺麗な金髪をすらっと肘まで伸ばしている。
顔は童顔で、瞳は夏を彷彿とさせる
笑顔も普通に可愛い。
そんな和泉が俺にとってリアルでまともに話をしてくれる唯一無二の存在。
ぞんざいには扱えないよな。
「分かったよ、お昼作ってやる」
『ほんと!?』
「あぁ、でもその代わり『手話』、ちゃんと教えてくれよ」
そう言いながら両人差し指だけを立てて、指先をお互いに向けてぐるぐると回転させる。
初めて、自分の意志で使ったけどこれで合ってたよな?
窺うように和泉を見ると俺の指先を見た後、顔を見上げ何度か首を縦に振った。
良かった、合っていて。
勉強はそこまで得意ではないが、覚えた事が役に立つと嬉しい気持ちになってくる。案外ゲームみたいで面白いかも。
「それじゃあ、お惣菜戻すか」
そう言った後お惣菜コーナーに行き、いくつかのお惣菜を戻して最後の唐揚げを持ち上げるとなぜか阻止するように手を被せて来る。
「えっと…何?」
和泉に問いかけるが察しろ!と言わんばかりに手話を使わず見て来る。
「もしかして、唐揚げ食べたいの?」
正解したのか、ぱあっと明るくなる和泉。
だが、「ここの唐揚げ美味しくないよ」というとしゅんっと悲しそうな顔になった。
初めて会った時も思ったけど、表情がころころ変わって面白いな。
「それに唐揚げは揚げたてが美味しいから、食べに行くか家で作るに限る。外はカリッと中はじゅわっと熱々の肉汁が染み出て来るような…」
『じゅるり…』
「2度揚げするとさらに……」
和泉は軽く涎を垂らし始め、その顔が面白くてついこんな事を言ってしまった。
「気分じゃなかったけど、俺も食べたくなってきたな。今晩にでも……あっ」
失言に気付いた時にはもう遅く、和泉はもう打ち終えているのだった。
『晩御飯確定!』
確定演出が出てしまったようだ……
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