第3話 部屋番号を見せて来る

「それでさっきやってた手話なんだけど、どういう意味なの?」


 先程していた手話が何を意味しているのかが気になり、聞くと手話が分からない俺にも分かる様にスマホのメモアプリに文字を打ってくれる。


 最初からそうしてくれれば分かったのではと思ったが、手話が分かる人通しならこっちだと手間になるのか。


 暫く待っていると、少女は打ち終えたのかスマホを顔の隣に持ち見せてくれた。だが、まだ警戒しているのかスマホで顔を若干隠している様にも見える。


 やっぱり怖がられてるのかな、と不安に思いながらも打たれた文字を読んでいく。


「『あなたとお話しがしたい』って、俺と!?」


 思いもよらない告白につい大袈裟に驚いてしまい、少女の肩を少しビクッと震わせてしまう。


 俺、二階堂 じん17歳は目つきの悪さゆえ、女の子から…いや同級生の男からも「話がしたい」なんて言われた事がない。


 だからか、普段あまりオーバーリアクションを取らない俺でも大きな声を上げてしまった。まだ警戒モードの解けない少女に変な刺激を与えるのは良くない気もするが、身体が反射的に反応してしまっては仕方がない。


 俺は驚かせてしまった事に謝ろうと「ごめん」と首を左手で摩りながら言うと、綺麗な髪を左右になびかせ『大丈夫です、少しびっくりしただけなので』と警戒心の抜けない鋭い瞳で画面を見せて来る。


 表情と文字せりふが合ってないんだけど…


 まぁそれは置いといて、


「話がしたいって何を?」

『道をお尋ねしたくて、マンション窯菜かまなってどこにありますか?』


「窯菜か」


 俺は後ろを振り向き少女に分かるようにさっき出てきたマンションを指でさして「ここだよ」というと、少しだけ安堵した表情をするが俺の顔を見るとやはり警戒モードに入った。


 リアルでこんなに人と話すのは久しぶりだが、ここまで警戒されるとこっちもやりづらいな。


『ありがとうございます、今日ここに引っ越してきました和泉いずみ 奈菜ななって言います。これからよろしくお願いします』


 少し長めの文章を打つと軽く一礼をされてしまい「二階堂 陣です。こちらこそよろしくお願いします」と頭を下げた。


 朝の人通りの少ない道路でする挨拶なのかは分からないが、これで一件落着と言ったところか。


 これで俺の役目も終わりかな。


「それじゃ、俺は自分の部屋に戻るんで」


 そう言って少女に背を向け、歩き始める。


 ここのマンションは5階建てだから、隣の部屋でない限りたまに朝ペコッと挨拶する程度のご近所さんになるのだろう。


 あの感じからして、ご近所付き合いは苦労しそうだが隣人になる訳でもなければ俺には関係ない事だ。


 そう思い、さっき降りた階段を登ると後ろからコツコツと足音が聞こえて来る。


 一階ではないって事か。


 二階に辿り着き、階段を登りながら後ろをチラッと振り向くと部屋番号を確認しているのか少女が足を止めていた。


 二階か、ならもう関わる事もなくなりそうだな。


 俺はポケットからイヤホンを取り出し両耳につけ、音楽を聴く。


 最近はやりの曲は良く分かんないし、カラオケで歌うような曲も友達が居ないから聞く必要もない。


 では何を聞いているか、それはアイドル育成系ゲームの新しく出た一度聞くと耳に残ってしまうような、そんな曲だ。


 最近では色々なゲームが出てきて、シャニ〇スだのプロ〇カだの、バン〇リだのあるが俺は断然アイ〇リープラ〇ド派だ。因みに俺は片目が隠れた千紗ちゃん推しという事をここに宣言しておく。


 おっと、つい脱線しかけたが無事自分が住んでいる309号室に辿り付いた。


 俺は鍵をイヤホンを取り出した逆のポケットから出そうと手を入れると、


 ぽふっ


 と何かが背中にぶつかった。


 なんだなんだ?と後ろ振り返ると、ぶつかった衝撃か赤くなった鼻を抑えて少し涙目になっている少女…和泉さんが立っていた。


 イヤホンを片耳外し「えっと、まだ何か…」と聞くと、和泉さんは俺が今ポケットの中で掴んでいる物と同じマンションのカギを手に持ち見せて来る。


 ここのマンションではカギを落とした時にすぐどこの鍵か分かるように、部屋番号の書かれたプレスチックで出来たプレートが付いている。


 今、和泉さんが見せてくれたプレートには『310』と書かれていた。


 つまりどういうことかというと、


「お隣さんじゃねぇか!」という事である。

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