第65話 コスプリ

 学校帰りの男女がプリクラとは、青春してるよなぁ。しかも相手は人懐っこくて可愛い幼馴染だぜ? 本来なら大事な思い出、一生の思い出になるだろうな。


「見て見て! 衣装レンタルできるんだって! わぁ! このメイド服、すっごく可愛くない?」

「そうだな、良く似合うと思うよ」

「もぉ、小五郎ったらぁ! 私を専属メイドにして、身分の差を利用した強引なエッチがしたいだなんてぇ」


 呪いのせいで、悪い意味での一生の思い出になるんだろうなぁ。平たく言えば呪縛というヤツだな。解呪に成功してまともな彼女を作ることができたとしても、ふとした時に今日のことがフラッシュバックするんだろうな。それぐらい強烈な事件が起こる気がしてならない。


「……レンタル料は百円だってよ。ハハハ、良心的だな」

「わぉ、リーズナブル。お財布に優しくて助かるねぇ。うん、色んなコスプレ試してみようか! で、どうなの? 強引なエッチしたいんだよね? 『逆らうと父上に報告して、お前をクビにするぞ!』って脅して、嫌がる私に自らの意思で脱ぐことを強要したいんだよね? あっ、嫌がるってのはシチュエーションの話ね? 私が小五郎を拒絶するなんてことはありえないんだけど、無理矢理体を迫られるっていうシチュエーションも乙だよねぇ。ねぇ、そう思うよね? なんで乙女のアプローチを無視して、料金の話してるの? 主婦じゃないんだから、いちいち財布の中身気にしなくていいよ。っていうか私が主婦だからね? 小五郎の胃袋も給料袋もアレの袋も全部掴むつもりだから。あっ、物理的に掴むってことじゃないよ? アレの袋は物理的に掴む予定だけど、さすがに胃袋をガチで掴んだりしないよ。私の手料理以外を受け付けない体にするだけだって。これってかなり重要だよ? ちょっと料理ができるだけでモテると勘違いしてる愚かなクソメスが、小五郎にアプローチかけてくる可能性があるよね? だから、私以外の手料理を食べた瞬間、胃液スッカラカンになるぐらい嘔吐する体にしようと思うんだ。でも実際どうしたらいいんだろうねぇ。一番シンプル且つポピュラーな方法としては、私以外が作った料理を食べた瞬間に腹パンしたり、喉に指を突っ込んで吐かせるって方法かな? パブロフの犬的な? んー、でも調教とはいえ、小五郎に酷いことしたくないなぁ。まあいいや、時間も有限だしさっそくプリクラ撮ろうか! ほら、そこに更衣室あるから一緒に行こ?」


 ちょっとスルーしただけでこれだよ。人体改造計画が立てられていることを事前に知れたのは収穫かな? 回避方法が皆目検討もつかないけど。

 あっ、待てって、引っ張るなって! ほら、店員さんが止めに来たぞ?


「お、お客様。大変申し訳ないのですが、更衣室はお一人で……あっ、いえ、失礼しました。ごゆっくりどうぞ」


 や、役に立たねぇ! 楓がどんな顔をしてたのか知らんけど、女子高生相手に日和るなよ。大の男がよぉ。


「あっ、店員さん! このコスプレって、男の人が着ても大丈夫ですか?」

「………………………………はい、問題ございません」


 絶対に規約違反じゃん。お咎めくらっても知らんよ? 女子高生相手にビビッて規約違反を許したとか、そんな言い訳通じないからな?


「楓、よく見ろ。女性限定ってデカデカと書いて……」

「店員さんが公認してるんだから、気にしなくていいよ」


 違うんだよ、公認じゃなくて容認なんだよ。レスポンスの悪さが全てを物語ってるんだよ。

 しかしまあ、しぶしぶとはいえ店員が認めてるならいいか。もう世間体とかどうでもいいし、警察沙汰にならなきゃそれでいいや。

 女性物のコスプレに抵抗はないのかって? もう既にオムツ履かされたり、ツルツルになった下半身の写真撮られたりしてるし、今更コスプレくらい……。




 俺のコスプレはスモック、平たく言うと園児服だな。まあ、元は普通のファッションとか作業着の類なんだろうけど、なんにせよノーマルだな。チャイナ服とかじゃなくてよかったよ。

 ちなみに楓はミニスカポリスだ。まあ、これも普通だな。そもそも普通のゲーセンなんだから、まともじゃないコスプレなんか置いてないんだけどね。

 意外だったのは、更衣室が行為室にならなかったことだ。色々と覚悟していたんだけど、お互い普通に着替えて終わりだったよ。

 ……何も変なことしてこなかったから、素直に興奮しちゃったよ。この期に及んで正常に機能する局部が忌々しい。


「じゃあ最初のシチュエーションを発表するね?」

「……おう」


 ま、まあ、コスプレプリクラ、通称コスプリならシチュエーション決めるぐらい普通だよな。内容も普通であることを祈ろう。


「ねぇ、今の小五郎は園児だよ? 皮の被った園児だよ? まあ、小五郎は元から仮性だけどね。で、何が言いたいかわかるかな?」

「……返事……だよね」

「そうだよ、よくできましたぁ」


 ありがとう、委員長。お前の赤ちゃんプレイのおかげで、すんなりと楓の言葉の真意を理解できたよ。でももう二度としたくないです。


「まず一枚目は〝ヤンチャな園児にエッチなイタズラをされる婦警さん〟でいこうと思うんだけど、いいよね?」

「……うん!」


 ポピュラーと言えばポピュラーなのかもしれんけど、注文が絶妙に難しいな。

 生半可な演技は許されないわけだが……どこまでやればいい? ヤンチャな園児によるイタズラというのは、性欲とかじゃなくて純粋なイタズラ心なわけであって……子供ゆえに歯止めが効かないけど、そこまでエッチなイタズラはしないよな? でも楓はエッチであればあるほど喜ぶし、下手に手加減すると怒りを買う恐れが……。


「え、えいっ!」


 とりあえずスカートをめくってみた。幼稚園児ならこのレベルが限界だと思うんだけど、どうだろうか?


「きゃっ!」


 えっと、OKってことか? お咎めなしってことは、正解?


「…………コラッ! メッ! だよ!」


 おー、なりきってんなぁ。仕草がそれっぽいぞ。でも今の間は一体……?


「ご、ごめんなさい……」


 これプリクラの中でやる必要ある? っていうか、どのシーンで写真撮るつもりだろうか。まだお金すら入れてないんだけど。


「はぁ……。小五郎? やる気ある?」

「え、ええ? 真面目にやっただろ?」


 俺の演技になんの不満があるんだろう。もしかして演劇部レベルの演技を期待してらっしゃる? 素人相手にそれは酷では?


「あのね? 今の小五郎は園児なんだよ? スカートめくって、相手が悲鳴を上げたら喜ぶよね? イタズラが成功したんだから」

「……そう……かな? そうかも」

「怒られても気にせず、グイグイ、スカートを引っ張るよね?」


 いや、それは人によらん? 大人に怒られたらすぐ日和る園児もいると思うよ?


「で、私がスカートをガードしたら、次はおっぱいを揉むよね? 園児なんだから」

「そ、そういうもんか?」


 それ、性欲目覚めてない? 園児ってそういうもんなの?


「とにかくもっと責めてきてよ。そうしないと次のシチュエーションにいけないよ」

「次のシチュエーションとは……?」

「今は気にしなくていいよ。はい、じゃあお金入れるよ? 本番なんだから、失敗しないでね?」


 ……長くなりそうだなぁ。いや、長くなるだけならまだいいんだけど、どこまでいくんだろうか。最終的に出禁レベルのことをやらされそうで怖いんだけど。


「え、えいえいっ!」


 今はとにかくプレイに集中しよう。中途半端な演技をしたら、一生終わらないだろうし。比喩とかじゃなくて、ガチで一生かかりそうだし。


「きゃっ」


 演技……じゃなくて素っぽいんだよな。なんで今更こんなしょうもないプレイで赤面できるんだろう。


「え、えへへぇ」


 可能な限りアホっぽい笑みを浮かべながら、スカートを引っ張る。レンタルの衣装だけど、遠慮したら最悪な目に遭わされかねんし、破れない程度に力を込めよう。


「も、もう! やめなさいったら!」

「や、やめないよーだ!」


 楓はかなり真っ赤になっているが、俺もそれなりに赤面してる気がする。理由は違うだろうけど。

 あの、どうでもいいけど、外にいる人からしたら俺が強引に迫ってることに……。


「ま、ママに言いつけるわよ?」


 どうしよう、一瞬委員長の顔が出てきたよ。俺だいぶ毒されてんなぁ。


「や、やだっ! 言わないで!」


 楓に抱きつき、胸に顔を埋める。我ながらパーフェクトじゃない?

 ……はぁ。何やってんだろうな、俺。帰りたいよぉ……。

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