第58話 知力向上イベント
なんで剃毛プレイを先にやっちゃったんだろうなぁ。それがなけりゃ、素直に興奮することができたのに。
気持ち良くない上に評価下がるって最悪だろ。いや、気持ち良かったといえば気持ち良かったんだけど、どうしても剃毛が頭をよぎるんだよ。保険医に乳をしゃぶらされてる間も『柔らかいし気持ち良いけど、俺この人の脇毛を剃ったんだよなぁ』って考えちまって、堪能できなかったよ。
「ホンッッッット、男ってサイテーね」
〝ッ〟が異常に多い、キツツキかよ。その溜めが長ければ長いほど、俺にダメージ入るからやめて。
「待ってくれよ白、ありゃ呪いのせいだっての」
「それは保険医の奇行の話でしょ? アンタが鼻の下と股間を伸ばすのは、呪いと無関係じゃない。この下半身ピノキオ!」
しょうがないだろ、男子高校生なんだから。自分の意志で制御できねぇっての。
「助けてくれたことについては感謝するけど、責めるのは違うだろ? 俺も被害者なんだからよ」
「アンタを保健室まで運び、ピンチの時にさっそうと駆けつけた私に逆ギレ? アンタ何様なの?」
あっ、やべっ、喧嘩に発展しそう。俺に非はないはずだけど、謝っておこう。早め早めに折れるようにしないと、ろくなことにならないもん。
「スマン、礼が先だったな。助けてくれてありがとうな」
できればもう少し早く来てほしかったけど、授業があったから仕方ないよな。牛乳味の乳をしゃぶらされただけで済んだことを素直に喜ぼう。いや、マジで白が来てくれなかったら、何をされてたかわからんかったよ。
「フンッ、口でならなんとでも言えるわよ」
それはそう。特に刺さるわ、俺みたいに一時しのぎを多用する人間には。
態度の大きさに思うところはあるけど、このまま平謝りし続けよう。
「生理現象だから勝手に反応しちまっただけで、俺は先生より白のほうが魅力的だと思うぞ」
だって呪われてないもん。黒川先輩の呪いを受けた人は、女性として死んだも同然だよ。あっ、でも白は呪われていないにも関わらず、公衆トイレで……。
「……どうせ巨乳が好きなくせに」
イジケてるけど、多分内心では喜んでる。ちょっとニヤけてるし、やたらと髪の毛弄ってるし、なんならちょっとクネクネしてるし。
呪いがなければ非モテ代表の俺だが、さすがにわかるぞ。これは『もっと! もっと褒めて!』ってことだろ?
だからストレートに褒め殺し……ってのは素人考えだ。メンヘラとかヤンデレ相手ならば、少し遠回しに褒めるのが正解に違いない。なんなら煙に巻くのが理想だ。
「自然淘汰とか性淘汰ってあるじゃん?」
「ダーウィンがどうしたってのよ。私が天才だからって、急にアカデミックな話しないでよ」
アカデミックな話題かどうかはおいといて、さすがに知ってるか。なら話は早い。
「巨乳が正義なら、世の中は巨乳だらけのはずだろ? あんなの……胸の大きさって遺伝子によるところが大きいだろうし」
「…………」
あれれ? ジト目向けられてるぞ? おかしいな、貧乳に対して精一杯の擁護をしたつもりだったんだけど。
ほら、人間って生まれつきの才能のせいにしたがる生き物じゃん?
「つまり好みは人それぞれって言いたいの? 自然淘汰とか、もっともらしいことを言ったわりに、結論は月並ね」
そんな棘のある言い方しなくてもいいじゃん。月並の何が悪いんじゃい。
「仮に十人十色だとしても、アンタが巨乳好きの俗物ってことに、変わりはないんだけど? 下手な自己弁護は身を滅ぼすから、覚えておきなさい」
別に巨乳好きではないんだけど、自己弁護に関してはぐうの音も出ねぇ。暴論と正論が入り混じってると、反論に困るよね。
いや、俗物はおかしいだろ。自分が貧乳側だからって、悪質な印象操作をするのはやめていただきたい。素直にありのままの自分を愛せよ。強く生きてくれ。
「巨乳好きってわけじゃないけど、仮にそうだとしても白が良いよ」
「……どこが? 大は小を兼ねるわよ」
それはいくらあっても困らない物に限るだろ。
「だってほら、形とか色とか綺麗だったし……」
「でもアンタ、熊ノ郷とか保険医ばっかり見てたじゃない」
いや、嗜好がどうであれ見ちゃうだろ。その人に興味なくても、二メートルの人が電車に乗ってきたら見るだろ? 子猫が好きでも、近くにゾウがいたらそっちに目がいくだろ? そういうもんだって。生き物ってそういうふうにできてんだよ。
「あのなぁ、呪いの影響受けてない時点でお前が一番なんだよ。もう俺はまともな女友達なんてできないって、諦めてたんだから」
まあ、それに関しては呪いにかかる前からだけど、この際どうでもいいだろ。
一体どうすれば説得できる? 信じてもらえる?
「熊ノ郷と蜂蜜ディープキスして、保険医と牛乳で授乳プレイして……それで下半身元気になってんだから、もう何言っても遅いわよ」
改めて聞くと酷い字面だけど、一つわかったことがある。
コイツ……コイツ……コイツ……。
「話変わるけど私今、お菓子を持ってるのよ」
コイツも食品プレイを求めてやがる!
よくよく思い返すと、白って他の子と同じことをしたがる傾向があるんだよ。公衆トイレの地獄プレイとか、剃毛プレイとか、ドン引きしながらも最終的には混ざってきたじゃんよ。
「……何をしてほしい?」
「やってくれんの?」
「ああ、白は比較的理性があると信じてる」
比較対象が比較対象なだけに褒め言葉になってないが、嘘はついていない。あの二人よりは、まともなプレイを提案してくれると信じてるよ。
「これ知ってる? 〝こねこねこねーる〟ってお菓子なんだけど」
「ああ、子供の頃に食べたよ。懐かしいな、おい」
確か知育菓子の一種で、混ぜたら色とか味が変わるんだっけ? これを含んでキスかぁ……。まあ、蜂蜜よりはマシか? どっこいどっこいな気もするけど、人目につかないところで短時間のキスならまあ。
「今から口を開けるわ」
「ん? うん」
「アンタはそのお菓子の中身を私の口に入れて」
「お、おお、わかった」
俺の手ずから食べたいってことね。可愛いもんだよ、これぐらい普通のカップルでもするし。
えっと、どうやって作るんだっけこれ。久々だから覚えてねぇや。
「この容器に全部入れて混ぜるんだっけ?」
「は? アンタ、話聞いてた?」
聞いてたけど? どこに地雷があるかわからんから、お経以外は一言一句逃さないように耳を広げてるよ。
「私の口の中で、こねこねこねーるを作りなさいって言ってんのよ」
「は?」
「ほら、早くっ」
餌を貰う雛鳥のように口をパカッと開く白。え、しかもここでやんの? こんな廊下、天下の往来で? 女子の口の中でこねこねこねーるを作るっていう変態プレイをかまして、そのままキス? 俺、本格的に死ぬよ? もう学校にこれないよ?
「何をモタついてんのよ。ひょっとして下の口のほうが良かった? こ、この破廉恥大臣! わかったわよ! そこまで言われちゃこっちも引けないわ! ご開帳や!」
「上! 上でいいから! 俺はお前の口内で知育したいんだ! お前の口の中で大人の階段を登りたいんだ!」
「もう……がっつきすぎよ? 大胆を通り越して異端ね」
乙女のような恥じらいを見せているところ申し訳ないけど、こんなとこでパンツを半脱ぎするお前にだけは言われたくない。クネクネしてないで、さっさとパンツを上げてくれ。絵面の変態度が増すから。
「ほら、早く。早く、アンタの(持ってる粉)で私の口をドロドロにして! アンタの(持ってるかき混ぜ)棒で口の中をかき混ぜて!」
「目指せ東大!」
時間をかければかけるほど誤解が広まるので、説得を諦めてこねこねこねーるをぶち込んだ。妖艶さと下品さが同時に押し寄せてくるという不思議な感覚に見舞われ、精神がおかしくなりそうだったが『泡吹いてるカニみたいでおもしれぇな』と考えることで事なきを得た。
久々に食べたこねこねこねーるは記憶よりも美味しかったよ。こねこねこねーるの
知育菓子だけあって、俺はまた一つ知見を得た。パンツ半脱ぎ状態の女子の口の中で知育菓子を混ぜてディープキスすると、全人類から避けられるっていう知見をな。
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