第50話 通り魔的ハーレム形成
あー、涼しい。やっぱり夏はドラッグストアだよなぁ。まだ夏じゃないけど、この暑さなら夏でいいだろ。季節なんて気温だけで判断すればいいんだよ。なんだよ、二十四節気だの太陽暦だの旧暦だの、難しい話すんなよ。
それにしても、なんでも置いてるよなぁ。スーパーの上位互換じゃん。土地もったいないし、全国のスーパーとコンビニ潰してドラッグストアにしようぜ。
「アタシのオススメはこれだな。肌荒れしねーし」
「椛ちゃん一人で使うならいいけど、五人で使うんだよ? チューブタイプじゃ足りないんじゃないかな」
「全身脱毛するわけじゃねーし、足りるだろ」
「坂本はどう? こだわりあんの?」
……はぁ。意味不明なことを考えて現実逃避する暇もないってか。
「使ったことないからわからんよ」
っていうかさ、男一人と女四人で除毛クリームを買いに来るって、中々の地獄絵図だぞ。いたたまれないんだけど。
知らんけど、普通って一人でこっそり買いに来るもんだろ? なんだったら、通販とかで買うもんじゃない? いや、ムダ毛処理が恥ずべき行為だとは思わんけど、白昼堂々と買い求めるものでもないというか……。
「男女で毛や肌に差があるから、選ぶのが難しいわね」
……今思ったんだけど、別に同じのを使う必要なくない? 各々が合うヤツでよくない? 除毛クリームって割り勘して共有するようなもんなの?
「小五郎は毛深くないから、女性用でもいけるよね?」
「……わかんない」
「肌も女性寄りな気がするし」
「……わかんない」
触診でわかるものなのか? 自意識過剰みたいで言いにくいけど、ただ俺の腕を触りたいだけじゃないのか?
「敏感肌だったりする?」
「……わかんない」
ダメだ、自分の肌とかメンズケアに関心が無さ過ぎて〝わかんないBOT〟に成り下がってしまっている。
あんまりこういう回答を続けてると……。
「あのさぁ、真剣に考えてくれる? 小五郎の体だよ?」
ほら、こうなっちゃうんだよ。いや、言いたいことはわかるよ? 俺がやってることは『何食べたい?』って聞かれて、『なんでもいい』って答えてるようなもんだもんな。でも仕方ないだろ? こんな質問、普通は答えられないって。俺に非はない。
「後から『チンコが痛い』とか言っても、知らんよ?」
あんまり屋外で男性器の名称を口にするな。初心じゃなかったのかよ。
「なんか緊張するわね。まさかアンタとクリームを塗り合うなんて」
「え、俺が白に塗んの?」
今回って腕とか足の脱毛じゃないよな? デリケートゾーンだよな? どんなプレイだよ。既にもっとヤバいプレイをしてるけど、だからといって他のプレイが余裕になるかと言ったら、それはまた別問題だろ? 四十度の猛暑に耐えたからって、三十九度の猛暑が余裕になったりはせんだろ?
「そうだねぇ、全員分は負担が大きいだろうし……。やっぱり幼馴染の私が代表ということで……」
「柊木さん、そういうことを言い出すと戦争になるわよ?」
「そーだぞ。戦争ってのはいつだって、こういうのが原因なんだからな」
どの本を読めば載ってますかね、その戦争。人類ってそこまで愚かじゃないと思うんだけど。
「坂本が一番塗りたいと思ってる相手に塗るのが、一番効率的じゃない?」
自分が選ばれると信じてやまない顔してるな。お前を選ぶと、一番こじれる気がするんだけど。
でも白だよなぁ。呪い三人組から選ぶより、唯一呪われてない白を選ぶのがフェア
な感じがするし。そもそも解呪してもらわなきゃいけないから、媚びを売らざるを得ないんだよなぁ。
「じゃあ白で……」
諦めの境地、断腸の思いで選んだのだが、白は得意げにしている。こういう仕草は可愛いんだけどなぁ……。
「フフン。そうよ、人間素直が一番……」
「幼馴染である私を差し置いて、ポッと出の白ちゃん? 幼馴染と真逆の存在だと思うんだけど、どうして? どうしてそんな愚かな選択をしたの? 剃毛ってのは、本当に信頼している相手にしか任せられないことなんだよ? 夫婦でも中々できることじゃないの。お互いに剃毛しあえる関係って、それはもう幼馴染しかなくない? いつもそうだよね、男の人って。ワンナイトラブだのソープだのパパ活だの、愛を育むという発想がハナからないんだよ。その場の勢い任せでまぐわっても、良いことなんて何もないんだよ? お互いのことや経済面を考慮せず、衝動的に子供を作ったら、子供が不幸になるんだよ? それって男と女で片づけられる問題じゃないよね? 無関係の子供に不幸を背負わせちゃいけないよ。一年……いや、一秒でも長く同じ時を過ごすことで愛が育まれるんだよ。つまり現時点で最も愛を育んでいるのは、私と小五郎。逆に言えば、もっとも愛が育っていないのは小五郎と白ちゃん。いや、育つも何もないかぁ。枯れた朝顔に水あげたってしょうがないもんね。そんなシナシナの雑草よりも、私の花びら……」
「いつまで幼馴染マウント取ってんだ? オメー、付き合いが長いとか言いつつそれしかねえのな。え? 付き合いなげーのに、エピソード少ないってヤバくね? それスカスカじゃね? むしろアタシと……こ、小五郎の関係のほうが良くね? 時間にすればたったの一年かもしれんけど、濃密な一年だったぜ? 出会ったその日から、コイツはアタシの顔と尻と胸ばっかり見てたんだぜ? 休日もきっとアタシを想いながらチンコを弄ってたはずだ。つまり三百六十五日以上、同じ時を過ごした計算になる。それに引き換え柊木は、ろくに口も利かねえ日々が続いてたんだろ? それ赤の他人に他ならないと思うんだけど、なんで幼馴染マウント取れるん? 自分で言ってて悲しくならね? アタシが幼馴染だったら、もうとっくに押し倒されてるはずなんだけど、アンタは? ただの片思い拗らせた化け物……」
「妄想を元に話すのやめたほうがいいよ? 確かに椛ちゃんは、無駄にお肉ついてるけどさぁ、だからって小五郎が見るわけないじゃん。小五郎は、あの日私を裏切ったことを常に後悔してるから、他の女のことを考えてる余裕なんてなかったよ。そう、常に私のことを考えてたの。どうやって仲直りするか考えてたんだよ。男の子は単純だから、汗だくでディープキスしてズッコンバッコンすれば一発で仲良くできると考えてたんだろうね。まぁ、それは正解行動なんだけど、怖かったんだよね? 私が許してくれない可能性があると思って、日和ってただけだよね? あと、男のプライドってヤツ? とにもかくにも私のことばかり考えてたんだよ。頭の中では常に、私と仲直りセック……」
「はいはい、ストップ、ストップ。小五郎ちゃんはつい最近あんよを覚えたばかりだから、当時はそういう感情がなかったわよ。まぁ、今もまだないけどね? そんな子相手に男女の関係を持ち込もうとするなんて、不純だと思わないかしら? すぐに愛情と性欲を結びつける癖、直したほうがいいわよ? 小五郎ちゃんに必要なのは、ママの愛だけなの。自分の欲を満たすことしか頭にないアバズレに、無償の愛なんて与えられないの。ママレベルが足りてない貴女達は、小五郎ちゃんに近づく資格すらないのよ。さぁ小五郎ちゃん、ママと一緒に除毛クリームを選びましょうねぇ」
……怖い。
ただでさえ視線集まってたのに、舌戦なんか繰り広げたら……。
「お、お客様……。大変申し訳ございませんが……」
店員さんが来ちゃうんだよ。いや、こちらこそ本当に申し訳ない。
「何かしら? アンケートなら後にしてもらえます?」
「い、いえ……その……他のお客様もいらっしゃいますので……」
本当にごめん。もう誰の手にも負えないんだ、許してくれ。
ああ、マジで可哀想。時給いくらか知らんけど、今日に限っては三倍出してあげてほしいよ。バイトだろうけど、ボーナス出してあげてほしい。
しかもお前、よりによってこんな明らかに未成年のアルバイトが、化け物の相手をするなんて……。とにかく逃がしてあげないと……。
「あ、あの……。こいつらちょっと興奮してるんで……」
「きゃっ!?」
「と、とにかく離れてください」
セクハラで訴えられかねないが、今はそんなことを言っている場合ではない。強引ではあるが背中を押して、楓達から離れさせる。
「お、お客様……」
「すみません、でもこのままじゃ貴女に危害が……」
さすがに暴力沙汰はないと思うが、絶対大丈夫とは言い切れん。だって呪いだぜ?
「小五郎? なんで私以外の女に触れてるの? っていうか、まるで私達が危険人物みたいな扱いじゃん。椛ちゃん達はともかく、私は安全人物なんだけど?」
なんだよ、安全人物って。いや、そんなこと気にしてる場合ではない。
「お、俺がなんとかしますから……とにかく向こうに行っててください。本当にご迷惑を……」
「小五郎、そこどけよ。ちょっとその女に話が……」
「店員さんに迷惑かけるなって! ステイ! ステイ!」
見境がなさすぎる。まさか店員さんまで女扱いするとは、さすがに予想外だ。
三人同時に抑えられる自信はないけど、店員さんや他の客を守らねば……。
「……優しい殿方……」
……ん?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます