第49話 ツルツルツルリン

 ゴチャゴチャ揉めたが、そのおかげか白も落ち着きを取り戻してきたらしい。全て許したってわけじゃないだろうけど、クソみてぇな撮影会に興味をそそられたのか、屈託のない笑顔を浮かべてらっしゃる。


「坂本、隠さないほうが男らしいよ?」


 白の野郎……とことんまで楽しみやがって。


「いや、撮影はさすがに……」

「いいから早く手をどけろって、せっかく柊木がカメラ持って来たんだから」


 何がせっかくだよ、慈善事業みたいな言い方をするな。

 とはいえ逆らっても中止になることはないだろうし、腹をくくるしかあるまい。


「いいね、いいね。その表情そそるねぇ」


 なんだか楓がAVカメラマンに見えてきたな。個撮ってこんなノリなんかな? とてもじゃないが、正気の沙汰とは言えんぞ。


「いいよ、いいよ。次は開脚しよっかぁ」


 尊厳が……人としての尊厳がとことんまで破壊される……。

 なんでわざわざ、お高そうな一眼レフなんか持ってくんだよ。高画質で俺の痴態を残してなんになるというのだ。せめて、もう少し画質の悪い旧世代のカメラにしてくれよ。シワとか毛穴までくっきり残す必要ねえだろ。


「なぁ、楓? その写真、一体どうするつもりなんだ?」

「さっき言わなかったっけ? 朝顔の観察日記みたいに、毎日写真撮ってアルバムにする予定なんだけど」


 控えめに言って、頭おかしいんか? そんなアルバム、呪物以外の何物でもないだろ。何かの間違いで他の人の目に留まったらどうすんだ? トラウマ不可避だよ。


「柊木、ちょいと閃いたんだけどよ」


 嫌な予感しかしない。何を閃いたかは知らんが、助け舟ではない気がする。


「初日じゃん? 剃らね?」


 ……なんて?

 そらね……空ね……剃らね……。え? まさか剃毛を所望してる? 午前中のプレイが常軌を逸してるので今更感があるけど、剃毛ってかなりアブノーマルでは?


「なるほどぉ、毛で変化をつけるわけだね。椛ちゃん凄い!」


 本体が不気味に成長することはないから、代わりに毛が伸びる様子を観察しようって魂胆か? あのプレイよりはまだスジが通ってるけど、ヤダよ?


「熊ノ郷さんにしては良い提案ね。やっぱりツルツルじゃないと」


 やはり赤ちゃんプレイを嗜む者にとって、陰毛は邪魔なんだな。また一つ、知見を広めてしまったよ。


「私が除毛クリームを塗ってあげるわ。袋までツルツルにしてあげる」


 白、お前まだ握り潰そうとか考えてないか? お前にだけは絶対やらせんからな?


「は、肌荒れとか怖いし……」


 無駄だとは知りつつも命乞いをしてみることにした。肌荒れが怖いというのは、強ち嘘ではない。除毛クリームのことは良く知らんけど、局部に薬品って怖いじゃん?


「安心しろ、VIO対応のクリームを使ってやっから」


 ギャルってのは、すぐ難しい美容用語を使うから困る。VIPだかVIOだか知らんけど、得体の知れないクリームなんざ絶対に使いたくない。というか、局部を剃毛したくない。ましてや同級生の手で行われるなんて、絶対にヤダよ。


「ビビりすぎだよ、小五郎。パッチテストすれば大丈夫だから」

「あっ、そういうのあるんだ……」


 それって肌荒れの恐れがあることの裏付けじゃない? やっぱり良くないって。


「そもそもなんだよ、除毛クリームって? シェービングジェルみたいなもんか?」

「ハハハ、全然ちげーし。ムダ毛を溶かすんだよ」


 こ、怖くね? それって要するに、排水溝の詰まりを溶かす液体と同じようなもんだろ? 毛根が死にそうで嫌なんだけど。


「勘弁してくれよ、いや、マジでさ」

「そんなに嫌なの? 毛がないほうが可愛いよ?」


 求めてないんだよ、局部の可愛さなんて。


「てかさ、なんでさっきから通常サイズなん? 全然勃たねえじゃん」


 なんでってお前、排便プレイした時点でお前らに畏怖しかねえんだよ。呪いの影響とはいえ、もうお前らを異性として見れねぇよ。


「我慢してるの? 小五郎ちゃんは偉いわねぇ」


 だから下半身に話しかけるのはやめろ。褒められても全然嬉しくないし。


「縮こまってんのよ、掴まれかけたから」

「小五郎ちゃんはそんなヘタレじゃないわ。佐々木君と一緒にしないで」

「さっきから誰? その佐々木って」

「ウチのクラスにいる、母性をくすぐらないクソよ」


 お前ら本当に、アイツに何をされたんだよ。母性をくすぐるか否かで人を評価してるのもおかしいし。


「とりあえず剃るのと、クリームで処理するの、どっちがいい? 私は理解ある幼馴染だから、小五郎の意思を尊重するよ」

「何もしないって選択肢を取らせてくれ。あと、そろそろパンツを履かせてくれ」

「冗談はいいよ、もう。さ、どっち?」


 全然意思を尊重してくれないんだけど。え、俺もう剃毛確定なん?


「あっ! すげえ良いこと閃いた! アタシ、マジで天才なんだけど!」


 もう何も閃かないでくれ、頼むから。お前のは閃きじゃなくて、独りよがりな思い付きなんだよ。迷惑だからやめてくれ。


「ほら、これからアタシ達のアルバムも作るじゃん?」

「そうね、小五郎ちゃんの撮影テクニックの見せどころね」


 え、何それ? いつの間にそういう流れができてたの? なんかコイツら、当然のように通じ合ってるけどさ。しかも俺が撮影すんの?


「でさ、アタシ達も剃るわけじゃん?」

「は? 嫌なんだけど?」


 良かった、白はまだ正常らしい。比較対象が比較対象なだけに、まだまだ異常の範疇なんだけど。


「そもそも写真を撮られるのが嫌だわ。こんなヤツの股間と、私の美ボディを同等に扱うってのがおかしいのよ」


 価値が釣り合ってないことは否定しないけど、できれば撮るほうにも嫌悪感を示してほしかったなぁ。


「第一、あの時は空気感に呑まれたけど……密着したまま大便なんて、どう考えても頭おかしいわよ?」


 呪いの影響を受けてないだけあって、まともな感性を持っているようで安心した。空気感に呑まれたってのは反省ポイントだけど。いや、普通の感性してたら呑まれねえよ。やっぱコイツもおかしいよ。


「じゃあ白ちゃんは帰ってくれる? ここからはノンストップストリップだから」


 上手いことを言ったつもりだろうか? ピクリとも笑えないんだけど。


「なんで帰らなきゃいけないのよ。まだコイツの股間潰してないのに」

「ま、まだ諦めてないのかよ」

「諦めるわけないでしょ? 私みたいな美少女の顔面に、そんな汚い物をこすりつけたんだから、まずは去勢でしょ?」


 なんだよ、〝まずは〟って。続きがあんのかよ。第一歩が重すぎるだろ。


「しつけーな。アタシの玉に手を出すなし」


 庇ってくれるのは嬉しいけど、俺の玉です。せめて〝アタシの男〟だろ。


「坂本、責任取るってどういうことか知ってる? 結婚か去勢よ」

「逆異世界転生でもしたのか?」

「は?」

「いや、なんでもないッス……」


 倫理観について突っ込んだつもりだけど、どうやら通じなかったらしい。というかやっぱりコイツ、俺のこと好きだよな? 思春期特有の思い込みじゃなくて、明確に好意持ってるよな?


「さっきの件を抜きにしても、私のトイレ顔を見たんだから責任取りなさいよ」


 なんだよ、トイレ顔って。キス顔みたいに言うなし。いや、確かに恥ずかしいだろうけどさ、お前が勝手に見せたんだろ。


「聖さぁ、義母さん達が気に入ってるから慈悲でこの場にいさせてやってるけど、アンタはここにいちゃいけないんだぜ?」

「なんでアンタみたいなアホギャルにそんなこと言われなきゃいけないのよ」

「悪いけど聖さんにだけは小五郎ちゃんを渡せないわ。他の子達もダメだけど、聖さんだけは特にダメよ」


 なんか知らんけど白への当たりキツくね? 俺に危害を加えようとしてるからか?

 いや、逆に考えてみよう。コイツらってヤンデレのくせに、妙に仲間意識が強くないか? 標的が同じなのに、徒党を組んでるっていうか。

 要するに、呪いを受けていない白は敵ってことか? っていうかそもそも、なんで呪いの影響受けてない白が俺に好意を向けてんだ?


「アンタらがどうこう言ったところで、コイツが私と子作りしようとしてるのは事実だから」


 人の股間を指差すな。子作りに関しては誤解だから。

 ……俺はどう動くべきなんだ? 俺への好意はさておいて、解呪師の白は味方につけておくべきだよな? コイツもヤンデレ達とそこまで変わらん気がするけど。


「まあまあまあ、仲良くしようぜ? クラスは違えど、同級生じゃんか。せっかく知り合えたんだから、縁を大事にしようぜ?」

「チンコ丸出しで何言ってんの? ウケる」

「しまっていいのか? 椛よ」

「ダメに決まってんじゃん。アホなん?」


 じゃあ丸出しなことに言及すんなよ。俺だって、出したくて出してるわけじゃねえんだから。


「じゃあ白ちゃんも毛を剃って、写真撮るってことでいいよねぇ?」

「できねーなら帰れよ? そこは譲れねぇから」


 滞在することの条件が剃毛ってどうなんだろ。


「郷に入ってはなんとやらね……。ふんっ、さっさとクリーム買いに行くわよ」


 おい? なんで折れるんだよ、抗えよ。お前まで剃毛側に行ったら、俺が本格的に逃げ場失うじゃねえか。

 クソ、尊厳の次は陰毛まで失うのかよ。局部の肖像権も失っちまったし。

 俺、どうなるんだろ……。

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