第48話 破砕神
あっぶねぇ……もう少し長く絞められてたら、完全に気絶してたと思う。
下半身丸出しで気絶とか末代までの恥だわ。下半身丸出しの時点で恥だし、そもそも俺が末代な気もするけど。
「わりぃ、わりぃ。大丈夫か?」
「あ、ああ……。どっちかと言えば股間のほうがいてぇ……」
もう少し勢いが強かったら致命傷だったかもしれん。もし潰れてたら、ダーウィン賞もんだろ。
あっ、そういや白はどうなった? もろに顔面直撃したっていうか、もろが顔面直撃したっていうか……。
「まっすぐ掴んで握り潰す……まっすぐ掴んで握り潰す……まっすぐ掴んで握り潰す……まっすぐ掴んで握り潰す……」
闇落ちしてる!? 目に光がねえんだけど!? なんか
このままだと本当に末代になっちまうよ。次世代製造工場が破壊されちまうよ。
まずい、コイツはヤンデレ組と違って自分の意思で動いてるから、セーブ機能みたいなものがねぇんだ。
俺の推測が正しければ他のヤツらは、呪いによって俺に物理的な危害を加えたくないって意識が働いてる。現に熊ノ郷は早めに絞め技を解いてくれたし。だけど呪いにかかってない白は、自分の感情の赴くままに行動するだろう。
「ま、白! その手の動きは一体……」
「見てわかんないの? 握り潰すっていう意思表示だけど?」
だよな! マジで勘弁してくれ! 皆も同じ立場になればわかるけど、下半身丸出しの時にそういう脅しをされるとマジで怖いんだよ。平常時に『指を切るぞ』って脅されても平気だけど、まな板に指を固定された状況だとめっちゃ怖いだろ? つまりそういうことだよ。
「待ってくれ、シャレにならんから……」
「シャレじゃないし!」
「落ち着けって!」
あっぶねぇ……間一髪腕を掴んで制止できたが、もう少し反応が遅ければ股間を掴まれていた。まさか本当に掴みかかってくるとは思わなかったぞ。
「聖さんだっけ? 小五郎ちゃんをイジメないでくれるかしら?」
「うるさい! コイツが……コイツが私を襲って……」
「事故よ。器が小さいわね」
いいぞ、委員長! 頼む! 白を止めてくれ! 俺の腕力じゃ長くは持たん!
「聖ぃ、お前ホントに坂本のこと好きなん? フツー喜ぶことじゃね?」
味方にこんなこと言うのもなんだけど、喜ぶことではなくね? 仮に恋人でも、気持ち悪いだろ。
「はぁ? こんなヤツ好きじゃないし!」
「あっぶ!」
不意打ちで蹴りは反則だろ。集中力マックスだから避けれたけど、平常時だったら被弾してたぞ。
「聖、その辺にしとけって。高校生なんだから、危険性ぐらいわかんだろ? 佐々木以外にそういうことしちゃいけねえんだよ」
いや、佐々木君でもダメだって。あの子になにされたんだよ。
「白、本当に悪かった。もう二度としないし、一生お前に関わらんから許してくれ」
「…………」
「うおっ!?」
危ねえな! 無言で握り潰しにくるなよ!
だがこれで両手を封じることができた。後は前かがみの体勢を保ち続ければ、致命傷は避けられるはずだ。
「坂本、大人しくすれば手加減してあげるわよ」
「……どれぐらい手加減してくれる?」
「もう一滴も涙が出ないってぐらい泣いたら離してあげる」
それはもう極限までいってるのよ。人には散々アブノーマルなプレイを強いておきながら、自分が被害者になった途端にこれかよ。怒る気持ちはわかるけど、自分がしてきたことと相殺にしようって考えはないのか? まさかコイツには、水に流すって考え自体がないのか?
「お前なぁ、いい加減にしろって、聖。万が一にでも潰れたら、取り返しつかねえんだぞ? 軽い気持ちでやっていいことじゃねえんだよ」
熊ノ郷がすっげぇド正論言ってる。なんでそこまでわかってて、佐々木君相手には容赦ないんだよ。
とにかく頼む、上手く説得してくれ。お前らだけが頼りなんだ。
「じゃあアンタ、コイツが他の女と付き合っても手を出さないのね?」
「いや、二個ともぶっ潰すけど……さすがに」
おい? なんだよ『さすがに』って。『当たり前ですけど?』みたいな言い方すんなし。普通はそこまでせんから。
「とにかく! アンタも男なら抵抗すんな! どう考えてもアンタが悪いでしょ!」
「だからアレは事故で……」
「事故だったら何してもいいの? 車で人を轢いても悪意がなきゃいいの?」
言ってることはごもっともだけど、鉄拳制裁していい理由にはならなくない? 私刑は認められてないぞ?
ああ……ようやく痛みが引いてきた。だが、痛みが無くても腕力差が凄い。もう限界が近い、早く助けてくれぇ。
「委員……ママ! 助けて!」
プライドを捨て、委員長にすがることにした。幼児退行して頼めば、なんでもしてくれるはずだ。見返りを求められるかもしれんけど、この場が丸く収まるなら……。
……委員長? なんで動かない? 何を考えあぐねている?
「小五郎ちゃん、教室での赤ちゃんプレイを解禁してくれない?」
「は? こんな時に何を……」
「嫌なら別にいいんだけど」
そう言って漫画を読みだす委員長。こ、こいつ……白を利用する方向にシフトしやがった! もういい、コイツには頼らん。まだ熊ノ郷が……。
「熊ノ郷……助け……」
「椛って呼んでくれん?」
こ、コイツもか……。お前らのやってることは、崖にしがみついてる人に『この契約書にサインしたら引っ張り上げるよ』って言ってるのと同じだぞ。恥を知れよ。
だがまあ……下の名前で呼ぶぐらいならいいか。安いもんさ。
「椛、助け……」
「教室でキスしてくんね? 皆が見てる前で濃厚なヤツ」
欲張りすぎだろ。一気に二つも要求してくんなよ、この場は下の名前呼びだけで満足しろよ。しかも濃厚なヤツってなんだよ、ディープってことか? さすがに嫌なんだが? だが、赤ちゃんプレイよりはマシか? とりあえず交渉を……。
「こ、この場じゃダメか?」
「……フレンチ? バード?」
機内食を尋ねる客室乗務員かよ。
えっと? フレンチキスって確かディープキスのことだよな? バードキスってなんだっけ? キツツキみたいに軽くキスするって意味だっけ?
「……バード」
「聖、潰さん程度に手加減しろよ」
フレンチ一択かよ! どこまで弱みにつけこむんだよ!
「フレンチ!」
「よっし!」
「は、離せ! デカ乳を押し付けんな!」
交渉が上手くいって満足したのか、白を羽交い絞めにする。重すぎる代償だけど、最小限のダメージと言えるだろう。
「小五郎ちゃん? なんでママ以外に助けを求めたの?」
「……助けてくれなかったじゃん」
「それは小五郎ちゃんが意地悪するからじゃない。ママだって意地悪したくなることぐらいあるわよ」
俺は一切意地悪なんかしてないし、委員長の意地悪はシャレにならない。なぜ俺が責められてるのか全くわからないんだけど。
「あの状況で交渉を持ちかけてくるなんて、ママのすることじゃないと思うぞ」
「……そうよね、私はママ失格よね。わかったわ、今から男と女の関係に……」
「ママ! 意地悪してゴメン!」
「あらあらあら」
「おい! 人が必死こいてんのに、何抱き合ってんだよ!」
しょうがねえだろ、貞操の危機なんだから。俺だって抱き着きたくて抱き着いてるわけじゃないんだよ。何が悲しくて、下半身丸出しで同級生に抱き着かなきゃいけないんだよ。はたから見れば完全に不審者だよ。
「こごろー、カメラ持ってき……何してんの?」
……考えうる限り最悪のタイミングで戻ってきやがったよ。そっか、ご近所さんだもんな。そりゃすぐ戻ってくるよな。
ああ、濃密な休日だなぁ。一切休めないまま平日を迎えるのかぁ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます