第42話 四面ヤンデレ

 男って本当につまんねぇ! とことんつまんねぇ生き物だよ!

 白に対して面倒くささや恐怖、その他もろもろの感情を抱きつつも、いざとなったら反応するんだもん。俺の意思に反して、反応しちまうんだもん。

 あー、くだらねぇ。生理現象くだらねぇ。


「やっぱ私のこと大好きだったんだねぇ。解呪とかそんなのどうでもよくて、本当は私目当てで来たんでしょ?」


 言うに事欠いて何を言うか、このペチャパイが。行先を告げずに無理矢理連れ込んだ挙句、強制的に泊まらせたくせに。


「修行の時も興奮してたんでしょ? サイテー」


 死にそうでそれどころじゃなかったよ。そりゃお前、確かに雑巾がけの時は興奮したよ? でもそれ以降は恐怖しかなかったっての。傷口舐めさせられた辺りから、お前と縁を切る方法を頭の中で模索してたよ。


「俺は真面目にやってきたつもりなんだがな」

「えー? でも私を性的な目で見てるんでしょ? そんな私と密着して平気なワケないじゃん」


 お前は男を知らないからそんなことを言えるんだよ。こんなもんな、ふとした時に硬くなるんだよ。お前の貧相な体でも、勝手に反応するんだよ。仮に嫌いなヤツが相手でも反応する時は反応すんだよ。

 何を言っても無駄だから、食い下がる気はねえけどさ。


「いいから、さっさと買い出しとやらに行くぞ」

「んー、でもなぁ、路地裏とかに連れていかれたら怖いなあ。発情猿と一緒に歩くの怖いなぁ」


 何ぶりっ子みたいな動きしてんだよ。誰がお前なんか連れ込むかよ。そもそもフィジカルで勝てそうにねえし。


「……じゃあ帰るわ。買い出ししないと修行できな……」

「は? 買い出しに行かないって誰が言ったの? 幻聴? 疲れてるの? 大した修行してないくせに、もう疲れたの? あっ、わかった。さっき下半身に血液が集中してたから、それで疲れたんでしょ。はぁ、男って不便ねぇ。でも女の子のほうが百万倍大変なんだから、そこはわかってくれないとモテないよ?」


 …………。


「言っとくけど買い出しってのは遊びじゃないのよ? アンタの中じゃ修行の骨休め程度の認識なんでしょうけど、買い出しも修行の一環と心得なさい。私と歩いている間、頭の中じゃ私を犯しまくるんでしょうけど、妄想に留めときなさいよ? 前にも行ったけど私は強いんだからね?」

「うん……強いのは知ってる」

「言っても無駄だと思うけど、歩いてる時に勃たせないでよ? 周りの人は『あんなモデル級の超絶美少女と歩いてたら発情ぐらいするよなぁ』って理解を示してくれるだろうけど、そういう問題じゃないの。アンタが足しげく私の家に通って、惨めたらしく拝み倒し続ければ小数点以下の確率で結ばれる可能性も、まあ無きにしも非ず的な? うん、ゼロと言っても差し支えないぐらいの低確率だけど、どこまで行っても男と女だから多少の間違いぐらいは、まあ?」


 …………。

 コイツ……マジでもう……。


「めんどっ……」

「……ひっく」


 あっ……。




 もはや誰に言われたかも覚えてないけど、昔こんなことを言われたんだ。『お前、皆でファミレス行った時、一人だけ水を貰えなさそうだよな』って。影が薄いっていうのを、究極まで悪い表現にしたものなんだろうけど、否定はできん。非常に腹立たしいし、なんでそこまで言わなきゃいけないのかわからんけど、影が薄いのは自覚してるから否定はせん。

 そんな俺が、バレバレの変装で出歩いてる芸能人並みにスマホを向けられてるよ。


「白、公衆の面前で抱っこはさすがに……」

「……私に欲情したくせに」


 してないっての! 生理現象だっての!


「さすがにガッツリ抱き着きすぎだって。コアラじゃねえんだから」

「うるさい。勃起してるくせに」


 そりゃするよ! お前、勃起するまで触ってきたじゃん。自分で触ってても勃つんだから、女子に触られ続けたら勃つに決まってんだろ!


「駅前でこの体勢はまずいって。っていうか単純に暑いし、重い……」

「……風呂場で私相手に股間を勃たせてたって、お父さんに言おうかな。っていうか報告するべきよね。だってその現象って、子づくりをするための現象じゃん? 私と子供を作ろうとしてるわけだし、報告しないとダメよ」


 筋肉ダルマの父を脅しに使うのやめろ、反則だろ。というか、その理論は暴論にも程があるだろ。『赤ちゃんも勃起するから、オスガキは産まれた時点で性加害者!』とかほざいてるフェミニストと同レベルだぞ。いや、それよりはまだスジが通ってるけど、五十歩百歩だよ。


「いい加減にしてくれ。もう満足だろ、降りろ」


 足腰も羞恥心も限界なので、怪我をさせないように無理矢理降ろすことにした。

 うぐっ、やっぱり力強いなコイツ。こうなったら少々乱暴に振りほどくしか……。


「いやぁ! 捨てられる! お風呂場で子作りをしようとしてたくせに、飽きたって理由で捨てられる! 今だってここでヤる気満々のくせに私がその気じゃないから、捨てようとしてる! 誰か! 警察の人を呼んで! コイツはところかまわず赤ちゃんプレイをしたり、オムツを換えさせたりする変態よ! コイツを! 坂本小五郎十七歳を逮捕して! 朝から二回も女の子を泣かせといて……」

「白! 頬ずりしよう!」

「……」

「よーしよしよし! 可愛いなぁ、今日も可愛いなぁ。いつ可愛くなくなるんだよ、お前。ははっ、そんな日は来ないか。生まれてきてくれてありがとう、マジでありがとう。俺なんかと一緒にいてくれてありがとう。撫でさせてくれてありがとう」


 ラッパーばりに感謝しまくってるよ。

 コイツ本当に面倒くさい。楓達よりよっぽど面倒くさい。アイツらと違って悪意があるからタチ悪い。


「ふん、こんな公衆の面前で頬ずりして頭を撫でた上に、下手な口説きまでして……どれだけ私のことが好きなのよ」


 ……投げ飛ばしてぇ。このままダッシュで壁に激突してやろうか? 俺の体と壁で圧死させてやろうか? 今よりもっとペチャパイにしてやろうか?


「なんで返事しないの? もう好きじゃないの? そっか、飽きたんだ……」


 やめろ、思い切り息を吸い込むな、叫ぶ準備をするな。

 ええい、ままよ!


「好きだ! お前の全てが好きだ!」


 は、はずぅ……。こんなの今時アニメでも言わねぇよ。


「へー、小五郎はそういう子が好きなんだねぇ。あっ、この前学校で逢引きしてた子だねぇ」

「お熱いこった、天下の往来でプロポーズたぁ」

「ママの教育が悪かったのね。こんなイケない子に育つなんて」


 ……ここから入れる保険ってありますかね?

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