第20話 アニメ研究会発足

 こいつらがヤンデレじゃなきゃ、夢のような状況だよなぁ。

 幼馴染、委員長、ギャル、属性の違う美少女三人が俺の部屋に来て、一緒にアニメ鑑賞だぜ? 全てのオタクが羨む状況だろ、ヤンデレじゃなきゃ。

 いや、ヤンデレ大歓迎ってヤツもいるだろうけどさ、それって二次元の話だろ?

 ヤンデレとかメンヘラって、リアルだと厄介でしかないぞ?

 しかも俺の周りのヤンデレって一般的なヤンデレとは、全然毛色が違うぞ。

 お経唱えたり、漏らしたり、そういうことせんだろ? いや、お経はあるかもしれんけど、こんな内容じゃないだろ?


「サブスクっていうの? コスパがいいわね」


 委員長ってこういうの疎いんかね?

 サブスクぐらい、今時小学生でも知ってると思うんだけど。


「まあ、そこまでアニメ見ないから、元取れてるかは怪しいけど……」

「もったいねぇなあ。映画とか見ねーの?」


 この口ぶりからすると、熊ノ郷は映画を見るほうなんだろうか?

 長時間椅子に座ってられないタイプに見えるんだけど。


「長いからなぁ……」


 現代っ子って言われるかもしれんけど、俺的に映画は長すぎる。

 途中で中断するの嫌いなタイプだから、中々映画に手を出せないんだ。暇な学生のうちに見といたほうがいいとは思うんだが。


「だったらB級映画がオススメだぞ」

「あぁ? B級?」


 何言ってんだ、このギャル。

 普通、映画を見ないヤツにB級なんて勧めるか? 苦手意識が加速するだろ。


「坂本は、あれだろ? 映画とかアニメは集中しなきゃいけないから、長いの見れねえってことだろ?」

「まあ、うん」

「B級は気楽に見れるぜ? 目を離してもいいし、一緒に見てる奴と駄弁っていい」


 はえぇ、そういう考え方もあるんだな。

 駄弁りながら見るって発想なかったわ。絶対に台詞を聞き逃しちゃダメっていう意識があったし。


「ねぇ、早く。早く見ましょう?」


 視聴前の雑談タイムにしびれを切らしたのか、委員長が再生ボタンを押せと催促してきた。なんだよ、その真面目な顔で可愛いところ見せないでくれよ。落ちるから。

 しっかし、なんでよりによって転生アニメなんだ? しかもこんな……言っちゃ悪いけど、駄作の予感がプンプンするヤツ。


「なぁ、委員長? アンタ随分とワクワクテカテカしてっけどよ、途中で喋らねえほうがいいか?」


 熊ノ郷ってなんだかんだで、結構周りに気を遣うタイプなんだな。

 呪いのせいとはいえ、漏らしたっていう事実があるから、そういうタイプには見えんのだが。


「そもそもの話なんだけど、なぜアニメを視聴中に喋るの?」

「こーゆーのって肩肘張ってみる作品でもねーし、突っ込みながら見るもんだと思うんだけど……委員長が真剣に見てーなら、黙るよ?」


 これに関しては、俺は熊ノ郷派だな。小説投稿サイト発の作品って言い方は悪いかもしれんけど素人の作品だし、小バカにしながら見るもんだと思う。

 原作ファン達で集まって見るなら話は別なんだけど。


「それが流儀なら私も従うけど……」

「いや、いいんだ。忘れてくれ」


 おお、熊ノ郷が折れた。

 話がわかるギャルだなぁ。俺の背中で漏らした上に、お風呂に乱入してきたヤツと同一人物とは思えない。


「もういいかな? 押すね」


 待ちきれなくなったのか、楓が再生ボタンを押す。

 俺が書いた作品でもないのに、ちょっと緊張してきた。

 寒いギャグとかで、変な空気にならんといいけど……。


「作画は悪くねぇな」


 熊ノ郷が小声で俺に話しかけてきた。

 作画に触れるとは、結構アニメ通なのか? さっきからなんとなく感じてたけど。

 うん、たしかに悪くない作画だ。オープニングだけ力を入れてるパターンかもしれんから、なんとも言えんが。




 ううん……やっぱりトラックで轢かれる系か……。

 轢かれたから転生したっていうより、転生させるために轢かせてるよな。

 で、目覚めたら見知らぬ世界にいたと。

 おっ、さっそく美少女が……多分これ、主人公に惚れるな。大したエピソードもなしに惚れるぞ。俺は詳しいんだ。

 ほら、容姿を褒められただけでデレ始めたぞ。その容姿なら、今までの人生で飽きる程褒められてるだろ。なんで初めて異性に褒められた感じなんだよ。


「ちょろくない?」

「女の子は褒められたいもんだよ」


 俺の独り言に楓が答えてくれた。

 そりゃ人間誰しも褒められたいだろうけど、惚れるまではいかんくない?

 おっ、お決まりの大型モンスターだ。本来この辺に生息していないはずの大型モンスターが襲ってくるっていう、定番の流れだ。

 転生者がやってくると生態系乱れるのかな?

 どうせスマホが凄い力を持ってるんだろ?

 ほら、出ました。なんか魔法出せました。一撃で倒したよ。

 これ魔法使いに転生じゃあかんの? スマホにする意味ある?


「凄い……」


 嘘だろ委員長。今の流れを楽しめるのかよ。

 こういうの見ない人にとっては斬新なんかね。


「ドロップって何かしら?」

「アイテムを落とす的な感じ」

「なるほど……」


 委員長とギャルが転生アニメで打ち解けてるよ。こっちのほうが絵になってるよ。

 申し訳ないけどアニメのほうは見飽きたよ。初見だけど見飽きたよ。スマホの力で激レアドロップとか、もうなんでもありやん。

 主人公の入浴シーン……これね、きますよ。さっきの女の子が入ってきますよ。

 ほらほら、入ってきたよ。一話でヒロインと混浴って、これは間違いなくサービス多めのアニメだな。回を追うごとに美少女が増えていくぞ、これ。

 ……ずるいな、呪いなしでこんな展開になるなんて。

 お前も何か背負えよ。そのチートスマホにデメリットないのかよ。多額の通信費を払わないと死ぬとかないのかよ。


「なんて破廉恥な……」


 いや、委員長、アンタが言えた義理か? 同級生に乳をしゃぶらせようとした女が何を言ってんだ? そっちのほうがよっぽど破廉恥だぞ。

 やっとエンディングか……まあ、テンポは良かったかな。

 おお……まだ見ぬヒロイン達のサービスショットが次々と……。

 これはあれだな、キャラが可愛いから仕方なく視聴を続けるタイプの作品だ。


「最近のアニメは凄いわね」


 最近ねぇ……かなり前からこんな作品ばっかな気がするけど。


「委員長は普段アニメ見ねえの?」

「最後に見たのはいつかしら……多分八歳ぐらい?」


 うーん……女の子ってそんなもんなのか?

 見ない子はとことん見ないってイメージあるけど、それでも早くない?


「あはは、委員長って昔から真面目そーだもんな」


 うん、昔から最近までは真面目だったと思うよ。

 呪い解けるまで、委員長を再び真面目って評価できる日は来ない気がする。


「親が厳しかったのよ、アニメなんて子供の見るものだって」


 八歳って子供だと思うんだけどなぁ……。

 アニメを禁止していいことあるのかね。


「それでそれで? 久々にアニメ見た心境をどうぞ」


 インタビュアーの体で、マイクを向ける仕草をする楓。


「楽しかったわ」


 取り繕うことなく、率直な感想を述べる委員長。

 そっか……禁止されると、こういう作品でも楽しめるのか。

 じゃあ俺も無粋なことは言わないようにするか。


「そうだな、俺も楽しめたよ。続き見るかい?」


 他の作品を見たいという気持ちを押し殺して、次の話を準備する。

 俺と同じく楽しめなかった熊ノ郷も、反対意見を出さない。大人だなぁ。


「待って、考察とか色々したいわ」


 真面目だなぁ、この人。

 偏見だけど、こういう作品の作者ってあんまり深く考えてない気がする。

 いや、どうだろ? アニメ化してるってことは、書籍化してんだよな?

 だったら編集と話しあって、設定を練り直したりしてんのかな。


「アタシ的には、ヒロインがちょろすぎっかなぁ」


 人のこと言えた義理か?

 俺の推察が正しければ、呪いかかる前から多少なりとも俺に好意抱いてたんだろ?

 何がきっかけかは知らんけど、ちょろいぞ。


「恋愛ってもうちょい引っ張るべきだよねぇ」


 楓的にチョロインはダメなのか。

 原作はともかく、アニメは十二話だから余裕ないんかね。


「本格的なラブコメじゃない限り、そういう作品って少ないんじゃないかな」

「そーなんだ。でも、やっぱりじっくりと時間をかけて、恋心を育てていくべきだと思うよ。そう、私みたいにねぇ」


 アニメ見てただけなのに、なんで地雷が作動するんですかね。


「捨てられてから四年間、ずーっと片思いをこじらせてたんだよ」


 いや、マジでそろそろ許してくれよ。

 ちょっと早く登校しただけじゃん。それを捨てられたって表現するのは、絶対に間違ってるよ。別に毎日登校しようって約束してたわけじゃないし。

 ……してたのかな? こいつのことだから、小学一年生の約束をひきずってる可能性があるぞ。結婚の約束とかしてないよな? 不安になってきたぞ?


「アタシも一年かけてじっくりと坂本を攻略してたんだけど、谷間を見るだけ見て放置だもんなぁ。アンタ、恋心ねえの? 性欲だけ? 男って皆そーなん?」


 耳と胸が痛い。

 人間としては好きじゃないけど、体は好きっていう、最低な認識だったよ。一年坊主の時は、本当に最低な男だったよ。


「そう考えると、積極的にアピールしてるこのヒロインは正解ね」


 あの、今、最悪の未来が見えたんだけど、勘弁してくれよ?

 アニメを参考にしないでくれよ? 影響受けないでくれよ?


「よし! じゃあ、このメンバーで〝放課後アニメ研究会〟を結成しよう!」


 楓、マジでやめて。俺別にそこまでアニメ好きじゃないし、お前らの研究って、ヒロインの求愛行動についてだろ?


「柊木、オメー……サイコーかよ」

「まさに青春ね。大賛成よ」


 俺の意見を述べるまでもなく、多数決で負けたんだが? 挙手を促される前から、負けたんだが?

 なんでこうなるんだよ。

 委員長が小学生ぶりにアニメを見始めるっていう、微笑ましい流れで終わるんじゃなかったのかよ。話がちげぇぞ。


「……各自でアニメを見て、レポート書く感じ?」


 正直レポートなど書きたくないが、そっち方面に誘導してみる。

 だって……。


「そんなの寂しいよぉ。アニメは皆で見なきゃ」


 こうなるからな。

 なんとか誘導しないと、俺の家に集まる流れになっちゃうんだよ。俺の母親がこの三人を歓迎してるから、家庭の事情で断ることができないってのが辛い。


「でも効率が……」

「おいおい、皆で楽しんでこそだろ? 頭かてーぞ? 固いのはチン……」

「わかった! わかったよ!」


 また押し切られちまったよ。

 断ったらヤバい流れに持っていくの、やめてもらえませんか?

 もしも今、止めなかったらどうなってたよ? 固さを確かめるためとかいって脱がされてた可能性があるだろ?

 実は初心ギャルのくせに、俺に対してはガンガンきやがってよ。


「じゃあそろそろ再生ボタン押すねぇ」


 結局、研究会の発足は阻止できなかった。

 土日に訪問する大義名分を与えてしまったわけだが、俺はどうすればいい?

 俺はもう、一人で休日を過ごせないのか? これからは四人で過ごさなきゃいけないのか?

 そんな俺の不安、嫌な予感は見事に外れることとなる。

 ……悪い意味で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る