あの白い箱

酷い目にあった。

ハンドルを握ると人格が変わる人がいると聞いたことはあったが、あのアリアナさんがそうだとは思わなかった。

ちなみに、血がへばりついた社用車はしばらく経つと消えてしまった。

もしかしたら当然魔法は物体の具現化には時間制限があるのかもしれない。

あるいは、さすがにこの時代に無理のある代物だったために、人々が冷静になって当然ではなくなったか。

ある意味では使い勝手がよいとも言えるし、建造物などには使えないということだ。


賊たちは、半分近くが戦闘不能となり、散り散りに逃げ去っていった。

一応ひと段落と言えばひと段落か。

しかし、もちろんそれだけでは納得しない人たちもいる。

主にお父様とか、お父様とか……

「あれはなんだ、あれは。

レイシアだろう、あれを用意したのは、違うのか。」

「お父様、あれではわかりませんわ、何のことかしら。」

「あの白い箱のようなものだ、それ以外ないだろう。

レイシアとアリアナが乗っているのを見たが、アリアナがあんなものを持っているとは聞いたこともない。

もちろんレイシア、お前からもだが。」

まぁあれだけ目立てば問いただされるのも仕方ないだろう。

覚悟していたことだが、割ととっさのことだったのでうまい言い訳もない。


「お父様、あれは私のとっておきの魔法ですわ。

召喚魔法的なあれです。」

「召喚魔法?魔物を召喚するあの魔法か?

あれは魔物なのか、馬車ではなく?」

お父様は一応、馬車か何かだとは思っていたようだ。

そして召喚魔法は魔物を呼ぶのが基本、モノを呼び出すということはあまりないのだろう。

この世界にいるのか分からないが、とりあえずゴーレムということにしておくか。


「お父様、あれは変わったゴーレムなのです。

あえて呼ぶとするなら、そうですわね、ワゴンレム!」

「ワゴンレム?聞いたことは無いが。

しかし、世の中のどこかにはあんな魔物がいるというのか。

ドラゴンほどではないが、機動力も高い。」

ごめんなさいお父様、そんな魔物はこの世界にはいません。


「ともかくだ。

あのワゴンレムだったか、あれの活躍はかなり大きいのも事実。

賊の襲撃に村人たちも委縮してしまったが、あの魔物が守ってくれると思えば少しは安心させることが出来るだろう。

ワゴンレムはまた出せるのか?」

「一応出せるとは思います。

ただ、あまり人が多いと出せません、シャイなので。」

「シャイ?魔物にシャイとかそういうのがあるのか?

やはりあれは魔物でいいのか?」

うーん、思ったより突っ込まれるな。

とにかくあの強大な力が私たちの管理化なのだということを示さないと村人たちが恐れてしまうということもあるだろう。

しかし、当然魔法は本当に当然と認知されるか、大多数の認識外で当然でも当然でなくてもどうでもよいと思われているくらいでなければ発動しない。

「すみませんお父様、あの子は本当にシャイなんです。」

「ええ……」

引きこもり息子の母親のようではないか。

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