爆走/【ヴァレリー視点】見たことのない何か

早速ワゴンカーに飛び乗る。

気づけば手の中に見慣れたキーがあった。

エンジンをかける。

動く、動くぞ。

しかし、アクセルが踏めん。


その時、声が聞こえた。

「レイシアお嬢様、それはいったい何ですか?」

ナイスタイミング、アリアナが来た。

「アリアナさん、ちょうどいい時に来たわ。

これは私の秘密兵器の最新型の馬車よ、でも身長が足りなくて操縦が難しいの。

ちょっと来て手伝ってちょうだい。」

「ええ、馬車ですか?馬もいないのに。

でも分かりました、お嬢様がおっしゃるのなら、大丈夫なのでしょう!」

助かる、アリアナさんええ人だ。


「私を抱えて、一番前のこの席に座って頂戴。

この丸いのが行先の操縦、右の足元にあるのが前進、左の足元にあるのが停止よ。

私が指示をしたらそれぞれを足で踏んで頂戴。

この馬車で賊どもを何人か轢くわ。」

「どうやらこの馬車はだいぶ堅いようですね。

確かにこれなら。

やってみましょうか。」

この世界には車も無ければ道路交通法もない。

やってやる、これでやってやるぞ。


【ヴァレリー視点】

娘たちはうまく逃げただろうか。

盗賊団といっても、今回はただの賊ではないようだ。

鋤や鍬を構える村人たちの背中越しに、盗賊たちの姿が見える。

ただの賊にしては装備がいい、どこかの雇われだったのだろうか。

この村で時間稼ぎをして娘たちを逃がして、そこから先はどうしたものか。

無駄に抵抗してここの村人が全員殺されるようなことでは困る。

本来逃げられる立場ではないが、私がいることでかえって立場が悪くなることもあるだろう。


なんてことを考えていた時、後ろから何か白い大きな物体が横を通り過ぎて行った。

きゃっほう!と大騒ぎをしているようなアリアナの声がしたが、気のせいだろうか。

すごい速さだ、しかも馬車のような車輪はあるが馬が見えない。

あれでは賊に突っ込んでしまいそうだが。

いや、突っ込んだ、賊を跳ね飛ばしてなお前に進んでいる。

なんだそれは、そんな兵器があるものか。

頑丈な箱のようなものが走っている。

勢いよく駆け抜けていった白い箱のような馬車のようなそれは、勢いよくターンをしてこっちに向かってくる格好となった。

箱の中の椅子には娘とアリアナが座っているのが見える。

アリアナの嬉しそうな顔、あんな嬉しそうな顔は見たことが無い。

賊たちも慌てているようだ、列に乱れが出来ている。

箱の正面あたりにいた賊たちはまるで道を開けるかのように避け始めた。


しかし、白い箱は賊を逃さない。

またしても驚くような速さで走り出すと賊を追いかけてはね飛ばす、さらにはね飛ばす。

アリアナは本当に楽しそうに白い箱を操縦しているようだ。

普通に恐ろしいのだが、アリアナよ。

娘も心なしかぐったりしているではないか。

しかも時折あははははと気に触れたのではないかと思うような笑い声までするのだから明らかに賊も怖がっている。

こんな一方的な戦いがあるものか、素直に助かったと思えないではないか。


ヴァレリーの苦難は始まったばかり。


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