奴隷制度とサージエス家

一応この国の制度として奴隷はある。

奴隷に対して行動を強制する魔法も存在する。

しかし基本的には犯罪者が対象となるもので、刑罰以外では原則認められていない。


サージエス家が革命のときにやり玉に挙げられた理由の一つは、この奴隷制度に違反した違法奴隷の取り扱いがあったからなのだ。

お父様は基本的に継続できる商売を重視する。

奴隷よりも酷い状態から救い出すことと、奴隷として労働をし、義務を果たすことはトレードオフだ。

前世で言う生活保護もないこの世界では、普通にやっては働き口を探すことも難しい。

しかし、相互同意を要し、義務を課す奴隷契約の魔法ならば、強制的であっても信用を無理やり作り出すことができるとも言える。

お父様は財務大臣として働く中で、国庫の限界を知ってしまったのだ。

そして飢える民を減らすために違法奴隷の取り扱いを始め、お姉様に引継ぎ、そしてそれはお姉様を歪にしていった。


しかし、この裏の仕事を私が引き継ぐならばどうだ。

まず第一にこの仕事の裏の目的を理解している。

お姉様が受け止めるには幼すぎたのだ、この仕事の狙いは。

それは、3歳児にいきなり自分の仕事を紹介し始めたあのお父様ならばやらかしそうなことだ。

優秀すぎるうえに忙しすぎて子供の発達などよくわかっていないのだ。

とはいえ、そもそも発達などという概念も比較的新しいものだ。

この時代の人たちにとってはなんとなく子育ての中で気づく共通認識くらいのことでしかないだろう。

そして、このギャップがあるからこそお姉様が商会の提案をすれば不自然には思わずに乗ってくるはずだ。

しかもいい話なのだ、奴隷たちの雇用先を確保できる可能性がある。

だから私がこの裏の仕事を引き受け、奴隷たちをお姉様の商売にあっせんする。

お姉様に知らせるのはしかるべき時、世の中の不条理を理解し受け止められるようになった時だ。

そこまでは、お可愛らしいお姉様でいてほしい。

いや、私の欲求じゃないよ、ほんとだよ?


「何か考え事?」

おっといけない、お姉様と話している途中に考え込んでしまった。

「ええ、お姉様は相変わらず可愛らしいなと。」

「同じ顔をしておいて何をいっているのかしら。

鏡でも見てらっしゃいな。」

「いや、お姉様のなんというか溢れんばかりの気品といいますか。

私が鏡を見てもこんなに素敵なお嬢様は映らないというか。」

「なんでこんな急に早口でしゃべり始めたのかしら。大丈夫?」

おっといけない、オタク特有の早口が。

しかし冷静に考えると、時々お姉様と入れ替わってうまいことやってとか思っていたが、この可愛らしいお姉様と顔が同じだけで入れ替われるのか?

むしろ見破られなかった時に節穴かとキレてしまわないのか私?

なんだか不安になって来たな、気を付けなければ。


とりあえず、お姉様は大丈夫だろう。

必要なことは説明をした、これであとは必要な行動はできる。

あとはレイオスくんをどうしたものか。

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