商売をしよう
「アリシアお姉様、商売をしましょう!」
「商売?唐突にどうしたのレイシア?」
「私たちの住む領はオリガ小国家群が近いわ。
メイドのエリザが商売のツテを作ってきたから、社会勉強にちょっとしたお店を出そうと思うの。」
「エリザの伝手?
なんでまたそんなツテが?」
お姉様には、基本的にほとんどのことは隠さないことにしている。
多少突拍子のないことでも信じてくれると、そう思っているからだ。
今回もメイド二人の活躍をきちんと伝えた。
「なるほど、カーラとエリザは優秀ね。
本当にただのメイドとは思えない努力と実力だわ。
でも商売と言っても何を売るのかしら。」
「人を紹介する、知識を売る、イベントを企画する。
この三つを主とした商売を考えているの。」
ここは私からすれば転生してきた異世界なのだ。
知識の差を活かして進んだテクノロジーを、ということも考えたが、別に私も原理を正確に理解しているわけではない。
進んだ工業製品を作ろうにも困難だ。
そんな中で今回、カーラとエリザが作り出してくれたチャンス、そして私の能力を活かした商売は、やはり広告・紹介・コンサルティング業しかない。
例えば心理学が本格的に研究され始めたのは前世でも150年ほどの歴史しかない。
もちろん哲学という大きな下積みがあったのは確かだが。
そして、この世界にいる人たちがもっと適正のある仕事で頑張れるようになる、というだけであれば。
それならばむやみに前世の中途半端な知識でリスクを冒す必要もない。
「なるほど、それならレイシアの能力も活用できていいわね。
でも、オリガ小国家群でその商売をするなら、エリザの通訳に頼ってばかりはいられないわ。
語学の勉強をしているのかしら。」
「それがお姉様、私はどうやら変わった魔法が使えたみたいなの。
言葉の問題はどうにかなるわ。」
「不思議な能力を使えるのね、レイシアは。
そういえば弟のレイオスも5歳なのにもう魔法の練習で才能を現わしているらしいわ。」
お姉様は少し寂しそうな顔をする。
私はなんとなく察してきているが、お姉様のその才能はいわば調整力とか発揮できるタイミングが子供のころにはないような、そういうものなのだろう。
現時点でのお姉様の能力は、悪役令嬢であることに全振りされているようなものだ。
あの日、処刑の日に最大限の能力が発揮されるように。
「お姉様、お姉様にはこの商売の顔をやって欲しいの。
お姉様の才能は戦う力とかそういうものでは確かに無いのかもしれない。
でも、人を惹きつける力があると、私の能力が告げているわ。」
最後だけは嘘だ。
能力ではなく前世のゲームの記憶。
ずっと疑問だったのだ、我が家の悪事にレイオスくんが一切関わっていなかったことが。
しかし、レイオスくんの様子を見ていて分かった。
家庭環境とかそれ以前に魔法が好きすぎるのだ。
クールで孤高な天才としてのレイオスというキャラクターは、もしかすれば魔法が好きすぎるがゆえに話が通じずに、友好関係を気づくことを諦めてしまっていたのかもしれない。
逆に言えばお姉様には能力があったはずなのだ。
悪役令嬢としての働きの諸々をこなせてしまえるポテンシャルが。
でもお姉様に裏の仕事はさせない、表に出す。
もし仮にだ、もし仮にこの世界がゲームの世界をなぞるように強制する力があったとして。
重要なのはセリフとスチル。
そしてゲームにレイシアというキャラはいないということ。
私がアリシアお姉様と入れ替われば、世界の強制力のターゲットは私に変えられるはずだ。
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