【カーラ視点】日常の護り手

レイシアお嬢様はなんと申しますか、敢えて子供らしく振る舞おうとしているような、そんな印象を受けます。

早く大人になろうとしているアリシアお嬢様とは逆で、少し不思議に感じておりました。


ある日、同僚のメイド、エリザがご機嫌な日がありました。

エリザは非常に真面目なメイドで、能力も高く周囲から信頼されています。

しかし、真面目ゆえにあまり感情を表に出すことがありません。

いつも一緒にいる私から見ても、ご機嫌そうだと分かることはほとんどないので、少し気になりました。


「エリザ、何か良いことがありましたか?」

「あらカーラ、顔に出ていたかしら。

今日はレイシアお嬢様からお褒めの言葉を頂戴したのよ。」

「そうでしたか、エリザの働きぶりは同僚のみんなから見てもとても真面目で素晴らしいですからね!」


お嬢様からも、やはりエリザは活躍しているように見えたのでしょうとそう思っておりましたが、どうやら違ったようです。


「それが仕事じゃないの、趣味でやっていた隣国の言葉の勉強なのよ。

まぁ、最近何か頑張っていることがあるの?と曖昧な質問でしたが。」

「エリザ、こんなに仕事を頑張っているのに隣国の言葉の勉強だなんて。

私は全然気づきませんでした。」

「私も誰にも言っていないわ。

趣味の勉強だし、それで疲れたようなそぶりを出したこともないので、驚きました。

新しい知識がついて、何か自信が出たりしたのが出てきたのかなと。

使用人までよく見てらっしゃるのかしらとありがたい気持ちだったの。」


一緒に働いている私ですら気づかない差、どれほど周囲を見ていらっしゃるのかと。

レイシアお嬢様は、当時は貴族のご令嬢として年相応の印象でしたから、もしかしたら敢えて子供らしく振る舞っていらっしゃるのかと、不思議な印象をうけたのです。


そんなある日、レイシアお嬢様のピクニックのご提案、最初はそのまま御領主様や奥方様とお食事をなさる機会が少ないことで寂しいのだと、そう思っておりました。

私がお呼ばれしたのもそれゆえかと。


しかし、思い返せばレイシアお嬢様は本当に我儘をおっしゃらない方、実は何かお考えがあるのかと思い、執事長へ必死にお願いをしました。


本来、お嬢様のお食事は非常に先々まで計画されているもの、急な変更はお嬢様へお出しするお料理としての質を落としかねず難しい相談です。

それでもどのような理由であれ、お嬢様の数少ないご希望ですから使用人一同で急ぎ手配いたしました。


そして、ピクニック当日の夜明け前、夢見が悪くお目覚めになったレイシアお嬢様のおっしゃったことは、これまでのことを全て裏付けるかのような、バラバラの積み木が一度に組み上がるような感覚でございました。


そしてさらに、私へ与えられた日常の護り手という役割、お嬢様はそのお年で一人で何か大きな運命と闘おうとしており、僅かな日常を守るために年相応に見えるよう振る舞っていらっしゃったのかと、その最後の砦に私をご任命くださるのかと、あまりの衝撃に言葉を失ってしまいました。


更には、私には見えたのです、「ジョブ:お嬢様の日常の護り手」との文字が。


今も意識すると視界の端に浮かび上がります。

私がここで勤めていたのは、この日のためだったのだろうと、今振り返ると思ってしまうのです。

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