二人で一つの悪役令嬢
「……シア」
お姉様の声が聞こえる。
酷い汗で、寒いようで、しかし何か暖かい。
「レイシア!大丈夫なの?」
「お、お姉様?どうしたの?」
「ひどくうなされていたわ、お姉様、お姉様って必死に私を呼んでいたの。」
お姉様は必死に私に抱き着いて安心させようとしている。
可愛すぎる、いや、ちょっと現実逃避が入っていたようだ。
「お姉様、もう大丈夫だわ。
すごく嫌な夢を見てしまったの。」
「そうなのね。大丈夫なのね。よかったわ。」
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「お嬢様~大丈夫ですか。」
メイドのカーラが心配してきてくれたようだ。
そしてどれだけ派手にうなされていたのだ、私。
さてと、どうしたものか。
こういう時に抱え込むのはよくない。
お姉様は闊達だが、やはり貴族の娘なのだ。
周りの使用人の様子を見たりというのはきっちりしている。
私が一人で抱え込んで、それが度々顔に出てしまえば、お姉様は気づく。
お姉様を異常に心配させてしまい、思わぬ行動をされてしまう可能性もある。
それに、夢の話として伝えれば、ただの夢の話としつつ、私が心配性の振りをしてこれからやることに協力してもらうことも出来るかもしれない。
違う、今は打算をするときじゃない。そうじゃないでしょう。
いつか、そんなことはなかったと、私の黒歴史になってしまってもいい。
やってやろう、二人で一つの悪役令嬢、その最初の悪だくみを。
「お姉様、実は非常に恐ろしい夢を見たの。」
「いいわよ、話してみて。」
アリシアお姉様もカーラも本当に心配そうに私を見ている。
頭の中は冷静なつもりだが、私は今どんな顔をしているのだろうか。
「お姉様に大変な危機が迫る夢よ。
なんとかしなくちゃって思ってしまうくらい。」
「なんとかって、何か思いつくことがあるの?」
お姉様は素直で優しい。
私の単なる悪夢の話でも、信じて真剣に聞いてくれる。
そして私の能力は、関わる人間を増やさなければ意味がない。
お姉様と、申し訳ないけれどもカーラを巻き込もう。
「私には、少しばかり他の人の能力が見えるの。
もっと向いていることがあるとか、それくらい。」
どんな反応になる?
よく分からないだろうか、私も説明に困るくらいだ。
「レイシアは優秀な人を集めるつもりなのね。
ひとまずはカーラ、かしら?」
ひゃ、百点ですお姉様!
3歳ってこんなだっけか、私なんぞハナタレ小娘だったのに。
「え、レイシアお嬢様、私ですか?
何をなさるので?」
むしろカーラのほうが困惑している。
そりゃあそうだろう、一介の使用人が何をするというのだと、そう思っているはず。
「難しく考えないで、カーラは私たちの日常の護り手よ。」
「そういうことですね、それならば、もちろんお受けしますね!」
その時、不思議なことが起きた。
カーラが一瞬だが、ほのかにきらめいたのだ。
そして、目を疑ったが、ポテンシャルの数字が0となり、「ジョブ:お嬢様の日常の護り手」なる文字が。
えぇ、何が起きたの、というか起こしてしまったの?
私だって少しは気を遣える。
そのまんまメイドに一番向いていると伝えても肩透かしだし、何かカッコいい感じの役割を渡そうと思っただけなのに。
「と、とりあえずカーラ、今日のピクニックは任せたわ、よろしくね!」
「はい!全力で頑張りますね!」
ちょっと神々しい演出が入ってしまったせいで、カーラがすごく張り切ってしまった。
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