ピクニックの計画
「ピクニックをしてもいいですか。」
私は、メイドのカーラに尋ねた。
カーラは、メイドとしておそらく現状に満足しており、信用してよいと思っている。
私が会ったメイドの中で0より大きいが一番ポテンシャルが小さい数字を示している。
能力不足でも0になるらしいことが分かってきたので、普段の行動から真面目に頑張っていそうで、仕事に能力をきちんと活用している、そういう基準で彼女を連れていくことにした。
「レイシアお嬢様、急にどうなされたのですか。
この家を出て山にピクニックに行ったりはできませんよ?」
「それは別にいいの。広いお庭だから、お外でごはんを食べたいの。」
普段外でごはんを食べたりはしない。
でも今日は天気がいいし、外で何かをするには最適だ。
それに、我が家の豪華だけど大きすぎるテーブルも外へは持って行けまい。
小さいテーブルで食事をしながら交流を深めたいのだ。
「そういうことでしたか。ピクニックと聞いて驚いてしまいました。
外でお食事が出来るように手配を致しますね。」
「カーラも一緒にね、アリシアお姉様とレイオスと私と5人。」
「え、そんな滅相もない、お嬢様方とお食事を同席するなど。」
予想していたがやはり断られるか。
私の狙いは、カーラのような使用人の生活をお姉様と一緒に聞くことだ。
お姉様にはここでの貴族としての暮らし以外を知ってもらう必要がある。
そして同じ釜の飯を食べた信用できる使用人を増やし、お父様やお母様を通さずに出来ることを増やすのだ。
そのための第一歩がカーラを交えたピクニック。
なので奥の手を切ろう。
「レイシア、お父様とお母様との食事が少なくて寂しいの。
カーラと一緒に食事をしたら、私、楽しいと思ったの。」
お願い事には、私がどう思うかを入れ込むこと。
いわゆるアイメッセージというやつだ。
私達子供だけで食事をする機会が多いのも事実。
やたら大きいテーブルで静かに食事をしているのも事実。
「分かりました、執事長と相談をしてきますね。
お嬢様も心細い思いをしてらっしゃるんですね。
私でよければカーラ、頑張ってきます!」
おお、張り切ってくれたようでよかった。
私の交渉術などと言うつもりはない。
やはり使用人のみんなから見ても、私達の境遇は普通の幼い子供の家庭としては少し寂しいように見えるのだろう。
もっとも、お姉様はレイオスくんを連れて元気そうに走り回ったりしていて寂しいような雰囲気を見せたことは無いが。
お勉強はどうされたんですかね。
え、脱走、元気でいいですね?
こんな闊達で明るいお姉様が悪役令嬢になるって何があったのよ。
レイオスくんのライフは0っぽいよ、疲れちゃってるよ。
さてしばらく経ってから、カーラが戻ってきて許可が下りたことを教えてくれた。
とはいえ急なことだったので明日にセッティングをしてくれるらしい。
私にとっては都合がいいか、何を話すのか少し考えておかねばならないだろう。
楽しくなってきたぞ。
そんな前向きの明るい気持ちで眠りについたのに、
お姉様が断頭台に連れられて、
お姉様のポテンシャルの数字の意味を知り、
その運命をまざまざと見せつけられる、
お姉様のその一つの物語の終わりに、
私はひどくうなされて朝を迎えるのだった。
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