姉と弟と

「私に弟が出来るんですか?嬉しいわ!」

お姉様、テンションが普段より高めだ。

私という妹がいるというのに!っていうのは大人げないですね、はい。

「よろしくお願いね、アリシアよ。」

「はい。」

手を差し伸べるお姉様、レイオスくんはふるふると手を差し出す。

パッと手を掴むとひょいひょいと上下に振りまくりだ。

肩が外れないかな、大丈夫かしら。

私も立ち上がって話しかける。

「お姉様、肩が外れそうよ、それくらいで。

レイシアよ、よろしくね。」

「はい。」

お姉様と繋いでいた右手を離し、私へ向けてくれる。

手を取って握手をした。

お姉様とはまた違った柔らかい手だ。


「アリシアとレイシアはお姉さんになるんだ。

レイオスは養子だが、我が子には違いない。

仲良く支え合うように。」

お父様はいいことを言っているが、テンションの高いお姉様に届いているのか若干疑問である。


そして、顔合わせも済んだところで、ちょっと豪華な夕食で歓迎会のようなものを行った。

レイオスくんは、もしかしたらあまり豪華な食事を食べる機会が少なかったのかもしれないが、目はキラキラしていた。

そのうち私達にもそのような顔を向けてくれるのだろうか、そうあって欲しい。


「たくさん食べて大きくなるのよ!」

お姉様はとても話しかけていた、とてもキラキラした目だった。

レイオスくんはまだちょっと人見知りなのだろうか。

いや、攻略対象としてのレイオスもクールキャラだったはずだ。

あの目のキラキラも失われてしまうのだろうか、お姉さん悲しい!


食事も終わり、お姉様と一緒に大きなベットで眠る。

はしゃぎすぎたのか、いつもより早くぐっすりと眠ってしまった。

私はまだちょっと眠気が来ていなかったので今日のことを考える。


ゲームの登場人物はこれまでに二人。

悪役令嬢アリシアに妹がいたという設定は、私の記憶だと無い。

サージエス侯爵家、財務大臣のお父様、レイオスくん。

ゲームの設定と酷似しているが若干状況が違う。

これをどう捉えるべきか、非常に悩ましい。

確かにゲームと現実は別なのだと割り切ってしまうことは簡単だ。

むしろゲームだと思って行動するほうがばかげている。

しかし、もし仮に、この転生としかいいようがない奇妙な現象が現実であったとして、そんなことが起こりうる世界なのだとすれば。

それがゲームの世界と同じような運命を辿るのだとしてもあまり驚きはない。

そして、最大の問題は悪役令嬢アリシアの運命にこそある。


悪役令嬢アリシアとしての運命は、それこそレイオスくんの見せ場より前に終わってしまう。

革命が起き、断頭台で首を切られ、アリシア亡きあとの世界で、優れた魔法で復興に活躍するのがレイオスルートだ。

サージエス家の悪事はお姉様とお父様の共謀ということになっていたはず。

レイオスは主人公たちとの行動で十分に活躍していたため、お父様は裏の仕事を一切任せず、お姉様に担当させたのだ。

確かにレイオスがいなければ都市の復興は困難だった。

物語の都合とはいえ、未来の当主が本当にそんな裏の仕事に一切かかわらずということがあるのかと思った記憶。


本当にゲームをもとにした世界かは分からないにせよ、お姉様に違う道を見つけてあげなければならないだろう。

お姉様が生き延びる方法を探しておかなくては。

幸いに私にはポテンシャルという能力がある。

お姉様でもいいし、使用人でもいい。

あるいは別の誰かでも構わないから、救ってくれる誰かを発掘するのだ。

他人任せでいかなくては、私の手はあまりに小さいのだから。

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