アンバランサー

どうやら呼ばれたのは俺と市杵島姫様だけではない。

このフロアには20人ほどの人間とそうではない生き物がいる。

恐らくは半分が俺と同じく、この世界に入るための鍵となった人間で、残りがそれぞれの世界からやってきた神だろう。

白いローブを着た神官たちがそれぞれ一冊の本を持って召喚された人間だけにそれを渡していく。

俺はそれを受け取って、何気なく最初の一ページを開いた。

真っ白なページ。

そこに炙り出しのように文字が浮かび上がってくる。

浮かび上がってきた情報は俺の顔写真と俺の情報だった。


藤岡元就 30歳

出身惑星 地球

所持金 10000コール

属性 雷

体力 18

スタミナ 21

魔力 57

筋力 13

知力 29

素早さ 15

器用さ 24

直感 30

信仰 99

善悪値 ➕49


憑いている神 市杵島姫命(イチキシマヒメノミコト)

神の属性 水 学問 音楽 パワー


というのが俺と女神のステータスだった。

一通りの情報が頭に入ったところで神官が「2ページ目を開いてください」と言う。

各々は言われるがままに2ページ目を開いた。

すると・・・


アルバス 24歳

出身惑星 ダルニス

所持金 10000コール

属性 火

体力 32

スタミナ 33

魔力 22

筋力 30

知力 10

素早さ 43

器用さ 20

直感 48

信仰 15

善悪値 ➕7


憑いている神 カルネアンヌス 

神の属性 聖 パワー


と言った感じで、近くにいる人間の情報が炙り出された。

「諸君、ご覧いただいただろうか、これで知りたい人間の情報を瞬時に取り入れることができる。ぜひ有効活用していただきたい」

と、神官が言った。

何というか凄まじいなこれは。

公開していない情報が勝手に晒されているようなものだ。

日本の一部の人間がこれを見たらプライバシーだの人間の尊厳だのを盾にして激怒するだろう。

だが俺にとってはありがたいことだった。

特にこの善悪値というのはこの社会で生きていく上で非常に参考になる。

恐らくこの善悪値は➖(マイナス)も存在するのだと思われる。

そしてこれは直感だがこの場に召喚された人間で善悪の数値がマイナスになっている人間は一人もいないだろう。

何故なら守らなければならないはずの街の中に悪人を侵入させると言うのは社会にとってはリスクだからだ。

俺は適当に一枚一枚ページをめくって周囲の人間の善悪の数値だけ見てみた。

そして自分の直感の正しさを実感した。

何故なら全員の数値はプラスだったからだ。


「勇者諸君、実はまだ召喚の儀式は終わっていない。君達は最後に聖印を刻まなければならない。ただ既に印を刻んでいるものは解散してかまわないものとする」

「印ってのはコレのことか?」

一人の頭がカラスの人間が自分の腕を曝け出した。

そこには幾何学的な刺青が入っている。

「あぁ、その事だ。諸君ら見たまえ、これが神と人を繋ぐ聖印だ。この聖印があれば神殿か祭殿でコールを捧げる事で神を強化することができる。コールは全員に1万コールを渡す。コールはこの世界で使える通貨である。各々、有意義に使うことを努力せよ」

ちょっと待ってくれ。

この世界の魔法技術に俺は驚かされている。

これって要するに電子マネーの決済じゃん。

本だからちょっとかさばるけどスマホと財布を同時にくれたことになるんじゃないか。

俺はこの世界の文明のレベルの高さに感心した。

「さて、まだ聖印を体に刻んでいない諸君、ラゴスの左腕の前へ!」

そうして示されたのは何かの怪物の左腕とその手に持っている彫刻刀のようなモノだった。

恐らくアレが自分の体の何処かに聖印を刻むのだろう。

「諸君、念じたまえ。さすれば導きにより君たちの体に聖印が刻まれるだろう!」

聖印を刻んでないモノたちがその左腕に列を作る。

並ぶ者の表情は二種類。

期待か、不安か。

恐らく導きというのはイメージができるものだ。

それを俺は確信していた。

ラゴスの左腕が動き出し人の体に聖印を書き示す。

書かれている者達は皆、激痛に表情を歪めていた。

痛いのは、俺も苦手だ。

俺の番になった。

俺は左手を差し出す。

書かれるべきは手の甲に。

その家紋を想い描く。

激痛が走る。

歯を食いしばって耐えた。

全身から冷や汗が流れて、目から大粒の涙が流れる。

とてもブチいてぇじゃねぇかこの野郎。

刻むのが終わって何とか列を離れる。

そして自分の左手の甲に刻まれた鳳蝶あげはちょうを見てニヤリとした。

鳳蝶は平氏の家紋である。

俺は平清盛たいらのきよもりのファンなのでこれだけは絶対に外せなかった。

さて、激痛に耐えたし資金もある。

まずは市場調査に出かけて生活の基盤を作らなければ。

そう思って神殿を出ようと思った矢先に神官に呼び止められた。

「すみません、冒険者登録をお願いします」

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