現代社会で信仰心MAXの俺が異世界で無双してきた。

芸州天邪鬼久時

プロローグ

2024年1月1日8時、俺は宮島にある弥山(みせん)の山頂に来ていた。

土砂降りの雨雷がと雷が鳴り響いている。

周囲の島々には霧が立ち込めていて日本三景の面影などはどこにもない。

俺はどうしても今日、弥山の山頂に登ってみたかった。

元旦だから登りたかったんじゃない。

一応それもあるが、メインは天気予報で雷雨になると予報が出ていたからだ。

たった一人の特別感を求めて雨の中、山を登り続けた。

時より落ちる雷に目を焼かれながらそれでも山頂を目指した。

ここに来るまで誰ともすれ違わず、当然のように山には人の気配がない。

居るのは森の中でひっそりと身を潜めている鹿や野鳥がちらほらと目についた。

神様、俺は雨と雷の中、山を登りました。

別に何か考えがあったわけではありません。

今まさに雨に打たれ、雷の爆音で鼓膜が破けそうになっている最中でも、どうしてここまで登ってきたのかと問われるのでしたら私はあなたに「なんとなくです!」と胸を張ってこたえるでしょう。

ただ気分は最高です。

誰もいない山の頂上と言うのはこれほどまでに無償の喜びがこみ上げてくるものなのでしょうか?

まるで雷が俺を祝しているような錯覚さえ覚えます。

眼下に見える深い霧のお陰で今いる場所が世界から切り離された始まりの地のように見えない事もない。

始まりの予感を胸に俺は天に向かって腕を伸ばした。

いや、正確には、このつまらない人生が終わってくれたらいいなと思って手を伸ばした。


次の瞬間、俺は光に包まれた。

いや、現実的なことを言うのなら俺は雷に身を焼かれてこの世を去った。


「はっはっはっはっは!あーっはっはっはっはっは!」

どこからか笑い声が聞こえる。

その笑い声で目が覚めた。

俺はいつの間にか床の上で寝ていたらしい。

ありえない。

つい先ほどまで山の上に居たはずだ。

それとも何か、実は今日は登山になど行っていなくて家でずっとゴロゴロしてて気づいたらベッドから落ちて床で寝ていたとかそんなところか。

そう思って目を開けてみるとそこには一面の霧に覆われていた。

何が何やら分からない。

「なぁ、坊や随分と面白いことをしとるねぇ」

先ほどの女性の笑い声の主が俺に呼びかける。

「元旦に山に登って雷に打たれて死ぬ人間なんて言うのは初めて見たわ、坊や、名はなんて言うんね?」

藤岡元就ふじおかもとなりです」

漠然と、神様に向かって質問を返す。

「ほう、元就とな、これはこれはあの元就と同じ漢字でいいんかえ?」

「そうですよ、毛利元就の元就と同じ漢字です。父の趣味でね」

「そうかえ、そうかえ、それはそれは、おあつらえ向きじゃねぇ」

「あの、もしかして貴女は市杵島いちきしま姫様であらせられますか?」

俺がそう言うと彼女はとても驚いた。

「おぉ、坊やは私がわかるんね!?」

「なんとなくですけど、それと、ここは神社の本殿ですか?」

「まぁ、なんと察しの良い坊やじゃ、よし決めた、坊や、今から面白い所に行こう」

「面白い所?」

「実はね、神と人が暮らす異世界があるんよ、でもその異世界に渡るにはカギとなる人間の魂が必要でね、どんな人間を連れて行こうか迷っとった所にお前さんがやってきてくれたんよ」

どうやら地獄でも天国でもない場所に連れて行ってくれるらしい。

極楽浄土か地獄でのんびりごろごろしようと思って雷に打たれて死んだわけだが、どうやら俺の人生にはもう少し先がありそうだった。

そしてその門はすぐそこにあった。

何を隠そう宮島の大鳥居がその門の役割を果たしているらしい。

門の中を覗いてみると石造りの神殿の中のような場所が見える。

「行くぞ元就、覚悟は良いか?」

覚悟とか度胸とかそんなものはない。

ただ、ここではないどこかなら、俺はどこでもよかった。

「俺は大丈夫です、でも市杵島姫様が宮島を離れて大丈夫なんですか?」

「私なんて宮島におってもおらんでも問題ないわ、科学のお陰で神通力が廃れた昨今、もはや神の力など持ち合わせておらぬのでな」

「そうですか、それでしたら何も心残りなど無しに日本を離れられそうです」

そう言って俺は先に鳥居をくぐった。

女神の話が本当なら俺が異世界への鍵のはずだ。

「礼を言うぞ元就、これから先はしばらく退屈せずに済みそうじゃて」

十二単じゅうにひとえを着た黒髪の美女が俺と同じ門を潜る。

その直後、白いローブに身を包んだ神官が叫んだ。

「勇者と異世界の神々よ、ドミニアの地へよくぞまいられた!」

こうして俺と地元の女神の冒険が始まった。

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