雑談2. ゲームは四回戦したけど、えっちも四回戦する?

 その勝負は互いの意地と性欲、勝利への執念そして童心ぶつかる大変激しいバトルであった。


 先程まで二連勝していた俺だが、実際のところルミィさんとの実力差がそうあるわけではない。

 ただダイス運に恵まれただけであり、実際、三戦目は互いに陣地をひとつずつ確保したのち、にらみ合いの拮抗勝負。


 前回よりもたくみに魔法カードを操るルミィさんは、まさに熟練の魔術師。

 試合は白熱を極めたまま最終戦に突入し、まずは先攻後攻を決めるダイスロール。


 ぽふん、と俺の放ったサイコロが絨毯の上に転がり。

 出目は、最大値の6。

 魔法カードを使わなければ理論上、負けることのない数値――


「ぺいっ」

「あ、ルミィさん今サイコロ弾いたよな!?」

「ノーカン、ノーカンっ!」

「どこの班長だよアンタ」

「だってそこで6出されるとキツいし!」


 もおお、とぷりぷり怒りつつ、仕方なく俺の6を認めた後、ルミィさんもダイスを振った。


 そしたらなんと彼女も6の目を出し、同時攻撃シチュエーションに突入。

 互いのモンスターが爆散し、そこで山札切れを起こしてゲームが終了した。


「くうぅっ……やるね、タク君。この天才カードゲーマーたるあたしと引き分けとは。ふぅん、さすがだと言いたいが、さすがだっ」

「いや、俺の判定勝ちだけど」

「なぬっ!?」

「ルールブックのここ。前戦地形の支配数が同じなら、その上にいるユニット数の数が多いプレイヤーの勝利」

「……。……ふっ。中々やるじゃあないか、タク君。だがこれは始まりの序章に過ぎない! 三度の勝負に勝たなければ、真の勝ちとはいえないのだよっ」

「あー出た、負けたらいきなり三回勝負にするやつね」

「もっかい! 先生お願いしやすっ」


 両手を合わせて平謝りしてきたので、仕方ないなあという勝者の愉悦に浸りながらもう一戦受けてやった。


 結果、二戦目はルミィさんがギリで勝ち越し。

 三戦目はまたも俺の勝ち。

 けどそこで諦めないのがルミィさんらしかったし、俺も楽しくなってきたので四戦、五戦と行い――


「っし! 勝ったぁ~~~」

「あー畜生っ!」


 油断したわけではないがそこから三連敗し、結局負け越した。

 くそぅ。

 まさか終盤に捲られるとは。俺も勝負強さが足りないな、と歯ぎしりする。


 気の合う相手といえど、負けるのはやっぱ悔しいし……。

 あと正直、負けたらアレがお預けなのも、なんとも残念だ。ぐぬぬ。


「けど、タク君もなかなか手強かったよ。いい汗かかせてもらったよ……」

「まあ最初一回勝負だったのが、気づいたら四戦先取になってたけど」

「細かいことはいいのっ。大切なのはね、あたしが勝ったという事実なのだよ」


 ふふ~ん、と、かけてもいない眼鏡の鼻をおす仕草をするルミィさん。

 彼女はたまに偉ぶりたくなるあまり、バカになるのだ。まあ俺もだけど。


 ってことで、と、つんと俺のおでこをつつく彼女。


「で? なんでも言うこと聞んだよね? ね? ”負け犬”さん?」

「卑怯な手で掴んだ勝利の味は旨いか? 小娘」

「最高。マジうめぇ~! うひひひひひっ」

「……ルミィさんはそういう人だった……」

「勝つのは楽しいからね。まあもっと大切なのは、ゲームを楽しむことだけど。楽しむにはそこそこ勝たないとねぇ」

「まあな」

「それにタク君相手なら、あたしがバカやっても受け止めてくれるし?」


 ……まあ、な。

 俺も正直、(現実的ではないが)相手が薬師寺先輩だとか里山だとかなら、もっと遠慮するし言葉も控える。

 ルミィさん相手だから馬鹿やれてる、っていうのは本音だ。


 ……でも負けかあ。負けたかあ。くそぅ。

 残念がる俺の袖を、彼女がちょいちょいとつついてくる。


「ところでさ、タク君。もし君が勝ったら何する予定だったの?」

「何って」

「ナニ?」

「……言わなくてもわかるだろ」

「言われないと分からないなぁ~」


 座布団に腰掛けなおし、テーブルに肘をつけてニマニマするルミィさん。


 その時点で、あれ?

 とは思った。


 ……これ……言われなくても、誘われてるよな?

 と、長年の付き合いによる勘から察したものの、俺はあえて黙る。


 期待はするが、ここでほいほいと釣られては、男の威厳に関わる。

 あくまで相手から誘われたから俺が応じてやったんだ、という態度を見せたい。俺も男なので!

 と、みみっちいプライドが大声で囁いたので、ふい、と顔を逸らす。


「まあ、別に。大したお願い事はする予定なかったし」

「じゃあ帰ろうっと!」


 と、立ち上がる彼女の手首をがっちり掴んだ。


 情けなく見上げれば、ルミィさんがにまにましている。

 あ、これ絶対俺の言いたいこと分かってるだろ、っていう意地悪なにやけ顔を浮かべ、男を誘うあくどい瞳を輝かせながら、にまぁ~~~っと唇を歪めて、俺のセリフを待っている。


 ……この女、誘ってやがる……っ!


「ん~? この手は何かなぁ、タク君?」

「や、その。大したお願いごとではないけど、大したお願い事ではあるっていうか……」

「具体的に言ってくれないとわかんないなぁ~。あたしにはわかんないなぁ~」


 明白なサインを匂わせながら、けど、彼女はニヤつくのみ。


 ――が、そこまで挑発されたら、俺だって思うわけだ。

 調子に乗りやがって。

 俺がこの程度の挑発に負けると思うなよ?


 確かに俺は、先日まで女を知らぬ童貞だった。

 しかも最近、彼女に手玉に取られているのは事実。

 が、そこまで煽られて、ただ素直に頭を下げるほど、俺は安い男ではない!


「――すみません、したいです」


 両手をついて土下座した。


 プライド、ありませんでした。

 というか、俺如きがルミィさんに勝てるはずないので……。


「したいって、何を?」

「……その。ぜひともルミィさんと融合召喚を」

「ふっ。素直になりたまえ、少年」

「エロいこと、したいです!」

「仕方ないなあ、もぅ。あたし高くつくよ?」

「焼き肉奢りますんで」

「叙○苑?」

「牛○」

「あたし一度、石垣牛とか食べてみたんだよね」

「じゃあ旅行にでも行った時に食べよう。割り勘で」


 割り勘かよ! とルミィさんが笑いながら俺を小突く。

 互いに冗談だと知りながら、仕方ないなあ、と彼女がゆるりと腕を伸ばし、俺の頬を滑るように撫でてきた。


 許諾のサインと受け取り、胸が高鳴る。

 ルミィさんといちゃつくのは何度目かになるが、それでも毎回興奮するのは男の性か。


「……ん」


 彼女と目が合い、自然と互いの唇を近づけていく。

 ふれ合うような口づけから、深い交わりへ。


 まだ慣れない舌を交わし、互いにゆっくりと高めあうように絡めていくと、彼女がふふっと微笑んだ。


「これさ。結局ゲームの結果、関係なかったよね?」

「や、あると思う」

「そう?」

「俺から言い出すか、ルミィさんに誘われて言わされるか。結構おおきな差だと思う」

「やること一緒じゃん」

「でも空気があるだろ? それにさ」


 と、彼女の肩を抱き寄せながら、耳元で囁いた。


「やっぱ俺も、勝ちたかったし。……ってことで、その。今日は俺から攻めてみたいと思います」

「延長戦だね。かかってきなさい、受けて立とう!」

「あんまり挑発すると、後悔するぞ?」

「ゲームは四回戦したけど、えっちも四回戦する?」

「すみません勘弁してください」


 結局ベッドの上でボロ負けしたことは、俺と彼女の間だけの秘密にしておこう、と思った。

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