雑談1. 次、負けた人は相手の言うことをなんでも聞く。どう?

「あ、そうだ、タク君。この前実家に帰ったとき、面白そうなカードゲーム見つけたんだよね!」


 次週の半ば。

 ふらりと遊びに来たルミィさんが持ってきたのは、手のひらサイズより少し大きい長方形の箱だった。

 表紙には、魔法使いの美少女の絵が。

 箱の周囲にはモンスターの絵柄が描かれている。カードゲームのようだ。


「やってみない? あたし、アナログゲームにも興味あったんだよね。直に会って出来るやつ」

「ああ。そういえば俺も経験ないな」


 一時期オンラインで遊べるマスター○ュエルに触れたことはあるものの、オフラインで遊べるゲームは数える程しか経験がない。

 それも人生ゲームとか大富豪とか、誰でもやってそうな遊びのみだ。


「タク君はやったことある? 一人トランプタワーとか」

「何だその寂しすぎる遊び」

「ソリティアに、ピラミッドに、あとは、んー」

「一人遊びばっかじゃないか」

「気楽でいいじゃない。みんな七並べとかすると喧嘩になるしさ。あれ、ガチでやると怪我人出るんだよね……あと桃鉄」


 ちょっとうつろな目をする、ルミィさん。昔何があったんだ。まあ桃鉄は友情破壊ゲームだけど。


 と、流しつつルールの確認を終えた。


 本ゲームの基本は、陣取りゲームらしい。

 まずはモンスターを自分の陣地に召喚。

 その後、中央にある陣地へ進軍したのち戦闘、最終的に陣地を多く占拠した方が勝ちだ。


「よし分かった、あたし完璧に理解した」

「してないだろ。俺の説明聞いただけだし。後これ魔法カードとか儀式カードとかもあって結構大変だぞ」

「大丈夫だいじょーぶ! 要するに『ふっ、貴様の行動は全て読んでいたのさ!』って格好付けてカード投げればいいんでしょ?」

「投げるな。ま、とりあえずやってみるか」


 まずは六種類あるデッキから、互いに二つをチョイス。

 シャッフルした後、初手で手札を十枚ドロー。

 その後、モンスターを自軍に召喚――


 と、ルミィさんが立ち上がるなり、しゃきーん、と肘を伸ばして変身ヒーローみたいなポーズを取った。


「ふっふっふ。タク君、貴様に神を見せてやろう! ゆけ、我が最強の召喚獣ベヒモス! さらにアースドラゴン召喚! くくくっ……我が力の前にひれ伏すがいい……っ!」

「一マスに召喚できるのはレベル10までな。リミットオーバーだぞそれ」

「そうなの!? え、それ位許してもよくない?」

「スプラ○ゥーンでインク無限に打てたらチートだろ」

「それもそだねぇ」


 という訳で、実戦。


 ルールは多少複雑だが、プレイしてみると案外よく出来たゲームだな、と実感した。

 あとでネットで調べたところ、本ゲームは昔一斉を風靡したTCG(トレーディングカードゲーム)をコンパクトに遊びやすくしたものらしい。

 が、きちんと戦略性があり、下手に攻撃をしかければ相手にカウンターを決められることもあれば、逆に速攻で仕掛けることにより相手の計画を狂わせる場合もある、と戦略に富んでいた。


「じゃあ俺のターン。コストを支払って儀式魔法を発動。対象に20ダメージ、と」

「えええ!? あたしのベヒモス吹っ飛んだんだけどぉ!?」


 ルミィさんが飛び上がり、その一撃が決勝打となり俺の勝ち。

 続けて二戦目も、また俺の勝ち。


 ルミィさんはシミュレーション系ゲームは若干苦手なのと、ダイス運に見放されていた。


「くぅーっ、運ないなあ」

「まあ、結果はともかく勝負は互角だったと思う」

「そう言ってくれると嬉しいけど、やっぱ悔しい。てか、一度タク君とTRPGもやってみたいよね」

「名前は聞いたことあるけど、確かに興味はあるな」


 普段はオンラインゲームを楽しむ俺だが、TRPGには触れたことがなかった。

 他、マーダーミステリーとかも、面白そうではあるんだが……


「相手がねえ」

「だな」


 人数が必要なゲームは、ハードルが高い。

 もちろん、そういう遊びができる専用サーバーに行けば良いのだが、元より人間関係を増やしたくない俺にとって、相手を誘うっていう行為はハードルが高い。

 ……ルミィさんって本当、貴重な存在だよなあ。


 と、隣を見ると、彼女はいまも一生懸命にカードを睨んで次のデッキを考えていた。


「次は炎を中心に……うん、火力特化の方があたしらしいし……!」


 彼女は、遊ぶときは常に真剣。

 負けることを悔しがり、どうやったら勝てるか本気で考える、生粋のゲーマー……だからこそ俺も話してて楽しいし、好敵手として相応しい。


 ……なんて、社会人の貴重な一日を費やしながら笑っていると、彼女が「よしっ」と拳を握った。

 戦略が決まったらしい。

 かかってきなさい、と悠々と待ち構えていた俺に、ルミィさんがぎらりと目を輝かせる。


「ねえ、タク君」

「次も負けないけど」

「分かってるって。けどさ、あたし達も大分ルール把握してきたし。次は、ただ勝負するってだけじゃ、面白くないよね……?」


 ニヤリ、と笑みを深くしたのち。

 彼女が挑発するように、くいくい、と指先でこちらを誘った。


「次、負けた人は相手の言うことをなんでも聞く。どう?」

「ん? いま何でもって言ったよね?」

「お約束でたーっ。でも女に二言はありません! ……どうする? 少年」


 俺はもう少年と呼べる程の歳ではないが――舐めくさったメスガキ挑発プレイに、乗らない訳にはいかない。

 ルミィさんも分かってますよと言わんばかりに、自身の胸へそっと指先を這わせていき……俺の内に眠る、男心ってやつに火を灯してくる。

 いいだろう。


「乗った」

「ホントになんでもいいからね。まあ、あたしが勝つけど?」


 何して貰おうかなぁ?

 なんならご馳走、いただいちゃおうかな?

 挑発する彼女に、俺は興奮とエロスの力を思考力へと変換し、勝利への道を歩み始めた。

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