第27話 タク君ってむっつりだけど実は超えっちな方だよね
あとの仕事を技師長と薬師寺先輩に任せ、待たせていたルミィさんを拾いようやく職場を後にした。
コンビニで弁当を買いつつ帰宅し、自宅に招く。
ルミィさんが変態ストーカー野郎と出会ったのが自宅マンション近くだと聞いたので、そのまま返すのは忍びなかったのだ。……ホント、何事もなくて良かったなと思う。
「本当に遅くなって悪かった、ルミィさん」
「いやいや、迷惑かけてるのはこっちだし。それに、タク君の仕事場も見れたしね」
「面白いところじゃ無かっただろ」
「やー、新鮮な体験だったよ。面白い人にも会えたしね」
誰のことだろうか。
まあ他人との会話が得意なルミィさんのことだ、患者さんと世間話に花咲かせたのだろう。
それよりも、問題はつぎの対策……と。
「明日の出勤とか大丈夫か?」
「んー、一応上司には報告して、警察にも連絡しようと思う。ヤバそうなら支店変えよっか、って話になるかも」
「……そっか」
「タク君、とりあえず家についたしおっぱい揉んどく?」
「いま真面目な話してるんだけど!?」
「やー、なんかさあ、あんまりシリアスな会話したくないんだよねぇ。真面目な話はまあ、大事なのは分かるんだけどぉ」
はあぁ~、と息つきながら鮭弁当を頬張るルミィさん。
まあ、真面目な話ってどうしても疲れるからな。
けどさすがに何もしないのは困るよなあ、と考えて――シンプルな解決策を閃いた。
彼女にとっては、重いかもしれないけど。
「ルミィさん。……とりあえずこれ、使わないか?」
「ん? なぁに?」
「合鍵。俺ん家の」
ぱちり、と彼女が瞬き。
「俺の家にならいつ来てもいいから、避難所として使ってくれ」
「え。いいの?」
「ホテルに連泊するのも金かかるし、逃げ場は欲しいだろ? まあ、うちの居心地がよくないなら、無理しなくてもいいけど」
正直、重いかな、と自分でも多少思う。
友人同士とはいえ、合鍵を渡すなんてのは恋人同士のやることだろうし。
けど今は、もっと優先すべきことがある。
「いいの? タク君、これかなり大事な話だと思うけど? それにあたし、こっそり通帳とか盗んじゃうかもよ?」
「ルミィさんがそんな人だったら、初日に盗まれてるだろ」
「んー。タク君って、そこまで人を素直に信じる方じゃないよね?」
「今回は事情が事情だし。……俺にとって、ルミィさんは大切な友達だしさ」
もちろん俺だって、見知らぬ女がストーカー被害にあったからって家に案内したりはしないさ。
けど、ルミィさんは何度も遊びに来てる友人。
それ位の力にはなりたいし、あと、ルミィさんが遊びに来るたび自宅前で待たせるのも気が引けてたしな。
「つうか、ルミィさんに合鍵を渡すと俺にも特典がある」
「そうなの?」
「家に帰って部屋が空いてたら、エロいことができる合図っていう楽しみがある」
ぷはっ、とルミィさんが吹いて笑った。
「なるほどねぇ、タク君はか弱い女の子がストーカー被害にあったのをいいことに、自分の手込めにしてしまおうってことかぁ。悪い大人だねえ」
「くくくっ……そうとも。俺は悪い大人なので、自分の不利益にだけなるようなことはしないんだよ」
「ああ~あたし騙されちゃう、可愛そうな赤ずきんちゃんなんだなぁ~」
困ったなぁ~~と笑いながら、合鍵を受け取るルミィさん。
もちろん、今のがただの言い訳だ、ってのも理解してる。
まあ、それで彼女の笑顔が戻るなら、安いもんだ。
「ついでに今日は泊まってくか? ああ、そのうちルミィさん用のクローゼットも用意しておこうかな。ちょっと狭くなるけど」
「あんがとー。……で、タク君おっぱい揉む? 揉んどく?」
「いや待て、何でそうなるし」
「せっかくだし?」
ん、と衣服越しに、ぐいと大きな胸を強調するルミィさん。
まあ正直、仕事で疲れてるとはいえ、俺も全く反応しなかったわけではない。けど――
「……今日は、止めておくよ」
「珍しいね。どうしたの?」
「さすがに疲れたし、今日は色々ありすぎたしな。あとほら、今日揉むとなんか、ストーカー被害につけ込んでる感がガチで出そうだし」
「あーなるほど……」
「それに、ルミィさんがこれからも遊びに来てくれるなら、機会はあるだろうし。――それより今日はさ、ゆっくり休もう」
お互い、疲れる一日だったろ?
と笑いつつ彼女の髪を撫でると、ルミィさんの瞳がゆる~っと優しく綻んだ。
「なるほど。君は相変わらず優しいねえ」
「優しいだけが取り柄の男って、モテないらしいけど」
「優しいだけじゃなくて、実行力があれば別じゃない?」
そうだろうか?
けど俺だって、ルミィさんには癒されてるし助けられてるからな。お互い様だ。
「ん、じゃあタク君了解。今日は疲れたからゆっくり寝て、また明日から頑張ろうっ」
「おぅ。つうか俺も明日、技師長や薬師寺先輩や里山に謝らなきゃいけないし」
「あたしも上司に相談だな~。うん、やっぱえっちは面倒事が片付いてから気持ちよく、だね」
「そうそう」
「悩み事抱えたまましても、楽しくない。ゲームも同じ」
「そそ」
「じゃあ今週の仕事終わった金曜日に、まとめて思いっきりお楽しみにしよっか?」
「だな。……うん?」
勢いで返事してしまったが、最後の何だ。
や、ルミィさんとは既に何度か交わっているが……”思いっきり”とまで言われると、ちょっと期待してしまう。
なんか、凄いことするのか?
あと金曜日って、地味に遠いな――と、邪な妄想に囚われてると。
彼女が隙を縫うように、俺のズボンに手を伸ばして。
「おやおや、タク君。もう期待しちゃってるのかな? でも金曜日までお預けね。それまであたしが管理してあげようか?」
「エロ本展開やめろ」
「んふふ。イイコト、楽しみだねぇ?」
耳元をくすぐられるように囁くルミィさん。
その甘美な誘いと猫みたいな撫で越えに、ああ、いつものルミィさんが戻ってきたなと安心しつつ……つい、もう一人の俺がさっそく元気になろうとするのだから、現金なものだと思う。
顔を逸らし、風呂、と立ち上がるとぺしっと背中を叩かれた。
「逃げたーっ」
「うっせぇ! 男なんだから仕方ないだろっ」
「ごめんごめん! でも息子さんが元気なのはいいことだよ? タク君ってむっつりだけど実は超えっちな方だよね」
男は大体みんなそうなんだよ!
と、恥ずかしさのあまり頭から煙を拭きながら、風呂場に飛び込み、ぶわっと熱いシャワーを浴びる。
熱湯でさあっと髪と汗を流しながら、でも、このやり取りがじつに俺と彼女らしいなあと思い――
息子が元気になるだけでない、心の充足感に満たされた気がして、俺はほっと息をついた。
密かに疑り深い、俺だけれど。
合鍵を渡したことに後悔なんてひとつもないなと確信するには十分すぎるな、と、素直に思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます