第16話 今日はちょっとSなルミィちゃんを楽しませてあげよう

「ただいま、と」

「ただいま、我が家! お帰りタク君」

「一緒に帰ってきたけどな。あとここ俺の家だし」

「もうあたしの家でも良くない?」


 その日の仕事上がり。俺はルミィさんの職場へ迎えにいき、そのまま一緒に帰宅した。

 最近ルミィさんがストーカーまがいの被害にあってると聞き、一応迎えにいったのだ。


 まあ彼女はしっかり者だし、迎えも必要ないとは思ったんだが、もののついでだ。

 大切な友達だしな。

 と、密かに心配しつつ、上着をクローゼットにかけて一息。


「ルミィさん、何か飲む? コーヒーか紅茶か」

「胃もたれするから、甘い物がいいなぁ」

「甘いものって胃もたれするだろ」


 どっちだよと突っ込みつつ、インスタントのココアと紅茶を用意した。


「ありがとっ。どっちがあたしの?」

「好きな方どうぞ」

「んじゃ両方」

「お腹たぷたぷになるぞ?」

「別腹だから問題なしっ」


 笑いつつルミィさんが紅茶に手をつけ、ココアのカップを俺に譲る。


 口をつけると、ほんのりとした優しい甘味が口の中に広がった。

 ……何となく、ホッとする。

 今日の仕事は中々ハードだったので厄払いも兼ねて、息抜きに丁度いい。


 ふぅ、と目頭を押さえ、疲れを払うように息をつく。

 そうしてのんびり呼吸を整えた後……俺はよいしょと立ち上がり、ルミィさんの背後に回った。


 ん?

 と、首を傾げつつ嬉しげなルミィさんの肩に触れ、まあ、……これくらいなら、とゆっくり親指を押していく。


「ん、っ。……う~、気持ちいいっ」

「慣れてるわけじゃないけど、当店では本日限定の肩もみサービスを始めました」


 ちなみに肩もみは肩を揉むだけでなく、首の付け根から肩の先端までまんべんなくほぐすのがコツだ。

 人間の背中は僧帽筋やら肩甲骨まわりの筋肉やらがいろいろ張り付いており、それらを普段つかわない形で動かし、ほぐしてあげるのが上手な肩もみらしい。受け売りだけど。


 ……という名目で彼女を揉みつつ、相変わらず柔らかい身体してんなあ。

 触ってるだけで気持ちいいな、と邪なものを覚えつつ、もみもみ。


 彼女が「あぁ~」と、温泉上がりみたいな気の抜けた声をほわ~っと零した。


「うむ。我が友タクよ。そなたに余をいたわる権利をやろう。肩もみもみを続けたまえ」

「ははっ。仰せのままに、旦那様」

「誰が旦那様じゃい、そこは女王様と呼びなさい」


 けらけら笑う彼女に、俺はむにむにと指を押していく。

 首の後ろ、技師的な目線でいえば頸椎C4後方あたりから鎖骨~肩峰までをまんべんなく揺らし、ぐにぐにもみもみ。


 ルミィさんが気持ちよさそうに、はあぁー、と息をついたので、たぶん効果はあるんだろう。


「やー、なんかごめんね? こーゆー面倒事は持ち込まないつもりだったんだけどさぁ」

「仕方ないって。仕事してると変なヤツって必ず来るしさ。そういう時こそ、だらーっとゲームしたりマッサージしたりするの、大切だと思うしな。だから遠慮なくゆっくりしてくれ。……俺も疲れた時は無言で作業ゲーするし」

「へええー。タク君でもそうなんだ」

「ああ。やる? 息抜き用ゲーム。何も考えないで遊ぶやつ」


 と、俺は自分のゲーム機に入っている、のんびりプレイ用ソフトをいくつか解説する。


「お勧めある?」

「これかな。掃除ゲーム。ひたすら放水しまくって、庭とか車の汚れを落としまくる」

「それで?」

「それだけ」


 ルミィさんが絨毯の上にうつ伏せで寝そべり、姿勢悪くゲームを起動した。

 膝をパタつかせ、リラックスした姿勢のままコントローラーを握り、画面に現れた一人称視点のキャラで放水する。


 ぷしゅー。ぷしゅー。

 どどどどど。

 じゅわーっ。


 ひたすら水をぶっかけまくると、ひたすら汚れが綺麗になる――アホみたいなゲームだが、


「何これ、ウケるんだけど。でもなんか気持ちいい」

「隅っこまでひたすら掃除してると、なんか気分がいいんだよな」

「うん。超なんにも考えなくていい感じがいい。ま、ゲームで掃除してるなら自分の部屋掃除しろって言われそうだけど!」


 リラックスしながら、ひたすら放水しまくるルミィさんにご奉仕する俺。

 寝そべった背中を見つつ、相変わらずエロい尻してんなあ、と男の本能を拗らせつつ、ついでに背中のツボらしきあたりを押してみた。

 彼女がくすぐったそうに笑い、コントローラーを揺らす。


「タク君、余は今とてもいい気分である。男を背中に侍らせ、本人はだらだらゲーム。最高だねぇ~」

「気が向いたら買うといいよ、このゲーム」

「お掃除ゲームに、君のマッサージはついてくるかな?」

「それは俺の家限定」

「残念。なら、タク君ちで自分が遊ぶ用に買おうっと」


 それあんま意味なくね?

 と突っ込みたかったが、まあ彼女の好きにすれば良いか。


 ……と、そんな感じで十分ほど彼女をほぐし、じゃばじゃばとゲーム内水遊びをエンジョイし終えて。

 「ねね」と、彼女が寝そべったまま振り向いてきた。


「タク君も今日はお疲れでしょ。代わりにあたしがマッサージしてあげよっか」

「あ、いや」


 言われてつい、エロいことを考えてしまったが。

 多分そういう意味じゃない……よな?


 という俺の目論見なんてお見通し、とばかりに、んふふ~、とにやつく彼女。


「タク君も今日はお仕事疲れたでしょう。顔が疲れてるもん。遠慮せず言ってくれてもいいんだぜ? あたしの愚痴と、お迎えに来てくれたお礼。さあ遠慮なく寝そべり給え」

「いやでも」

「友達は割り勘主義なのさ」


 と言われたので、今度は俺がベッドに寝そべった。

 せっかくなのでスマホゲーを起動しえると、彼女がよいしょと代わりに俺の背中に乗っかってくる。

 その拍子に彼女のお尻がむにっと腰元に当たるもんだから、その気はないだろうと分かりつつも自分の分身が反応してしまうのが情けない。


 ……俺ってやっぱ、性欲強いのかなあ。

 普通の男って、ここまでがっつかないよな?


「お客さーん。凝ってる所はございませんかー?」

「なんだそれ」

「肩でも心でも、どこでもどうぞ? 何なら仕事の愚痴でもばっちりオッケー」


 こりこりと、彼女が肘を立てて俺の背中をぐりぐりしてくる。

 お陰で強ばった筋肉がこりこりほぐされていき、ああ、これ気持ちいいな……と身を委ねた。


 彼女には零さないが、じつは今日の仕事は結構重くてな。

 急患そのものは何度も見てきたが、さすがにちょっと……というのがあった。

 里山も青ざめて、吐きそうにしてたしな――


 とは、さすがに重すぎるので口にしない代わりに、ルミィさんに身体を許してくつろいでると。

 不意に、ふにっ……と。

 背中に肘とも指とも違う柔らかいものがあてられ、とくん、と心音が高鳴った。


「おやおやぁ? どうかしましたか、旦那様」

「……いや。その。おぅ」

「ここだけの話しですがね、旦那様。当店にはVIP限定の裏サービスがございまして」


 ルミィさんが、ふう~っと、俺の耳元に息を吹きかけてきた。

 途端にむずむずと疼いて、もちろん俺の半身もびくんと反応して熱を持ち始め。


「どうします? もっとリラックス、しちゃいます?」


 当然それに気づいたルミィさんが、くすぐるように俺の首筋をなぞり、耳たぶをふにっとつまんできた。

 そのまま耳たぶを人差し指で弄られ、思わず感じてしまう俺。


 ……ああもう。

 こうなると男ってホント、弱いよなあ。

 もう生物学的に仕方ないんじゃないか?


 ……まあでも、彼女がオッケーしてくれるなら構わないし。

 俺も、その……本当はちらっと、いや、途中からかなり期待、してたし。


 なので、素直に頷く。


「はい」

「よろしい。けどさ、今日はあたしがいま上取っているし、ちょっと虐めていい?」

「なんだそれ」

「新しいプレイの一環。これで三度目だし、そろそろタク君攻略法を探そうかなって。……というわけで、タク君を気持ちよく出させつつ、弱点探しをしちゃいましょうね~」


 ゲームの攻略と同じかよ、と笑うルミィさんに、……俺も、頑張って彼女の弱点を探さないとなあ、なんて阿呆なことを考えてる間に、あっという間に上着を脱がされてしまった。

 そんな俺の腰に乗っかり、にまにまニヤけてる彼女は、見ようによっては完全に虐め好きな女王様だ。


「ふふ。タク君かわいい」

「対戦、お手柔らかにお願いします」

「今日はちょっとSなルミィちゃんを楽しませてあげよう」


 とまあ、実に男心をくすぐる言葉を囁かれながら、彼女の指先がするりと、俺のズボンの中へと入り込んできて。


 ああ、今日も手玉に取られるなと思いつつ、それを密かに期待してる自分に気づきながら、快楽に身を委ねた。

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