第二話 青い顔は笑う 

引き取られてから、1年後_____


近所に住む友人達と遊んで

家の前に着くと、美しい馬車が止まっていた。

え、あれ。どうしてリンウェル家にとまっているの?


何だか胸騒ぎがして、遠回りして柵を乗り越え、

裏庭からリビングの窓側の壁に寄ってみた。

カーテンは不思議に閉めきられていた。

が、話し声は聞こえてきた。

低くて渋めの男性の声だ。

「______、____」

「______」

くぐもっていて内容は聞き取れない。

「ふざけないで!」

そして突然、叔母さんが怒鳴った。

聞いたことのない、緊迫感のある声。


一体どうしたんだろう。心配になって、かがんでカーテンの隙間から中の様子を窺う。

すると、肩を震わせている叔母さんの背中が見えた。

泣いている、、、


もうちょっとかがんで、向かい側に座っている人物を見てみる。


濃紺のベロアに金の刺繡のジャケット。一目で、貴族だと分かった。

ゆったりとした所作で男性が小さな袋をテーブルに載せた。

重みのある音がした。


「私はこれで失礼する」

そう残して男性が席を立つ。


去り際、男性が叔父さんと叔母さんを振り返り言い残した。

「たまごを盗むものは牛を盗む、だな」

その眼は暗く、二人を映していた。


私は急いで立ち上がり、玄関のほうに目を向けると、

白髪の厳しい面差しの紳士が出てきた。

素早く馬車に乗り込み、去っていった。

近所の人達も気になっていたらしく、ひそひそと話し声が聞こえてくる。

なんだか、怖い。


トーマス叔父さんは、グレタ叔母さんの背中を優しくなでていた。

しかし、二人の後ろ姿は不安そうで小さく見えた。

今、家に入れない。


ざわざわした気持ちをかき消すように、私は駆け出した。



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小鳥と救いの冒険 戸森 @watashi_tensai_ikiru

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