ミモザ

橋の上で5人の子供たちの笑い声が響き渡る。

「あはっはは」「きゃははは」


一人の男の子が、走るスピードを上げて前の女の子の肩にタッチした。

「はい、ターッチ!」

「うあっ! 、捕まっちゃったー!!悔しい~」


男の子 ザックは、快活そうなくせっ毛の赤毛をくるんと飛び跳ねさせて、

得意げに言った。

「へへん、リーリャのくせに、俺から逃げるなんて出来っこないよ~だ!!」

「リーリャも早かったけどな~」周りの男の子も納得といった顔でうなずいてる。


リーリャは頬を膨らませてしまっている。


リーリャの隣に来たロゼが手を差し出して言った。

「リーリャ、タッチして」

「え?」

「ザックは私が捕まえてやる!

女の子だからってナメてもらっちゃ困るね!!」

「うん!」


笑顔で頷いたリーリャにタッチしてもらったロゼが、

急発進でザックめがけて走り出す。


「うわっ!ロゼ!!」

驚いたザックが急いで速度を上げる。

それに合わせて、真剣に追いかけるロゼ。


「おっ、ロゼがザックを追いかけてるぞ!」

「ロゼ―!頑張れ~!」機嫌が戻ったリーリャが楽しそうに手を振る。


「ザック!後ろ近づいてるぞ!!」男の子が叫ぶ。

そして、その手はザックの肩に追いついた。


「タ―――――――ッチ!!!」


「ザック、捕まえたよ!」にっこりと満足そうに微笑むロゼに、

悔しそうにそっぽを向く。「くそっ」


「もう一回だ! 今のは気ぃ抜いてただけだからな!!」

振り向いてザックが言う。

「いいよ。また負けたいって言うならね?」

余裕そうな顔を作ってロゼが相対する。


「なんかメラメラが見えるね。」リーリャが隣の男の子に話す。

「ああ、こりゃ長くなるな。」


「俺らは別で遊んどこーぜ」 「だな」

いつもの流れなのだろう。慣れたようにかくれんぼを始めた。




川にオレンジの光が揺らぎ始めた。

「ゼェ、ゼェ、」「ハァ、ハァ」


「どうだ、俺のほうが早かっただろっ」

「、私のほうだもん」


「終わんねーな、これ」

ザックが草に仰向けになって、言った。

隣にロゼも座って頷いた。

「そだね」


いつの間にか丘のほうに来てしまった。街に夕色が差し始めたのが見える。

風が凪いで、二人の髪を揺らした。


ふと、真剣な顔でザックが言う。

「もう、1年になるのか。ユリアナさんが死んで_」


「うん」俯いてロゼが答える。

まだ傷は癒えない。


ザックは幼馴染だ。彼の両親も既に亡くなっていて、

今は、パン屋の叔父さんが彼を引き取って住み込みで働かせてくれている。

ロゼの母ユリアナも、ザックを家に招待して三人で、偶に夕食を食べたりした。


「リンウェルさん達との暮らしはどうだ?」

ザックはこうやって、ロゼの気持ちを気にかけてくれる。


「楽しいよ!そして、とても優しい。これ以上ないくらい良くしてもらってる。本当に感謝しかないよ、。」


スカートの裾をギュッと握りながら、ロゼが言う。その顔は何かを堪えている様だ。


「それは、良かったな。」ザックが優しく相づちを打つ。

ザックはロゼの背中を優しくさする。


その暖かさに溜まっていた本音が零れ落ちてしまう。

「でも、ね。まだ、寂しいの。お母さんがいないって事に、。

夢に出てくるの。お母さんとの何気ない会話、ザックと三人で食事した記憶も。

話しかけたら、答えてくれて。抱きしめたら、ギュって返してくれる。」


「でも。目が覚めたら、いない。独りぼっち。それがすごく寂しくて、、。

リンウェルさん達はとても優しくて、気遣ってくれる。なんて素晴らしい人たちなんだろうと、思うの。だから、私はすごくワガママ、、」


堪えきれずに、涙があふれ出す。

「っ、ご、ごめん。ザック。」

「いいよ。友達だろ?」


「うん。」その言葉に、また零れる涙。でも、今度は暖かい。


「それにさ、別にワガママでもないと思うぜ。俺だって、両親に会えないのはつらい。今でもそう感じる。」

ロゼは、ザックの横顔を真っすぐ見つめていた。


「でもさ、今は大切なものがある。お前たちや、妹のアリア。仕事もさ。だから、寂しくても、それを守りたいから、やってやる!って思うんだ。」

そして、ロゼに向かって言う。

「お前は、1人じゃないからさ。俺や、あいつらもいる。リンウェルさん達も。」


ロゼの頭をクシャリと撫でて、いつもの快活な笑顔で笑った。

「それを忘れんなよ。」


つられてロゼも笑う。

「うん!!」


「ザック、お兄ちゃんみたいだね。」

「こんな生意気な妹がいてたまるか!」

「へへっ。」


「ザック、ありがとう。」


「おう。」


ロゼが突然スクっと立ち上がって、宣言した。

「よーっし!じゃあ、帰りは競争ね!!」

「ええ、まだ走るのかよ」

めんどくさそうにザックが言う。

「負けを認めたいなら、それでもいいよ。」

「仕方ねえな!」


合図もなく走り出す二人。幼い日の、煌めく思い出。














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