自覚
第44話 世界中で僕は君を選んだ
☆佐藤梓(さとうあずさ)サイド☆
翌日になった。
私達は...というか私は徹夜してしまった。
あまりの楽しみに寝れなかった。
で。
下着だがいつもの下着を履いた。
流石にあの下着はマズイ。
そう思ってだ。
それからメッセージボックスを開くと透子から(頑張って)と送られてきているのに気が付いた。
「お兄。準備できたよ」
「...おう。じゃあ行くか」
「そうだね」
私はバッグを肩にかける。
実は...今日は...とある事もはっきりさせたいと思って頑張ろうと思う。
何かといえば。
お兄が好きな人が分かってきたから本当かどうか確かめるのだ。
何故分かったかって?
それは昨日の話だ。
『好きな人...って何だろうな』
帰って来て早々にお兄がそう呟いていたのだ。
私は当初は何の事か分からなかったが。
だけどそれが本当なら。
それが本心なら。
私はお兄を応援しようと思う。
勿論、残念ではあるが。
その前に彼は私の大切なお兄だからだ。
「?...どうした?梓」
「ん?何でも無いよ。お兄」
そして私はドアに鍵を掛けてから表に出る。
警察官に挨拶をしてからそのまま歩き出した。
こういう時に判明するのもアレだけど。
鈍感なお兄を支えないといけないな。
「...お兄」
「...うん?」
「昨日の言葉だけど」
「...ああ」
「好きって何だろうなって言葉」
「...ああ。それが?」
「...お兄は...華さんが好きなの?」
言い辛かった。
だけどようやっと言えた。
それからゆっくりと足を止めるお兄。
そして私を驚きの眼差しで見てくるが直ぐに唇を噛んだ。
そうしてから「多分な」と返事をするお兄。
「...アクアユニゾンスクエアを考えた時からアイツが真っ先に浮かんだ」
「...そっか」
「アイツにキスもされた。それも最初にな」
「...そっか。うん。それは良い事」
その最初のキスの時点で落とされていたんだなお兄は。
そう考えながら私は涙が出るのを堪える。
そして顔を上げた。
泣き顔を向けたくはない。
「...お兄。...華さんに告白はしないの」
「それをすると不協和音が流れると思う。バンドの中に。それに...まだ問題が解決してない。...アイツが捕まってない」
「...米田健?」
「そう。だからまだ落ち着けないから」
「そうだね。確かにね」
「...だから俺は告白なんてしない」
そう言いながら前を見たまま歩くお兄。
私はその姿を追う様にしながら柔和になる。
それからお兄の背中を突き飛ばした。
お兄は「オイオイ」と言う。
私は「お兄。告白してあげて」と言った。
「...は?な、何でだよ」
「女の子を待たせる気?...お兄にとってはそんなもんだろうけど華さんにとってはそんなもんじゃない」
「...デートした後に行ってくる」
「お兄。駄目。今から行きなさい」
私は背中を押す。
それからお兄は私を見てくる。
私はその顔を見ながら泣きそうな顔になる。
だけどここが正念場だ。
「お兄にとっては大切な人なんでしょ」
「...確かにそうだけど」
「じゃあ...お兄。今日はデートじゃないね。告白日和だ」
「...分かった。お前がそこまで言うなら行ってくる」
そしてお兄は脱兎の如く「すまん」と一言、言って走り出す。
私はその姿を見送ってから号泣した。
お兄が欲しかった。
だけどお兄を見送りたいから泣かない。
そう決めた筈だったのだが涙が止まらない。
「...お兄。必ず」
そう言いながら私は空を見上げる。
失恋とはこんなに苦いものだったのだな。
ビターな感じが口の中に広がる。
だけどしょうがない。
これはお兄の意思を尊重したいから。
そう思って歩いていると「どうしたの?」と声がした。
顔を上げると小春さんがネギを持って立っていた。
特売品の様である。
私を心配して見てくる小春さんに噴き出す。
それから「何でネギなんですか」とツッコミを入れた。
「今日はネギが安いんだよ?アハハ」
「...そうなんですね。でも丁度良かった。その...」
「もしかして徹くんの事かな」
「...え?」
「...徹くん。華さんが好きなんだよね」
「...え?何でそれを...」
「徹くんの眼を見ていれば分かるよ」
と言いながら「お付き合い長いしね」とネギを選ぶ小春さん。
それから顔を上げてニコッとした。
私は唇を噛んでから「そうなんですね」と答える。
涙の跡を拭う。
「もしかして泣いているの?」
「...はい。真実を知ってしまって」
「アハハ。じゃあ同士だね。...あ。良かったらうち来ない?今日はパーティーをしよう」
「え?何の?」
「失恋パーティー」
「ぇえ...虚しくないですかそれって」
「良いの。かっ飛ばせばね」
良く分からないなぁ。
だけど小春さんが言うならきっとその通りだろう。
思いながら私は苦笑する。
それから見ながら「私も具材選んで良いですか?」と笑顔になった。
「良いよぉ。あったりまえだよ」
「じゃあ失礼して。何を作るんですか?」
「それは考えてないよ」
「それって...」
そんな会話をしながら私は祈る。
お兄が上手くいく様に。
そう考えながら外を見た。
それから笑みを浮かべながら目を閉じた。
☆佐藤徹(さとうとおる)サイド☆
昨日の歌で俺は自覚した。
何をしたかといえば渦宮華が好きだという事を。
だから俺は走っていた。
そして華の家に着く。
インターフォンを押した。
「うん?おにーさん?」
「華は居る?」
「え?お姉ちゃんですか?お姉ちゃん居ますけど...」
「じゃあ呼んで貰って良い?」
「はーい」と返事をしながら花ちゃんは華を呼びに行く。
それから玄関の奥から華がやって来る。
「え!?今日、梓さんとデートの日じゃ!?」と慌てる華。
俺はその華に赤面する。
そして口ごもる。
「どうしたの?徹」
「...華。落ち着いて聞いてくれ」
「うん。落ち着いているけど」
「...俺はお前が...好きだ」
「...ふぁ?」
持っていた調理道具を全部落とした華。
砂糖?らしき粉が転がる。
それから口を両手で押さえる。
それから「ふぁ?」とまた言った。
俺は「渦宮華さん。俺は...貴方が好きです」と手を差し出す。
「付き合って下さい」
「...ま、って。それは本当に?いきなり?どっきり?」
「嘘で言うかよ。ドッキリでもない。...本当だ」
「...でもうち...貧乏だし」
「俺が守る」
「で、でも...その。あわわわわ」
華は目を回す。
そんな華を抱き寄せた。
それから俺はキスをする。
玄関先だったけど。
「ふぁ!」
「...これで証明できたか?」
「は、はい...」
真っ赤になってグルグル目を回してからクラクラな感じで蹲る華。
俺は「お、おい」と聞く。
すると華は涙を流して「夢みたい」と呟いた。
それから涙声になる。
「...相当に。めちゃ、嬉しい」
「...じゃあ付き合うって事で良いか?」
「...当たり前じゃん。...滅茶苦茶嬉しい。付き合うよ。徹。宜しくね」
そうしているといきなり華の背後から(パーン!!!!!)と音がした。
大きなクラッカーの音だ。
華の親父さんと花ちゃんが「よかおめ」と言いながら立っている。
そんな華の親父さんは「よし。これで無念なく死ねるな!あーはっはっは!」と言っていた。
良くないと思うんだが。
「お父さん...花。いい加減にして」
「だってこの時を相当待っていたから。800円出して買ったクラッカーが無駄になるかと思った」
「もう!お金使わないの。全く」
「良いじゃん。...おめでとう。お姉ちゃん」
「...有難う。...花。そしてお父さん」
砂糖の入った瓶を拾いながら俺を見る華。
それから「ねえ。キスして良い?」と言ってくる。
コイツはアホか。
1回だけに決まっているだろう。
思っていたらそのまま唇を塞がれた。
「有難う。私を選んでくれて」
そう言いながら華は笑顔になる。
そして柔和な顔になった。
俺はその姿を見ながら華を抱き締めた。
そしてこの日。
俺は華と付き合う事になった。
アイツにも。
成宮にも報告したいものだなと思う。
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