第43話 歌
☆渦宮華(うずみやはな)サイド☆
事柄も事象も。
一気に変動をしている。
私はそう思いながらお母さんに会いに来た。
お母さんは言葉はまだ言えない。
だけど記憶を徐々に取り戻しているらしく。
(御免なさいね。...貴方に迷惑を掛けて)
「私は別に平気だよ。お母さん。貴方が生きているから」
(そう...だけど謝っておくわ。...私の代わりに動いている様なものだから)
「...」
私はお母さんを見る。
お母さんは私を抱き締める。
それから涙を浮かべた。
(有難う。私を信じてくれて)と書いた紙を見せてきた。
「当たり前だよ。また危険が去ったら。...昔みたいに暮らそう」
(私が今度はあの人を支えるわ。彼は...うん)
「...そうだね。一家でまた暮らそう」
(ありがとうね。華。本当に貴方は良い娘に育ったわね)
「私は穴埋めをしていただけだよ。お母さんのね」
(そうかしら。貴方が結婚してくれればもっと安心なんだけどね)
「お母さん!?」
お母さんはクスクスと笑いながら(貴方は好きな人が居るらしいわね)と書いた。
赤面が止まらない。
そして汗が噴き出て目が回る。
誰から聞いたのか。
するとお母さんは(花が言っていたわ。貴方には好きな人が居て。一生を共にできる様な彼が居るって)と書いてきた。
「...いや。一生って」
(...華。...一生はね。本当にあっという間よ。...貴方がしたい事をしなさい。全てにおいてね)
「...お母さん...」
(私は貴方という娘を産んで。そして花を産んで正解でした。間違いなくね)
「...そうだね。...アイツもそう感じられて欲しいけど」
(彼女ね。...確か成宮さんだっけ)
私は頷きながら鉄格子の窓から外を見る。
それからお母さんを見る。
お母さんは(彼女は本当に苦悩しているのね)と書いてきた。
私は「でも最近は彼女も変わった。昔を反省して今を生きているから」とお母さんを見る。
お母さんは(そうなのね)と笑みを浮かべた。
(彼女の眼は死んでないわ。写真を見たけど)
「...お母さん?」
(...実はね。...お母さんの親戚のピアノ教師の男性が学生時代に成宮弘子さんと付き合っていたわ。それと成宮さんの叔母様と知り合いなの。その時に彼女の妹さんを見たけど心がすさんでいる感じはした。だけど彼女は生きようと精一杯あらがっていた。彼女には...幸せになってほしいわ)
「...そんな事が?」
(当時は弘子さんは無名だったわ。だけど才能があるって思った。だから活かして行けるだろうって。彼女は何をしているのか分からないけど)
「...家族に捕まっているよ」
(束縛、ね。やると思うわ。あの鬼畜母なら)
「...有りえないよね)
(そうね。だけどそれは全て予想通りね。取り敢えずは...彼女達が逃げている事を願うばかりね)と書いた。
私は「そうだね」と言いながら居ると電話が掛かってきた。
それは成宮だった。
うん?
「ゴメン。お母さん。成宮だ」
(え?ああ。行ってらっしゃい)
そして私は表に出る。
それから「もしもし」と電話する。
すると成宮は『渦宮華。アンタのお陰で私は力が持てたわ』と言ってくる。
何の事か分からなかった。
そうしていると成宮は『私は親と決別した。...私は姉と一緒に亡命するんだけど。アンタが米田健の事で色々言わなかったらこんな力は出なかったわ』と言ってくる。
『真っ先に知らせるのはアンタが良いかと思って』とも言う。
私は驚愕しながら柱に寄り添う。
「それって本当に?」
『そうね。姉と一緒に叔母さんの所でお世話になるわ。第二の人生を歩むことにする予定』
「...そっか。アンタ頑張ったじゃない」
『アンタの母親。...創子さんに宜しく伝えて。それから...米田健は逃亡しているから脅威はまだ去って無い。だから気を付けて』
「...うん」
『下手すると殺されると思うから』
「そうだね。警察も居るから絶対に大丈夫と思うけど」
『警察だけじゃない。周りの力は最大に使って。...某国みたいな暗殺は無いと思うけど絶対に危ない』
「うん」と返事しながら私は真剣な顔で話を聞く。
そして成宮は『私も協力したいけど忙しいから。創子さんだけには殺されてほしくないし。陰ながら頑張るから』と言ってくる。
私は「有難う。アンタ随分変わったね。成宮」と言う。
すると成宮は『全て徹のお陰。アンタ達のお陰。...私が生きようって思ったのも。...だから貴方達を殺させはしない』と言う。
「...成宮。私は私達で大丈夫だと思う。アンタはまずアンタの事を優先して」
『そうね。...だけど本当に気を付けて。じゃあ』
そして成宮は電話を切る。
私はそれを確認してから警察官に挨拶してから部屋に戻る。
それからお母さんを再び見た。
お母さんはずっと外を見ており私が戻って来てからこちら側を見て笑顔を見せた。
私はその顔をジッと見ていると(成宮さんは...何て?)と書いてきた。
「うん。...お母さんに宜しくだって」
(そう。...やっぱり良い子ね。色々とやらかしたとは聞いたけど。彼女は彼女なりに奮闘していると思うしね)
「...随分と成宮に興味があるんだね。お母さん」
(あら?嫉妬かしら?大丈夫よ。私が興味があるっていうのは...彼女の人生よ)
「...そうなんだね」
(そう。彼女の人生は半端じゃ無いけど歪ね。だからこそこれからの人生に幸あれと願っているわ)
(まあもう私は彼女とは会わないでしょうけど。私は彼女の事を陰ながら応援しているわ)と書いてくる。
私は「だね」と返事をしながら時計を見る。
そして「帰宅時間だね」と言った。
お母さんは(じゃあまた今度ね)と書いてきた。
「そうだね。お母さん。気を付けて」
(私は大丈夫よ。きっと。だけど...貴方達は分からないわ。...まだ気を抜いちゃ駄目よ)
「いつになったら終わるんだろうね」
(そうね。早めに決着がついてほしいと思うわ。じゃないとここから出れないわ。多分ね)
「...うん。じゃあね」
そして私は帰る事にした。
荷物を纏めてギターケースを持ってからそのまま警察官に挨拶してから病院を後にしてから見上げた。
正直...まだ安心はできないけどお母さんが此処に居る。
それだけで安心だな。
「...帰ってから晩御飯は何を作ろう」
そんな事を言いながら私は心を弾ませながら歩いていると徹が居た。
彼は「よお。華じゃないか」と笑みを浮かべる。
コンビニから出て来ていた。
「徹。元気?」
「ああ。元気。冷たいコーヒーを買いに来てな。...ちょっと一服だ」
「アハハ。いやいや。若者のする事じゃ無いよ」
「煩いなお前は」
そして文句を言う徹と一緒に私達は同じ方向に歩き出す。
その際に公園を見掛けた。
すると徹が「なあ」と言葉を発した。
私は「うん?」と反応する。
「公園で歌を歌ってくれるか」
「...え!?いきなりだね!?」
「いや。突然お前の歌を聴きたくなってな。...すまないけど」
「べ、別に良いけど...喉の調子が」
「...そうか?じゃあ止めるか」
「い、良いよ!いいよ!大丈夫!」
私は何だか嬉しくなりギターを直ぐに取り出す。
それから公園に入ってから「こほん」と言ってから「何を歌う?」と徹に聞く。
すると徹は「うん。お前のオリジナルソング」と言ってきた。
それはブラックリストに入っているのだが。
「もー。徹。揶揄っているの?駄目」
「...そうか?俺はいい歌だと思うけどな。(御心のままにらぶゆー)って」
「もー!」
「ははは。冗談だ。じゃあカバーソングを...」
「良いよ」
徹は驚きながら私を見る。
全く今日だけだから。
御心のままにらぶゆーは中学生の時に創った曲だ。
だから恥ずかしい。
「おう。じゃあ聴きたい」
「そっか。じゃあ歌うね」
それから私は息を吸い込んで吐いた。
そして目の前を見る。
ベンチに座っている徹に向かって私は歌う。
徹は目を閉じて聴きながら身体をゆすってくれていた。
実の所この歌。
徹を好き好き大好きな想いで創った。
それは本人は知らないだろうけどでもクッソ恥ずかしい。
だけどまあ。
もうやけくそだこうなったらだ。
思いながら私は楽しく歌い始めた。
何だかノリノリになってきた気がする。
アハハ。
やっぱり徹と一緒が楽しいなって思えた。
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