反撃の一矢
第38話 救いに必要なのは「歌」だ
☆成宮祥子(なりみやしょうこ)サイド☆
私はありのままを姉に伝えた。
姉はかなりショックを受けており...「そんな事を」と言いながら腹を立てていた。
その姿を見ながら私は目線をずらす。
そしてお姉ちゃんは「いったん帰る」と帰って行った。
私はその中で部屋で家事をする。
何をしに行ったのだろうか姉は...。
そんな事を考えながら。
それから私は家事をしているとインターフォンが鳴った。
私はビクッとなりながら警戒しつつドアに話し掛ける。
「はい」
と。
すると「成宮」と声がした。
その声の主は...徹だった。
私は驚きながらドアを開ける。
苦笑しながら徹が居た。
「生徒手帳を落としていたから」
「...あ。ありがとう。徹」
「...それにしてもこんな場所で暮らしているんだな」
「実家から追い出されてね。実際もうどうでも良いけど」
「...そうか。警察署には行ったのか」
「色々と煩いから行って来たけど」と答える。
それから徹は「そうか」と返事をして「入っても良いか」と聞いてくる。
私は「まあ」と言いながら案内する。
座布団に徹は腰掛けながら笑みを浮かべる。
「生徒手帳を届けに来たの」
「それ以外にも用事があってな。...お前の様子見」
「そんな事をしなくても私は何もしない」
「...いや。そういうのを警戒しているじゃない。お前自身だ」
「は?私自身って?」
「お前は常に人の為に死ぬ事ばかり考えているだろ。だから不安になってな」
そう言いながら徹は私を見る。
見据えてくる。
私はその姿を見ながらクスッと笑う。
それから「そういうつもりはない」と言う。
「...そういうつもりがあるから俺は言っているんだけどな」
「...私が死ぬ事は何も悪い事じゃない。...私は反省して贖罪をしなくてはならない」
「...それで死ぬのはアリってか?それは無いな。ナッシングだ」
「逆に聞くけど死ぬ以外に何か反省する手立てはあるの」
「ある。お前が生きる事が反省だ」
私は「?」と浮かべながら食器を置く。
それから「意味分からないんだけど」と言う。
すると徹は「お前が生きる事が贖罪なんだよ。最大のな」と言ってくる。
私は考え込み。
そして見開いた。
「馬鹿じゃないの?私は必要とされてないから...」
「お前本当にそう思っているのか。...ならお前に命じて良いか」
「何を?」
「お前俺達のバンドメンバーの仲間になれ」
私は愕然とした。
それから徹を見る。
うっかり皿を割ってしまった。
だけどそんな事より。
何を言っているんだ徹は。
「...アンタ馬鹿?...私が批判されるの知ってる?」
「...俺は批判も承知だ。...だけどな。お前は変わった。明らかに昔より遥かにマシだ。...お前の戦力が要る」
「いやいや。意味が分からない。...私はバンドを破壊しようとした。そんな人間が...」
「お前が必要だ。...その事を梓、小春、華達に確認している」
「...」
私は落ちた皿を拾いながら「断る」と言った。
それから徹を見る。
徹は「何故」と聞いてくる。
「私が必要とされているのは分かった。だけど私は貴方達に接近できない。何故なら私は悪人だから」と言う。
すると徹は「じゃあ何でお前は救ったんだ。千尋を。それは最大の贖罪じゃ無いのか」と聞いてくる。
「それは気まぐれだから」
「それは無いって言っている。千尋は命がけで救ってくれたって言っている」
「...はぁ...無理だって。徹。アンタを裏切ったのもあるんだよ?私」
「それは確かにその通りだが。...だけどお前は今、命を懸けて償っている。それは認めざるを得ない」
「...」
私は落ちた皿を全部拾ってから「本当に私が必要なら条件がある」と言う。
すると徹は食いつく様に「なんだ」と聞いてくる。
私は「今はアンタ達のバンドには入れない。何故なら私は米田達を倒さなくちゃいけない」と言う。
徹は「...それは俺達も倒すから。協力する」と言う。
「だけどフェーズがもう上がっている。危機的状況だから協力は駄目」
「...」
「私一人で決着をつける」
「なら俺達は陰ながらサポートする」
「あのねぇ!!!!!めちゃくちゃに危険だって言っているでしょ!!!!!徹!!!!!」
怒号を飛ばす私。
すると徹も怒号を飛ばした。
「お前な!!!!!いい加減にしろ!!!!!」
という感じでだ。
徹がそんなに切れるのを初めて見た。
私はタジタジになる。
「お前が良い加減にしろ!!!!!お前が死んだら困るって言ってんだよ!!!!!」
「何でそんな...」
「俺はお前が仲間として大切だ。だから言ってんだよアホめが」
「...徹...」
「一人で何でもしょい込むな。いい加減にしろ」
そう言いながら徹は私を抱き締めた。
それからデコピンする。
私はその事に。
何故か自然と涙が頬を伝った。
「あれ?何で泣いているの私」
「お前が無理をしているから身体が悲鳴をあげているんだろ」
「...そんな馬鹿な事ってある」
「お前は人一番...泣く必要性がある。...良いか。お前だけじゃ無理だ。アイツを。米田達を倒すのは」
「...」
「俺達に頼れ。仲間だから」
私は涙が止まらなくなる。
それから嗚咽が漏れた。
その中で徹は私から離れる。
そして「多少うるさくても問題無いか。この部屋は」と聞いてくる。
私は「両隣は空き室だからね。古いアパートだし。何で」と聞く。
すると徹は持っていたギターケースからギターを取り出した。
「歌う」
「...な、何を?」
「カーペ〇ターズだ。トップオブ〇ワールド」
「...何でいきなり歌うの。意味が分からない」
「お前は何も知らない。歌ってのは...人を救うんだ。そして小春も華もこれで救われたんだ」
「それで私を救うっての?無理だっての」
お前は何も知らないから大丈夫だ。
そう言いながら徹はギターを弾いた。
それから「こんな気持ちが私に訪れるなんて~」と歌い始める。
私は大幅に困惑しながら仕方が無くその歌を聴く。
そして目を閉じて座布団に座って聴いた。
「...?」
その中で私は涙が止まらなくなっていた。
というか自然に涙が出ており。
想定してないぐらい泣いていた。
泣いている事に気が付いてなかった。
なにこれ!?
私はハッとしながら手元を見る。
そこには既に涙の痕が数十個。
幾つもあった。
徹は透き通る様な歌声でずっと歌を歌う。
私はその間。
ずっと涙が止まらなかった。
そして思う。
そうか。
私は...この気持ちの理解者が欲しかったんだ。
その様に、だ。
だからまあ...クソみたいに抵抗していたんだな。
私...そっか。
何でこんな単純な事にも気が付かなかったのか。
「...?!」
目の前の徹の手が止まる。
そして私を見ていた。
唖然としている。
何だろうと思っていると。
自然に私が歌っている事に気が付いた。
「...何だお前。歌えるのか。歌声が素晴らしいな」
「...煩い。...まあ8年ぶりだよ。歌ったの」
「...そうか」
「おかしい?」
「何も。...歌おう」
そして私達はそのまま外に響くのも忘れながら歌に染まる。
正直...こんな楽しいのは10年ぶりの感覚だった。
そうか。
だから私は徹が好きだったんだなと。
そう思えた気がした。
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