第36話 渦宮創子(うずみやそうこ)
☆渦宮華(うずみやはな)サイド☆
私は複雑な思いを抱いていた。
決して成宮が反省しているのが悪いとは思って無い。
だけど何だか複雑だった。
何よりも手を組むという事が複雑だった。
信頼に足る人物なのだろうか成宮は。
そう考えながら帰って来る。
それから玄関ドアを開けて中に入るとお父さんがやって来た。
「お帰り。華」と言いながら。
私はその顔を見ながら「ただいま。お父さん」と告げる。
するとお父さんは何だか深刻そうな顔をした。
「実は朝から調子が悪くてね」
「え?それって病院に...」
「だけどただ単に咳が止まらないだけだ。問題は...」
「駄目だよ。お父さん。病院に行かないと」
お父さんは「...そうだね。華が言うなら病院に行こうかな」と決断してくれた。
それから私達は病院に向かう。
そこで...医師から残酷な運命を言われた。
それは余命宣告だった。
「...そうですか。私の命はあとどれくらい持ちますか」
「...三か月持つかどうかですね。ガンがあちこちに転移しておりますから治療は難しいでしょう。何故ここまで放置していたのですか?」
「...さ、三か月って...」
「...今できる事とは治療では無いです。家に帰りどれだけあと余生を過ごせるかですね。...これから一緒に考えていきましょう。恐らく治療とはいえ終末期医療になるかと思います」
そう医者は言いながらお父さんを触診する。
私は涙が浮かんだ。
それから涙を流した。
するとお父さんが私の頭を撫でる。
「...花には...言わないでおこう」
「でもお父さん!言わないと...花が...」
「それで言ってどうなる。彼女には残酷すぎる。...あくまで俺は元気だという事にしておこう」
「...お父さん...こんなの...って」
涙が止まらない。
お母さんもお父さんも失ったら私達はどうすれば良いの。
そんな事を思いながら涙が止まらなくなる。
大切な人達がどんどん死んでいく。
「...華。絶望ばかり考えるな。...今の事だけを考えよう」
「...うん」
「私達、医療関係者も可能な限りは治療致します。でも少しだけでもこの先の道は厳しいと思って下さい。...でも決してそうであっても望みは捨てないで下さい」
そう言いながら医者は私達を見る。
頷きながらだ。
私はその言葉を受けながら「はい」と返事をした。
それから診察室のドアを開けて表に出る。
そして椅子に腰掛けた。
「はっはっは!まさか余命三か月なんてな!最悪だわ」
「...」
「何だ。華。暗くなって。大丈夫だって。俺はそんな限界点も超えるよ」
「...お父さんのばか。そんなに明るくなれない」
「...華...」
お父さんは私の頭をがしがし撫でた。
それから髪の毛を滅茶苦茶にする。
何をするのだ。
思いながら居るとお父さんは満面の笑顔になった。
それから「お前は明るく生きろよ。彼を捕まえろ」と言ってくる。
「ちょっと。今はそんなこと考えられない」
「...華。人生は明るくいかないと駄目だ。死ぬときゃ死ぬけど俺は絶対に死なない」
「...そんなの分からない。お父さんが明日死ぬかもしれない」
「コラ。華」
するといきなりお父さんから頭突きをされた。
私は痛みに額を触っているとお父さんが私の手を握ってきた。
それから「お前が深刻な状況ってのは知ってる。だけど暗くなっちゃ駄目だ。全てにおいてな。明るくいこうぜ」とニヤッとして変顔をするお父さん。
私はその顔を見てから噴き出す。
「もう...」
「そういや俺と母さんが出会った時の事。話したっけか。お前に」
「...知らない。初耳」
「俺達はな。山登りで山岳部で知り合ったんだ。それで結婚した」
「...そうなんだ。山登りをしなくなったのは...」
「母さんを失ったから、だな。俺だって悲しいよ。...愛している妻が死んだと思うし」とお父さんは深刻だが笑う。
私はその顔を見ながら「お母さんのどこに惚れたの」と聞いてみる。
するとお父さんは「当然。性格だ」と答えた。
当然と言われたので顔かと思った。
「...人間は内面だ。内面を好きにならない奴は全部ゴミだ」
「...お父さん。それは極論だよ...」
「いや。本当だって。内面じゃなくて面食いは全員悪人だわ。今までの俺の経験上だけどな」
「...」
私はその言葉を受けながら考える。
成宮もそうだが徹も。
そういえば徹は顔が特段格好良い訳じゃない。
別にこれは批判しているとかじゃないけど。
だけど私は中身に惚れた。
「...そっか。全部お父さんのお陰だったんだね」
「あ?何が?」
「何でもない。お父さん。私、なんか貴方に似ているよ」
そう言いながら私は苦笑いを浮かべる。
訳が分からないという感じのお父さんは「そうか」と返事をした。
それから会話をしていると目の前を医療着を着た女性と看護師さんが通り過ぎた。
そして次の瞬間。
私はぎょっとした。
何故か。
それは痩せていたが私達の母親にそっくりだったから。
私は慌てて立ち上がってから駆け寄る。
「あの!」と言いながら。
すると女性と看護師が「?」を浮かべて私達を見てくる。
「はい?」
「...あ。いや。すいません」
「...」
女性は顔にかなりの傷跡があり。
やせ細っており。
顔は悲しげな顔をしていた。
やはり...違うか。
母親かと思ったのだが。
だけど私を見てから目をパチクリして横の看護師に話し掛け始めた女性。
いや。
筆談している。
「おいおい。華。いきなり声を掛けるとかどうしたんだ...え」
お父さんが固まる。
見て無かった様だった。
だけどその女性を見てから「お前...。創子か...?」と絶句する。
その言葉に「え?創子さん。お知り合い?」と看護師がお母さんらしき人を見つめる。
「...あ...う...」
女性は何も言えない感じだった。
どうも失語症の様な感じになっている。
すると書いたものを看護師に見せた女性。
それを見てから驚愕した看護師。
それから直ぐに「ちょっと待ってて!」と駆け出して行った。
何だろう。
「...創子。お前...生きていたのか?」
絶句するお父さん。
やはり見間違いじゃない様だ。
この人は...母親?
何故今も病院に...と思いながら私はお母さんを見る。
するとか細い腕で私の頬に手を添えたお母さん。
「...」
静かにお母さんは涙を浮かべた。
カラカラに乾いている様な感じの頬に涙が伝う。
何が言いたいか分からないがそれを書いた。
それから見せてくる。
(もしかして貴方...華なの)
と。
私は涙が大量に溢れる。
それから号泣した。
逢いたかった母親が目の前に居た。
何故。
こんな偶然があるのか分からないけど。
そう思っていると看護師が数名と。
医者がやって来た。
慌てている感じの医者は眼鏡を落としてかけなおす。
それから私達を見てくる。
「...すいません。創子さんのご家族様で間違いないですかね?」
「...恐らくは」
「...そうですか。彼女は実は保護されて精神科に入院しております。この病院に転院されたのも先だって。ずっとリハビリの為に通院を重ねているんです。記憶喪失で警察などが介入する中で...支援を行っていました」
「...」
私は崩れ落ちた。
それから号泣した。
お父さんも涙を浮かべていた。
そしてお母さんをハグをしながら「馬鹿野郎が!死んだと思っていたんだぞ!!!!!ずっとずっと待っていたんだぞ」と言う。
医者が「行方不明者届とかは...」と看護師達に聞く中だがあまりの嬉しさで涙が止まらなかった。
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