第35話 世界が色付く時

その日を境に私は転校する事になった。

それから転校した先は...徹の居るクラスだった。

前の学校は書類を一応書いてくれたが後は投げやりな反応だった。

もう二度とあの学校には戻らない。


「...驚愕だな。お前が転校して来るとは」

「...そうね。私も貴方のクラスに転校するって思わなかった」

「...」


山吹も徹も歓迎してくれたが。

渦宮だっけ。

アイツだけは歓迎してない様な顔をしていた。

それはそうだろうな。

私がこれまでやった事の...事を考えれば。


「...なあ」

「...何」

「...一昨日の話だが。お前は...阿部と会ったのか」

「...さあ。何の話かな」

「すっとぼけるな。...お前に救われたって言っている」


私は余計な真似をと思いながら考える。

すると徹は「随分と変わったもんだな。お前も」と言ってくる。

私は「知らない事で変わったもクソも無いと思うんだけど」と言う。

そうしていると徹は「そういう態度ももう改めたらどうだ。...そしてお前の自己犠牲。それももう大概やめろ」と言ってくる。


「...自己犠牲?これは自己犠牲じゃない。私が罪を償っているだけに思えるから」

「それは全て自己犠牲だ。お前はしょい込みすぎだ」

「...私は気にしないから」

「お前が気にしなくても俺が気になる」

「...はぁ...徹。そんなに過剰に心配しなくて良いって。私は...」


そこまで言っているとドアが開いた。

それから阿部千尋だっけかアイツが入って来る。

私は顔を背けながら周囲に挨拶をする阿部の声を聞く。

すると足音が消えた。

私は前を見る。


「...成宮。...いや。成宮さん」

「何。何か用事」

「...私、レイプされそうになっていました。危険を顧みず救ってくれて有難う御座いました」

「私は何もしてない。全て貴方が警察に訴えたから成り立ったわけで。私はその場に居なかった」

「...そうやって逃げるんですか」


阿部の言葉にイラッとしながら私は「何が言いたいの」と聞いてみる。

すると阿部は言い辛そうな感じをしながらも顔を見上げた。

それから私を見据えてくる。


「貴方は昔聞いた時に比べて反省している。貴方は...良い人ですね」

「...は?...何を勘違いしているの。私は貴方を救った事は無い...」

「いえ。私は明確に貴方に救われました。警察が事件を未然に防いだと表彰したいと貴方を探しています。私は全て話しました。記憶力だけは良いんですから」

「...」


私は唖然としながら阿部を見る。

すると校内放送があった。

『あー。2年生の成宮祥子。職員室まで来なさい』とだ。

私は「?」を浮かべながら溜息を吐く。

何だってんだ。


「もしかしたら」

「もしかしたら何」

「...地元新聞かも」

「いやちょっと。何で地元新聞が来るの。訳が分からないんだけど」

「だから言いましたよね。貴方のやってくれた事を全て説明したって」


余計な真似をしたな。

思いながら私は周りを見る。

徹は笑みを浮かべて私を見ている。

私は不愉快な感じで立ち上がりながらそのまま職員室に向かう。



「初めまして。私は地元新聞の記者。...後藤と言います。今回の成宮さんの勇敢な行動に関して表彰の件で是非とも取材したく失礼します」

「...私はそこまでの事はしてない。...というかそれだったら佐藤徹も取材して」

「あ。この学校の佐藤徹君ですか?以前取材させていただきましたよ」

「はぁ...」


多くの教員共に囲まれて。

新聞記者に取材を受ける私。

徹も取材を受けていたのかと絶句してしまった。

そして新聞記者にあれこれ質問されるのをウザく思いながらも答える。


「有難う御座います。...では最後にご質問ですがいつ頃、表彰の為に警察署に赴く予定ですか?」

「私は表彰される様な事はしてない。当たり前の事を...ん?」

「...当たり前の事?」

「...」


何で私の口からこんな言葉が出て来るのだ。

そう考えながら私は考え込む。

すると「成宮」と声がした。

顔を横に向けると職員室に徹達が来た。


「...徹」

「...俺達、成宮祥子の友人です」

「その節はお世話になりましたね。佐藤さん」

「はい」


何を軽々しく話しているのだ。

思いながら私は真顔で反応していると徹は「成宮は元天才ピアニストです」と言葉を発しながらせつめ...おい!?


私は唖然としながら「と、徹!余計な事を!」と言うが徹はさらに続けた。

「地元新聞にもかなり載ったピアニストでした」と。

よ、余計な事を!

すると後藤と周りがヒソヒソと話し始めてからハッとする。


「そうか!成宮祥子さん!日本全国で天才的だったジュニアピアニストの!」

「ああ。それで印象に残っているんですよ!」

「コンテストを連続で優勝していましたね!」

「それで...」


ほらぁ。

後藤が目を輝かせる。

それから私に向いてくる。

そしてマイクを構えた。

やる気になっている様な感じだ。


「是非是非!その件も含め色々と教えて下さい!」

「い、いや。私は...と、徹!どうしたら良いんだ!」

「ハハハ。良い事をするって気持ち良いだろ?成宮」

「あのなぁ!?」


そうして困っていると今度は山吹が「成宮さんは今変わろうとしています。この前までは荒れていたんですけど変わりました」と話した。

オイ!?

すると佐藤梓が今度は「私からしても彼女は変わったと思います」と言葉を発した。

そして最後に渦宮と阿部が「そうです」「そうだね」と言葉を発する。

こ、こいつら勝手に!


「何でお前ら...ぐぅ!?」

「なあ成宮」

「...な、何」

「自己犠牲で悲しむ人も居る。だから今こそ考えを変えろ。こういうのも気持ちいいだろ?」

「...徹...」


私は困惑しながら横を見る。

全員の視線を感じながら私は盛大に溜息を吐いた。

あの頃を思い出す。

ピアノをやっていたあの頃を。

頻繁にインタビューをやっていた子供の時期を。


「...まあ悪くないかもな」


そういう答えが出た。

すると徹はニコッとしながら「よく言った」と話す。

そして後藤が私に向いてくる。

すいません。全然取材と違う話題なのですがもうピアノはもうなさらないんですか?と聞いてきた。


「ピアノはしない。...だけどこれから私は変わろうと思う。それだけ書いてくれれば何でもいい」

「...そうですか。インタビュー有難う御座いました。今日は突然失礼しました」


そして何とか変な時間は終わった。

それから職員室から帰っていると「ねえ」と声がした。

顔を上げると梓が居た。


「...何」

「...ピアノ教えて」

「...は?私が?何で」

「アンタはピアノ出来るんでしょ。じゃあ技術を教えなさい」

「無理に決まっている。数年以上ピアノから離れているのに」

「良いから」


何でそんな面倒臭い事を。

思いながら私は困惑しながら周りを見る。

残りの4人は私をジッと見ていた。

私は盛大に溜息を吐き捨てて「分かったよ」と返事をする。


「ただし私の技術に文句は言わないでくれる?」

「言わない」

「...あっそ。なら教えてあげる」


そして私はピアノを梓に教える事になった。

何でこんな面倒な。

今までの人生でなかったぞこんなの。

誰かの役に立てるって事がだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る