第25話 5億円

☆成宮祥子(なりみやしょうこ)サイド☆


私は強い。

何も恐れるものがない。

私には全ての奴らが膝を曲げる。

当たり前だが。


その中で思い通りにならずというかとにかく私がムカつく奴が2人居る。

そいつらは主に姉と。

佐藤徹だ。


特に佐藤徹はムカつく。

何故かといえば嫌味があったから浮気したら私より幸せになっている。

そんなムカつく事があるだろうか。

あの陰キャめ。


しかも何故私の思い通りにならない。

思いながら私はイライラしながら帰って来る。

自分の家。

というか豪邸。

実家だが。


私は見捨てられている。

姉と常にピアノの才能を比べられ絶望しかない。

因みに何故実家暮らしなのかというと私が姉の今の身分上、のたれ死んでもらっても困るとの事から。

私は精一杯やったのに何も愛されず。

ただ絶望だった。

居場所なんか無い。


「帰っていたの?」

「私がどこに居ようが勝手だよね?」


姉が私を見る。

それから苦笑いを浮かべる。

小馬鹿にしていると思う。

私は考えながら歯を食いしばる。

すると姉は「私は特に貴方を馬鹿にしてないから」と切り出した。


「今までずっと馬鹿にしているって思われていたみたいだけど」

「...どうだか。私はアンタが嫌い」

「祥子...」

「私はアンタが嫌い。何故ならずっと。ずーっとムカつくから」

「...」


私はそう言いながらキレる。

すると姉は悲しげな顔をしてから「そうね」という。

それから手袋を嵌めた手を動かした。

何故手袋を嵌めているのか。

それはピアニストの命の指を守る為だ。

叩かれる。

思いながら私は威嚇する。

すると姉は私の頬を手袋を脱がせて直に撫でた。


「!?」

「私は貴方を嫌ってない。あくまでそれは分かってほしい。私は仮にも貴方が可愛い妹だって言ってるよね」

「...どうだか。私はアンタを信頼してない」

「...」


悲しげな目をしながら姉は「そう」とだけ返事をする。

するといきなり私は髪を引っ張られた。

それは母親の瑞子だった。

後ろに引っ張られ転けてしまう。


「何しているの?負け犬」

「お母様!」

「大切な私の娘に近付かないで。負け犬」

「髪の毛を引っ張る事はないよ!駄目!」

「コイツは負け犬よ?髪の毛ぐらい引っ張って構わないわ。抜けるものじゃないわ。これぐらいじゃね」


私は見下されながら涙を浮かべる。

それから駆け出してから自室に篭る。

ゴミが溜まっている部屋に。

私は泣きながら引っ張られた痛みを堪える。

そして目に復讐の炎を宿す。

するといきなりドアがノックされた。


「祥子」


姉だった。

私はハッとしながら涙を拭ってからドアに向かって「何」という。

すると姉は「大丈夫」と聞いてきた。

私は「痛い」と答える。


「お母様はやり過ぎ」

「あんなものでしょ。赤の他人には」

「お腹を痛めて産んだって思えない」

「所詮は失敗人だから。もうどっか行ってよ」

「そういう訳にはいかない」

「は。何か言いたい事があるっての?偉そうに」


「ドアを開けていい?」と姉は問うてくる。

私は「駄目に決まってるでしょ。何の用事か言って」と言う。

何だ一体。

気持ちが悪いな。

馴れ馴れしい。


「私は貴方の事、嫌いじゃない。ずっと嫌いじゃない。だけど私は...家族を。一族の指示に従わないといけなかった。だから私はこうやってピアノを弾いているの」

「いや。見せつける様に弾いているから。私は信じない。絶対に嘘だ」

「貴方がどれだけ虐待されているか知ってる。だからお姉ちゃんはずっとお金を稼いでいたの。それもあってね」


するとドアが少しだけ開いた。

それから何冊もの預金通帳。

それから何枚もの書類が入れてこられた。

私はイライラしながら書類を見る。

そして預金通帳を見て驚愕する。

5億円あった。


「これは?」

「コンテストの優勝賞金。それからお小遣いを貯めた。バイト代も」

「これでどうするの?私を締め上げたいの?」

「違う。...家を出よう。祥子」


まさかの言葉にまた驚愕する。

それから「家を出たらアンタはどうするの」と聞く。

すると「まあ大人だし水商売でもするよ。キャバレーとかね」と笑顔で話す様に話す。

私は「でもこんな...バレたら大変な事に」と言うと姉は「貴方の命とお金が無くなるのとバレる事は全部桁が違う。私は妹を失うなら今逃げる」と言葉を発した。

涙が浮かんだ。


「何故そこまで。っていうかまさか今までのコンテスト連覇って...」

「キャリアの為じゃない。全ては貴方を自由にしたい為にやってた。ただそれだけ。まあ家族の言いなりだったけど」

「...」


ドアが開いた。

それから姉が顔を見せる。

笑みを浮かべながら私を抱きしめた。

何故そんな事に。

力があるなら私なんか見捨てれば良いのに。

思いながら私は涙を流した。


「遠くへ今は逃げよう。5億もあれば何とかなるよ。きっとね」

「捕まったら終わりだけど。良いの」

「私は構わない。貴方が大切だから」


今までずっとこの人は殴られたり蹴られたりもした。

私もそうだ。

殴られたり蹴られたりした。

だけどずっと私の事を考えていた。

信じられなかった。

だからピアノの順位を下げなかったのか。

思いながら私はお姉ちゃんに縋った。


涙が止まらなかった。

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