第23話 成宮の一族

☆佐藤梓(さとうあずさ)サイド☆


私は後悔してももう遅いだろう。

だけど相手も悪いと思うから五分五分だと思う。

だがそうは言っても私がやった事は事実だ。

今から私は反省していこうと思う。


考えながら私はピアノを借りに向かった。

その相手は...私の友人の今園透子(いまぞのとうこ)という人間だ。

クラスメイトである。

一応、私のクラスの委員である。

ツインのおさげ髪をしており丸眼鏡をしている。


「...珍しいね。...梓がピアノなんて」

「...そうだね。でも今まで言ってなかったけど私もコンテストに出たりしてたんだ」

「そうなの?...梓の意外な才能だね」

「今まで言ってなかったのは...意味が無いって思ったからね」

「意味がない?...それはつまり...」

「私が大きくこの才能を言ってどうするの?って思ったから」


そう。

私はあくまでこんなものを知られても嬉しくないって思った。

どうせちやほやされるだけ。

それも上辺の...上辺でだ。

私の苦労を知らない人達に評価だけでちやほやされるもの。

心から才能を見てくれる人が欲しかった。


結局それはお兄だけだったけど。

思いながら私はピアノの鍵盤を叩く。

そして私は思いっきり演奏した。

すると透子は愕然とした。

それは凄まじい演奏になった。


「待っ...て!?凄くない!?」

「これぐらいじゃコンテストには勝てないよ。だけど有難う。そう言ってくれて。本当に嬉しいよ」

「凄い。本当に凄いよ!これだけ弾けるなんて!私...感激した!」

「有難う。演奏した甲斐があった」

「事故に遭わなかったらピアノは続けれたんだよね?悲惨だね」

「だけど私が事故に遭わなかったらお兄に出逢えなかった。だから後悔は無い。寧ろ退いた事で色々と学べたしね」


そう言いながら私はピアノの鍵盤をまた一回叩く。

それから苦笑した。

すると透子は「でもまた演奏するんでしょ?大好きなお兄ちゃんと」と茶化す様に言ってくる。

私は「ショパン国際ピアノコンクールとかを目指しても出れないならまた別で有名になるって決めたの。だからこそ私は音楽で有名になる」と話した。


「貴方は凄いね。梓」

「私は凄いんじゃないよ。あくまで凄いんじゃなくてただ目標を変えただけ。ただそれだけ。私は凄く無い」

「でも梓。私は貴方に憧れる。本当に凄いと思うし。だからピアノを頑張ろう。お互いに」

「有難う。たまに借りに来るね。透子」

「私は借りに来てくれるのは凄く嬉しいよ。だからいつでも借りに来てね。私の家のオンボロピアノで良かったら」


そう透子は言いながら私に笑顔を見せる。

私はその姿に柔和に笑みを浮かべた。

透子は優しい。

ピアノを気軽に貸してくれて。

私が...独りぼっちだった時も手を伸ばしてくれた。

そんな透子が好きだ。


「でもピアノって良いよね。昔は娯楽だっただけはあるよ。流石」

「そうだね。確かにそれは思う」

「私もピアノコンテストの上位を目指していた。だけど私は才能が無かったから」

「そんな事ないよ。違う」

「いや。間違いなく才能はなかったと思う。仮にも上の方。つまり成宮さんに勝てなかったから」


数秒間考えてから「え?」と言葉を発した。

今なんて言った。

成宮!?

私は固まりながら「待って。どういう事」と聞いてみる。

すると「あれ。言ってなかったかな。成宮弘子(なりみやひろこ)さんだよ。コンテストを次々に走破したピアニストだね」と言葉を発した。

待って。

確か弘子さんは姓が成宮ではない。

どういう事だ。


「...今は成宮さんっていうの?昔は違った。確か重見弘子さんだったよ。公には」

「重見弘子...あ。確かにね。そう呼ばれた時があったね。それ仮名だったらしいよ。未成年だからってね。本名は成宮弘子さんだよ」

「...」


私がコンテストから離れてから状況が明らかに変動している。

重見さんは成宮性だったのか。

だとするならまさか。

あの成宮祥子と何かしら関連性があるのか?


「ねえ。透子。成宮祥子ってやつ知ってる?」

「成宮祥子って成宮弘子さんの確か妹だよ。何というか家が相当厳しいって話で...一族がみんな楽器のとてつもない有名な演奏者なの。さっき言ったショパン国際ピアノコンクール優勝者も居る。知らなかった?」

「...そんな事があるのか...」

「え、えっと...確かお兄さんが嵌められた人も成宮祥子だけど同姓同名の別人じゃないかな。いくらなんでも性格が違うと思う」


それはどうかな。

私は考えながら鍵盤に優しく触れた。

それから鍵盤にカバーを被せてから仕舞う。

そして私は透子を見る。

透子は「あ、帰る?」と聞いてくる。

私は「うん。ちょっとね。練習の為に帰る」と告げる。


「今日は有難うね。透子。楽しかったよ」

「うん。...あ。ねえ。梓」

「何?透子」

「...いや。何でもないや。ゴメンね」


怪訝な顔をしていたが止めつつ私を笑顔で見てくる透子。

私はその顔を見ながら複雑に思いながら首を振ってから笑みを浮かべる。

それからお土産と貰ったお菓子を見せながら「有難う」とニコッとする。

透子は「うん」と頷きながら手を振ってくれた。


一瞬のその複雑な顔が気になったが。

私は玄関を閉じながら唇を噛む。

まさかこんな事になっているとは。

そう思いながら私は駆け出した。

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