第10話 渦宮華の一家
☆渦宮華(うずみやはな)サイド☆
私は彼の家から出てから帰宅をしていた。
そして自宅に帰りつく。
トタンで補修とかしている家に。
一言で言うなら私の家はとても貧乏だった。
私のギターも...中古で壊れていたゴミ同然のギターを貰って自らが調律、掃除したりして使える様にしたのである。
その代金を...病気の父親がなけなしで出してくれた。
「ただいま」
そう声を掛けると髪の毛を揺らしながら小学6年生の妹の花(はな)がやって来た。
それから私を見ながら「お姉ちゃん。お帰り」と言ってくる。
私はその花に「ただいま」と笑みを浮かべる。
すると奥からお父さんがやって来た。
「ああ。お帰り」
「お父さん...寝てないと」
「何を言っている。俺の大切な娘が帰って来たんだ。...挨拶ぐらいしないとな」
「...お父さん...」
「...どうだった?彼の家は」
お父さんは私の事を知っている。
私の事を知っているというのはつまり恋をしている男性の事も知っている。
だけどお父さんは私を信頼してくれているので何も言わない。
ちょっと恥ずかしい事をしてしまったがこれは黙っていようかな。
「うん。何というかとても楽しかった」
「そうか。...娘に好きな人ができるっていうのは何だか寂しい気もするけどね。だけど...お前が楽しめるのが一番だな」
「...何でお父さんはそんなに私の事を自由にしているの?」
「お前だからだ」
「...え?」
「...お前だから信頼している。それに青春は一度しか無いんだ。楽しんでやるのが一番だ。だから俺はお前のやる事に...まあ犯罪をやってもらったら困るけどそれ以外は止めないんだ」
普通の家だったら私のやる事を止めているだろう。
お父さんもお母さんも許さず。
家族も許さなかっただろう。
だけどお父さんは私が歌をやりたいって言ったら全然止めなかった。
だから私は家族が好きなんだと思う。
「...すまない。ちょっとしんどいからトイレに行ったら横になるから」
「うん」
お父さんは癌を患っている。
肺がんであるが。
その為、咳が止まらない部分もある。
医者曰く。
残念ながらステージ4だそうだ。
全身に癌が転移している。
抗がん剤治療も私は勧めた。
だけどお父さんは「それは無意味だ。そんな事より家族にお金を使いたい。そして家族と一緒に居たい」と言って聞かなかった。
一番の理由としては治療費が掛かる事が...嫌いだったそうだ。
「...お父さん。連れて行こうか」
「いいよ。花。有難うな」
「...」
私は家族を救いたい。
そう思いながら葛藤の中に居る。
葛藤っていうのは。
私はこのまま音楽を続けて良いのか。
という葛藤でもある。
私は思いながら拳を握り締める。
それから背後を見る。
ギターケースをだ。
するとお父さんがこっちを見た。
「ああそれと。...間違っても歌を辞めようとは思わない様に」
「...え?」
「...俺はお前の歌声が好きだ。...だからやり遂げるんだ。最後までな。...俺みたいな挫折の人生を。後悔のある人生をやるなよ」
「...」
涙が溢れた。
それから泣き始める。
「何で葛藤を知っているの?」と聞いてみる。
するとお父さんは「見てれば分かるよ」と答えた。
「俺を誰だと思っているんだ。お前らの親だぞ」とも。
「...決して辞めようって思うなよ」
「...でもこのままじゃお父さんが...」
「俺は良いんだ。...まあ最近思い始めたよ。お前の歌に励まされた。...治療をしてみようかってな」
「...お父さん...」
「お前の歌は世界を人を変える。だから辞めようって思うなよ。絶対にな。興味を持ったなら最後までやり遂げろ。犯罪じゃなかったら何でも良いんだ。やるのはな」
「...」
涙が止まらなかった。
それから私と花はお父さんを抱き締める。
お父さんは「苦しいって」と言いながら笑みを浮かべる。
だけどそんな感じには見えない。
「...後悔のある人生だけは送るなよ」
「...お父さんの言っている通りにします」
「そうだな。...花。お前も好きな事を見つけたなら一生懸命にやれ。良いか」
「うん。お父さん」
それからお父さんを支えてトイレまで連れて行く。
そして私は台所に立った。
夕食を作る為に。
それからエプロンを身に着ける。
「...そういえばお姉ちゃん」
「...何?花」
「お姉ちゃんもう直ぐ誕生日だよね」
「そうだね。確かにね」
「何かいるものある?」
「無いよ。私が要るものは食べ物だね」
「いやいや。そういうのじゃないよ。お姉ちゃん」
唖然としながら私を見てくる花。
私は考えながら「ないよ。欲しいものなんて」と答える。
本当に無い。
欲しいものなんて。
そう思って答えると花はとんでもない事を言った。
「じゃあお姉ちゃんの彼氏さんに聞こうかなぁ。お姉ちゃんの事」
「こら!何で彼が出てくるの!」
「だってつまらない。お姉ちゃんの答え」
「だからないって...欲しいものなんて」
「そうかなぁ?」
ニヤッとする花。
私は赤面しながら否定する。
「彼は関係無いから」と強く言った。
だが花は(・∀・)ニヤニヤしたまま私を見る。
これはマズイ。
花がやる気になっている...。
連絡先とか隠しておこうかな。
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