第11話 飛行機事故
☆山吹小春(やまぶきこはる)サイド☆
今日、CDショップに行ってから私は不愉快な気持ちでCDを聴いていた。
それは彼が悪い訳じゃ無い。
全てはあの女が悪い。
成宮祥子。
何故彼と付き合えたくせに彼女はあんな態度なのだろうか。
「やっぱり良いなぁ。カーペン○ーズ...」
私はそんな事を呟きながら洋楽を楽しんでいた。
まあでも私が好きなCDはこれではない。
私が最も好きなCD。
それは...彼が歌っていたのを記録した学園祭のカバー曲だ。
あくまで雑音の中で録音しただけの雑音だらけのCD。
だけど私にとっては宝物だ。
「...」
私はCDを入れ替えながら彼の歌を聴く。
やっぱり彼の歌声は爽やかでとても聞きやすい。
私は彼の歌声がやっぱり好きだ。
思いながら私は黄昏ながら笑みを浮かべる。
「佐藤君...何をしているのかな」
そんな事を呟きながら私はイヤホンから歌声を聴く。
それからハモリながら外を見る。
私は彼みたく音程が合ってない音痴だ。
だからこそ小さな声で鼻歌で歌う。
「...」
それから私は室内を見渡した。
私の家はマンションなのだが...実は私は1人暮らしだ。
何故そうなっているのか。
それは簡単だ。
私の母親と父親は...飛行機事故で亡くなった。
飛行機が落ちたといえる。
全員即死だったと思う。
125人乗っていた飛行機で遺体は見つかってない。
「あら?いい歌ね」
そんな事を呟きながらお姉ちゃんの山吹春華(やまぶきしゅんか)が入って来る。
7つ年が離れたお姉ちゃん。
今はOLとして働きながら私を支えている。
私を金銭面で救ってくれた恩人の1人だ。
彼と同じ存在だ。
「良いでしょ。これ。例の男の子のカバー曲なの」
「そうなの?...貴方は本当に歌が好きね。彼の」
「そうだね。私...彼に勇気を貰ったから」
「...そうね。あの頃の貴方は...顔が死んでいたから」
「お母さんとお父さんを失ってから何年か経っていたけどね」
私達は飛行機事故の後。
母方と父方の協議の末、施設に入れられる事無く母方の叔母さんに引き取られた。
叔母さんは私達を自分の子供の様に育ててくれた。
愛情を沢山注いでくれた。
それからお姉ちゃんが自立したのと私が学校に行くのを考え家を出た。
叔母さんは寂しがっており毎月20万円ぐらい送ってくる。
私達は断っているが叔母さんは「気にしないの」と送ってきていた。
そして食材も大量に送ってくる。
叔母さんは小金持ちだった。
「...全くね。幸子叔母さんは」
「あはは。断っているんだけどね」
「幸子さんにはお世話になってばかりよ」
「...そうだね。確かにね」
「...その分、私達が支えてあげないといけないね」
「そうだね。それは本気で思うよ」
叔母さんももう若くない。
今年で70歳だ。
だからこそ私達が...今度は叔母さんを支えて。
そして天国に居る母親と父親を満足させないといけない。
「...それはそうと...聞いたんだけど浮気されたんだよね?彼は彼女さんに」
「...そうだね。うん」
「それってチャンスじゃないの?」
「待って。チャンスって何が?」
「彼を横取りするチャンス」
「私が悪い子みたいじゃない」
「あれ?違うのかな?」
違う。
私は悪い子じゃ無いけど。
だけど彼が私の傍に居てほしいのは事実かもしれない。
考えながら私は前を見る。
そして窓から外を見る。
それからお姉ちゃんに聞いてみた。
「ねえ。お姉ちゃん」
「何かね。小春さんや」
「...私は...彼の事が好きなの」
「...そう」
「...私はアピールしても良いのかな。何だか...彼はそんな感じじゃない。そして彼は...彼は。傷付いている」
「...私としてはアピールは大切だと思っている」
そんな言葉を放ちながらお姉ちゃんは窓を開ける。
それから少しだけ涼しげな風に当たる。
そして笑みを浮かべた。
そうしてから私を見てくる。
「私ね。...後悔先に立たずだと思っているの」
「後悔先に立たず?」
「そう。常に後悔しないと。人生は突撃する事が大切って思ってる。それが成長だって思ってる」
「...いやいや。それじゃ銀行強盗とかも...」
「それは違うよ。まあ犯罪じゃない事をして後悔するの」
「...!」
「犯罪者になるのは駄目よ。...だけどそれ以外ならエンジョイしないと。人生は1度きりなんだから」
「お姉ちゃん...」と私は呟きながらお姉ちゃんを目を丸くして見る。
お姉ちゃんは「私は当時付き合っていた先輩にこう言われた。「山吹。人生は楽しまなきゃ人生じゃ無いって」ってね」と苦笑いを浮かべる。
それは...第一志望で落ちて自殺した...あの。
「...」
「...彼は彼なりに医学部の受験で悩んでいた。...だから自殺した。...私に人生論をした癖に皮肉だね」
「...そうだね」
「...だけど私はいつもその言葉が胸にある。だからこそ頑張れるの」
「お姉ちゃん...」
付き合っている相手に自殺なんかされたら私死んじゃうと思う。
そんな事を考えながら私は胸に手を添える。
それから「人生は災難だと思う」と言葉を発したお姉ちゃん。
そして私を見てくる。
「だけどその先に必ず栄冠はあるって信じてる」
「...」
「だから貴方は怖がらずに歩みだしなさい」
「...ありがとう。お姉ちゃん」
私はその思いを胸に入れつつ。
そのまま星空を見上げる。
そして流れ星を見た。
無数にあった。
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