第20話 考えなければならないことがたくさんある
翌日、魔物の討伐への出発直前にミカルとユウタ様と事前の準備と確認をしていると、ガラガラと豪奢な馬車が現れた。
馬車に王家をかたどった紋章があることに気づいてドキリとする。
馬車が停まり、飛び出すように降りたアイリス殿下がミカルに駆け寄った。
そのあまりの勢いの良さに少し驚きながらも、私とユウタ様は慌ててちょっとミカルたちから距離を取る。
「ミカル様!ああ、本当に魔物を討伐しに行ってしまわれるのですか!?」
「……王女殿下」
「あら、ミカル様。どうかわたくしのことはアイリスと呼んで下さい!それよりも、何もミカル様が討伐などと危険なことをしに向かわれることはないのではありませんか?」
両手を顔の前で組み、心配そうに下がった眉、ウルウルの上目遣い、ただでさえ可憐な王女はとんでもなく可愛くミカルのことを心配している。
ちょっと胸がずきりとした。
……まあ、そうなんだよねえ。ダミアン殿下に対しては「自分が戦わんかい!」と思っていたけれど、私が自分で戦う決心をした今、なにもミカルが戦わずともいいわけで。
私だって、可愛くて賢くて優しいミカルを付き合わせていることに罪悪感を覚えないと言ったら嘘になる。ミカルはここまで、軟禁生活を送らされたり、生贄にされかけたり、犠牲を強いられる人生だったので余計に。
ミカルがいると心強いのも本音だけれど、そんなのは私の勝手な気持ちでしかないよね……。
「どうかお気をつけてくださいませ!」
アイリス王女殿下の声にハッと我に返る。
同時にミカルが殿下から離れ、こちらへ近づいて来た。
「いいの、ミカル?」
「もちろんです。お待たせしてすみません」
ミカルは私の言葉を、「アイリス王女殿下とのお話はもういいの?」と受け取ったようだった。私が聞きたかったのは「このまま魔物を討伐に行ってもいいの?」ということだったんだけど……聞き直す前にユウタ様に促され、結局私達はすぐに出発することになった。
討伐に出かけても、私は少し上の空だった。
「レナ!魔物が……!」
ユウタ様の声と同時に背後から飛び掛かって来た魔物を振り向きざまにハンマーでぶちのめし、その隙に距離を一気に詰めてきた前方の魔物にも振りぬいた勢いを使って攻撃を一発入れる。
一息ついて、ユウタ様に視線を向けた。
魔物が……!の続きは何だろう?なぜか口をポカンと開けて驚いているように見えるけど……。
「ユウタ様、どうかしましたか!?」
「……いや、なんでもないよ、大丈夫。レナさんってなかなか豪快だよね」
「え?えへへ、そうでしょうか?ありがとうございます!」
もちろん、上の空とはいえそれは少しだけ。ちゃんと聖魔力で身体強化をしているし、全方位の魔物の魔力を同時に
核持ちの欠片や核の魔物が現れた時には、他にそうではない魔物たちも大勢湧いてくるのが普通だというから、こうして多数を相手にする練習もしておかなくちゃだよね。
「いや、普通は視界に入っていない魔物の魔力を見るなんてできないんだけどな……」
「ユウタ様?すみません、聞こえなくて。もう一度お願いします!」
「レナさんはそのまま頑張れ!」
「?はい!」
もちろん、やっぱりミカルのこと、アイリス殿下の言っていた言葉がずっと頭の中にぐるぐるとめぐっていて、思考は半分ぼんやりしているのは否めない。
だけどユウタ様に褒められて嬉しいので、もっと集中して頑張らなくちゃ!
「…………」
私は今後どうするべきかを考えるのに一生懸命で、ミカルが何か考え込むようにして私とユウタ様を見ていることには全く気が付いていなくて。
その後は「レナさんはなんかこう規格外だから、とにかく訓練あるのみだね」と言いながらユウタ様がミカルにつきっきりになっていたので、私は意識を集中しなくても常に魔物の魔力を視ることができるようにとにかく魔物を倒して倒して倒しまくったのだった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
ガリン国壁内に戻ると、先日ミカルだけが王城へ迎えられたのと反対に、なぜか私だけがガリン国王に「会いたい」と城へ招かれた。
ミカルと一緒にということなら分かるけれど、私にだけ話って何かしら?
私が聖女であることはガリン国王の耳には入っていないと思うのだけれど。それなのに私に話すことなどないような気がするのだけど……。
そう思いながら謁見に参じた私は、ガリン国王の思わぬ言葉に動揺してしまった。
「え……ミカル──ミカル殿下を、ですか?」
「ああ、ミカル殿をこのガリンにて保護したいと考えているのだ」
そう、ガリン国王の話は、ミカルをガリンで保護したいというものだった。
だけど、それをどうして私に?ミカル本人にはもう話したのだろうか?
話して、ミカルはそれを黙っていた?
……なんだろう、なぜか心臓が端からじわじわと冷えていくような心地になる。
ガリン国王の隣には、アイリス殿下も控えていて。私のことを困ったような目で見ている。
わあ……アイリス王女殿下はいつだってミカルを見つめている印象だから、こうしてきちんと殿下の視界に入るのは初めてのような気がするなあ。
どう答えたものかと黙ったままでいる私に、ガリン国王は諭すように話を続ける。
「ミカル殿にシメイズでの彼の境遇、ここに来るに至る話を少しは聞いている。しかし、大陸に危険が迫っている今、このガリンでミカル殿を保護するのが一番安全だろう。悪い話ではないと思うが」
それは確かにそうだ。
ミカルは言っていた。魔物は聖女の持つ聖魔力に強く引き付けられるって。そして、魔物が強ければ強いほどその影響が強くなるらしい。
それって裏を返せば、核の魔物が現れる可能性が高いのは、聖女の近くだということになるよね?
一番危険な場所は……聖女の……私の側、なのかもしれない……。
異世界から勇者召喚するくらいなら、私(ダメ聖女)が世界を救います! 星見うさぎ @hoshimiusagi333
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