第19話 強い魔物と戦うために必要な基礎的なこと

 

 数日後、さっそくユウタ様から戦闘のコツを教わることになった。

 ミカルとユウタ様は連絡は取り合っていたものの、顔を合わせるのはこれが初めてだ。


「初めまして、ミカルと申します。お会い出来て光栄です」

「こちらこそ、こうして会うことができてうれしいよ」


 ……ミカルって、本当にしっかりしているわよね。私よりも年下なのに、話しているとそんなことを全然感じさせないし。私ももっと頼れるお姉さんにならなくちゃ!


 ユウタ様の指導はすごくわかりやすくて、どんどん体を思いのまま動かせるようになっていく。

 きっともともと人を指導することに向いてるんだと思うけど、私が元日本人であることも鑑みて体の使い方を教えてくれるので、すんなり受け入れやすいのもいいんだと思う。


 ああ、お兄ちゃんとの格闘技訓練(私が望んでいたわけじゃないけど)を思い出すなあ。


 ハンマーの素振りを繰り返す私に、ユウタ様が声をかけてくれる。


「何事においても、基礎が大事だからね」


 その言葉に、いつかのお兄ちゃんの姿が重なる。

『何事においても基礎が大事だ!』


 お兄ちゃんも、そう言っていたっけ……。


 懐かしく思いながらも訓練に励む私のそばでミカルも指導を受けている。

 ミカルの場合は剣や魔法の基礎はばっちりなので、聖魔力の扱い方についてがメインだ。

 そして、2人で魔物の弱点についてもあらためて教わった。


「自分の中にある聖魔力を増幅させながら戦うと、魔物の魔力の流れが見えるんだ。魔物の体にはその流れが集まる部分があって、そこが弱点になっている」


 心臓に血液が集まるようなイメージだろうか。

 そこに近づけば近づくほど攻撃のダメージが入りやすいらしい。

 弱い魔物なら普通に戦っていても問題なく攻撃は通るし、勝ててしまうけれど、強くなればなるほど闇雲に戦っていては消耗するばかりになる可能性がある。


 核持ちの欠片や核持ちはもちろん『核』が弱点になる。

 そいつらと対峙するときには弱点を狙うことが何より大事になるはずだから、弱いままの相手でもそこを当然に意識てして戦えるようになるのが大事と言うことだった。


 おそらくとても基礎的な内容なのだとは思うけれど、実践的な知識は私にもミカルにもなかったので、すごく勉強になる。

 けれど、あまりじっくり時間をかけている余裕は多分ないのだと、なんとなく感じていた。

 魔物は増えているし、どんどん強くなっている。きっと、核持ちの欠片が現れるのはもうすぐだ。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



「魔力の流れを読み取れるようになるには実際に魔物と対峙するしかないから、明日からは魔物を相手にしに行こうか」

「はい!」


 魔物が弱いうちにそういう練習をした方がいいに決まっているし、もしもの時には私の治癒も使えるから、躊躇う理由はなにもなかった。実際ガリンに来るまでミカルと2人で戦ってきたわけだし。


「ミカル、頑張ろうね」

「レナはあんまり頑張りすぎないでくださいね」

「ええっ!どうして!?」


 心底心配だと言わんばかりの表情で言われて驚いてしまう。私、そんなに無茶をするタイプに見えているのかしら!?


「そうじゃないですけど、もしもレナが傷つくと僕が──」


「ミカル様!」


 ミカルの言葉を遮るように、高くて可愛らしい声が響く。


 振り向いて声の方を見ると、そこにはとんでもなく可愛い美少女がいた。

 艶々でピンク色のくるくるの髪に、エメラルドのような大きな瞳。手足は華奢で、うっかり転んだら折れてしまいそうで心配になるほど。透き通るような白い肌に、背はミカルより少し小さいくらいだろうか。


 なんって可愛い子なの!?

 お人形さんみたいだわ!


 一緒に振り向いたミカルが少し困ったように呟いた。


「アイリス王女殿下……」


 ええっ!王女殿下!?ガリンの!?


 た、たしかに、この可愛さ、か弱そうで庇護欲そそる感じ、着ているドレスや漂う高貴なオーラ……うん、どこからどう見ても王女だわ!


 でも、どうして王女殿下がこんなところに?


 アイリス王女殿下は首を傾げる私などには目もくれず、駆け寄ってきた勢いのままに、飛びつくようにしてミカルに抱きついた。


「うわっ!殿下!?」

「もう、ミカル様ったら!私のことは殿下ではなくアイリスと呼んでほしいと言ったじゃないですか」


 驚きながらもアイリス王女殿下を受け止めるミカルと、嬉しそうに満面の笑みを浮かべている王女殿下。


「おお……!」


 思わず感心してしまった。


 ──そういうこと!?そういうことなのね!?


 これでも前世は女子高生で、友達の恋愛話もたくさん聞いてきてますからね!「わー!とっても仲良しなんだね、にこにこ!」なーんて、とぼけたことを言うほど鈍くはないのだ。


 そういえば、ミカルはガリンの国王陛下に会いに行っていたわよね。

 きっとその時にアイリス王女殿下とも交流して親しくなったんだろう。


 ミカルもとっても美形だし、美少女であるアイリス王女殿下とはすごくお似合いに見える。



 ……あれ?

 すごく微笑ましい2人の姿を見ているのに、なんだか胸の奥がモヤモヤするような……?

 風邪かな?

 明日からは魔物を倒しに行くんだから、こんな時に体調を崩している場合じゃないのに!


 今日はゆっくりご飯を食べて、確か材料は持ってたはずだから簡易回復薬を作って早く眠らなくちゃ!



 そんなことを考えていると、ユウタ様がそっと近づいてきたて、小さな声で耳打ちしてきた。


「レナさん、大丈夫?」

「ええっと?何がでしょうか?」

「いや、大丈夫ならいいんだけど……」


 まさか、はたから見ても分かるほど体調が悪そうなのかしら!?


「はい、大丈夫です!訓練の疲れはちょっとありますが、聖女としてたくさん雑用していた頃に比べたら全然元気です!」


 明日は休みなさい!なんて言われても大変なので、必死に元気アピールをしておいた。

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