第17話 聖魔力の『器』を胃袋でイメージする聖女
もちろん、本気で滅ぼそうとは思っていないし、滅ぼせるとも思っていない。
シメイズ王国は腐ってもミカルの祖国だし、そこに暮らす人達だっている。
ただ、王家が滅亡して全く別の人が統治する国になればいいのに、くらいは結構本気で思っている。
「シメイズ王国のことより、ユウタ様はガリンへ来てどのように暮らしていたんですか?」
せっかくこうして話す機会が得られたのに、シメイズの悪口ばかり話していても仕方ないよね。
それに、忌々しい勇者召喚の被害者であるユウタ様のその後がとても気になっていた。
「俺は、当時この国の騎士団長だった人にシメイズ王国から連れ出してもらい、そのまま後見人になってもらったんだ」
ミカル殿下の乳母と連絡を取り合っていたのは騎士団長だったのか。
「その後見人がとてもいい人で……日本にいた頃、最後に優しくしてくれた恩人にも似ていて。それがよかったんだと思う。少しずつ両親の死から立ち直り、剣を教えてもらうようになったんだ。そのおかげで今は騎士としてやっていけてるよ」
「いい人に出会えたんですね」
「そうなんだ」
後見人のことを話すユウタ様はとても穏やかな顔をしていて、ガリンでの暮らしがいいものだったんだなとよく分かる。
日本にいた頃の恩人って、例の助けてくれた消防士かな?
「俺は後見人やその家族たちを自分の家族だと思ってるし、皆を守りたい。だから、本当は俺が勇者として世界を救えればよかったんだけど……実は、多分もう俺に勇者としての能力はほとんどないと思うんだ」
「そうなんですか?」
「多分、普通の人よりも勘がよかったり、特殊能力なのかな?って感じる力もあるにはあるんだけどね。一番大きな聖魔力の恩恵はそこまでないんじゃないかな」
自分の身体だからか、なんとなくそれを感じ取れるらしい。ゆるやかな体質の変化という感じで。
勇者の能力が時間経過で消えるものだなんて聞いたことがない。
だけど、確かにそうでもなければシメイズ王国だって、新しい勇者召喚を考える前にユウタ様を無理やりにでも連れてくる方法を考えたかもしれないよね。
私は全然知らないけど、これも聖女にはあえて教えるまでもないと思われてた内容なんじゃないかなとピンときた。
ミカルが帰ってきたら聞いてみよう……。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「異世界に降り立った後、一度も聖女の聖魔力を受けていないまま長い時間が経ってしまったからだと思います」
夜、ミカルに聞くとそう教えてくれた。
「勇者様は最初から聖魔力を持っているわけではないの?」
どうやら、そもそもの認識が間違っていたらしい。
元々聖魔力を身に宿しているのは聖女と呼ばれる女性のみで、勇者様はその聖魔力を受ける特別な『器』が宿っているんだとか。
聖女の癒しや魔法を受けた騎士や魔法士には少しだけ聖魔力が宿り、普段はその力で魔物と戦っている。
だけど、あくまで宿る聖魔力は『少しだけ』。おまけに、その少しの聖魔力も時間が経てば徐々に消えていってしまう。
けれど、勇者様は違う。
受ければ受けるだけ聖魔力を受け取れる。もちろん、それも無限ではなくて、聖女の力の上限によって限界はあるみたいだけれど。
そして、全ての聖魔力が消えることはないのだとか。
たとえば『器』が100あって、100力を受けて宿したとする。
普通の騎士や魔法士なら時間経過で0まで減ってしまうところ、勇者様は50まで減少すると、そこからは一切減らなくなる、みたいな感じらしい。
さらに聖女の力の上限、つまり強さで、その100のうちの密度が変わると思えばいいのかな。
勇者様にそんな特別な『器』が宿っているのは、異世界人であることが関係しているんだと思う。恐らくだけれど。
だけど、生き物の体は環境に馴染み、変わっていく。
何も入れないまま『器』を放置し続けると、この世界に適応して、100だったはずの器の上限が80、70、60……と減っていくのではないかというのがミカルの説明だった。
うーん……なんとか理解しようとしていたら、一度小さくなったら二度と大きくならない胃袋でイメージしてしまった。
これは前世のおじいちゃんのせいだと思う。食べることでイメージしちゃいがちなんだよね。
「じゃあ、どうして勇者様の子孫である王族は聖魔力を宿しているの?」
「勇者様の宿した聖魔力がなくならないので、生まれた子には50の『器』が備わっているのだと思います。もちろん、その50というのはたとえで、個人によってその大きさの差はあると思いますけど」
なるほど、さすがに勇者と同等は難しくとも、その何割かは持って生まれることができるということか。
これらはミカルが古い書物を読み漁った結果、そうではないかと解釈できた内容らしい。
ミカルってばめちゃくちゃ賢くて頼りになる……!
ユウタ様は本能的に理解できる魔物との有効的な戦い方などを教えてくれると言っていたので、頑張って身に着けないとね!
シメイズを飛び出した時から、私のやるべきことは変わらないのである。
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